食堂での寂しさと階段からの異世界迷宮
今日は食堂で昼食を取りながら、七不思議研究部の面々は、学校祭の打ち合わせをしていた。
「現在、4つの七不思議を調査できたから、その結果をテキストで纏めているんだ。後で、皆にも送るから、チェックしてくれると助かるよ」
そう先に口を開いたのは、玲玖だ。
「それを後で大きな模造紙に書いて、発表するんだよね。写真も既にプリントアウトしてるから、玲玖くんのテキスト来たら、それを書いてから、レイアウトを考えようって思ってて……」
舞華は、模造紙に清書する係だ。
「えっと、私は展示用の飾りを作ればいいんだよね? 普通に花や輪っかを作ればいいかな?」
サナの言葉に音紗がこくりと頷く。
「ええ、今の所はそれでいいわ」
「で、俺は先に舞華の書いたチラシを張ったり、配ったりすればいいんだよな?」
蒼士が言う。
「ちょっと大変かもしれないけれど、あなたしか出来ないことだから、頼んだわね」
と、音紗がそういうと、蒼士は任せろと、どんと胸を叩いて見せる。
ランチを食べ終えたら、今度は昨日のクッキーを食べながらの、反省会もとい、前回の調査のおさらいだ。
「昨日はなんだかんだで、被害者はゼロ。但し、舞華が危ない所だった」
玲玖が指摘する。
「でも、羅那くんが来てくれたから、大丈夫だったね。……ぱりぱり」
サナはクッキーを食べながら、にこにこと付け加えた。
「けど、サナ……その羅那っていったっけ? そいつ、本当にサナの知り合いなのか?」
「うんそうだよ。羅那くんは優しくて、最強なの。だから、大丈夫! きっと今回もまた、助けてくれるよ」
そう自信満々に答えるサナに、蒼士はムッとする。
「それにしても……サナのクッキー、美味しいな」
そう呟くのは、玲玖。不思議そうにクッキーを見ながら、またもう一枚食べた。
「私も私も! サナちゃんのクッキー、本当に美味しいよ! こんなに美味しいなんて、びっくりだね」
ぱしゃりとクッキーの写真を撮って、舞華は楽しそうだ。
「けど、残り数枚くらいになっちゃった……サナちゃん、また、一緒に作ってくれる?」
そういう舞華に、サナは嬉しそうに。
「もちろんだよ。またいっぱい、焼こうね。今度はもっと量が焼けるようになりたいな!」
両手を合わせて、満面の笑みを見せていた。
「あの、さ……それに僕も混ぜてくれないかな? その、あのクッキーの味が忘れられなくて……妹も喜んでるんだ」
どうやら、玲玖もまた、以前よりもクッキーの印象が変わった様子。もしかしたら、意識が変わったのかもしれない。
そう思うと、サナは思わず笑みを浮かべて……。
「うん、一緒に焼こう! 簡単だから、今度、一緒に楽しく作ろうね!」
この『約束』が嬉しい。今まで、こういうことしたことなかったと思う。
だからこそ、嬉しくて仕方ない。
でも……。
(ここに羅那くんがいないのが……寂しいよ……)
きっと、ここに居てくれたら、一緒に楽しんでくれると思うのに……サナには、それが少し寂しく感じてしまったのだった。
――旧校舎の三階から四階へと続く階段。
夜になると、その階段が忽然と消える。
生徒が踏み入れれば、迷路状の異空間に取り込まれるという証言もあった。
それが、第五の七不思議。
夜。また七不思議研究部の面々は、旧校舎を訪れていた。
「今日は……誰も潜入していないようね」
誰かが入った形跡がないようだ。音紗がその形跡がないことを確認してくれた。
「じゃあ、俺達が一番ってことか。なんか、もう何があっても可笑しくないよな?」
と、蒼士が言う。
「そ、そういえば……この旧校舎って、こう……すんなり入れるところなの?」
ふとサナは指摘する。
「本当なら、ここは封鎖されている筈なんだ」
「老朽化で取り壊される予定だって聞いてるわ。ね、みんな」
玲玖と舞華が言う。
「え……じゃあ、私達が入れるのは……」
「誰かが開けてくれているから……かもしれないわね。いつもこの時間になると開いているから」
音紗の言葉にサナは、そこに違和感を感じたのだった。
玲玖が大型タブレットで周囲を調べている間、舞華は、周囲の様子を写真で撮っていた。写真と動画とで……。
「到着したけど……」
「何も起きていないみたい……?」
何も消えていないし、何かが現れているわけでもない。
だが、その階段先から、異様な『何か』を感じている。
とそのときだった。
「よし、俺が行く!!」
「ちょっと、待ちなさい!!」
蒼士が飛び出し、音紗が止めようとして、止めきれない。何故なら、吸い込まれるような力が働いたからだ。
「ちょっと、二人とも待って!!」
「タブレットが変な反応しているっ!!」
「まだ、行っちゃダメ!!」
研究部の面々が揃って、その階段に足を踏み入れた時。ぐにゃんとすぐさま姿を変えた。周りが見知らぬ、迷宮へと変わった。
「えっ……これって……!?」
「……異世界迷宮ね……」
サナの言葉に、音紗がそう答えたのだった。
かつんかつんと、廊下からやってくるのは、学生服を着た羅那だ。
「また逢えたね……サナ。待っていたよ。けど、その中に居たら、ちょっと困っちゃうよね。そこから助け出してあげるね」
少し背の伸びた羅那が、異空間の中で揺らめく階段に触れる。
「サナ、おいで……僕の大切な……サナ……」
自身の力を入れて、サナを呼び戻そうとして……。
「はわっ!! な、なんか、引き寄せられてる!?」
異世界迷宮に入って、しばらく経っていない。だが、それでも、異世界の力の所為か、皆の体が重く感じていく。
(恐らく私達の生気を奪っているのだと思うのだけれど……サナが呼び寄せられているというのなら……)
「皆、サナに掴まって! 急いで!!」
「はわわっ!! ちょ、音紗ちゃん!?」
サナの腕や胴に四人が捕まる。と、そのとき。
――ぶわんっ!!
「……なるほど。重いと思ったら……君達も一緒だったからか」
旧校舎に戻れた。
「ら、羅那くんっ!!」
サナがすぐに、嬉しそうに羅那に抱き付いてきたので、不機嫌なのはそこまでだった。羅那は嬉しそうにサナを抱きしめる。
「また背が伸びたね! えっと、私と同じくらい?」
「……まだ足りないみたいだね。早くサナを包み込めるようになりたいな」
と、羅那はそっと後ろからサナを抱きしめる。
「はわっ!! み、皆が見てるからっ……!!」
そう慌てるサナに、羅那はくすりと笑って見せる。
「あっ……ごめん、また、サナを助けるために、力を使い過ぎたみたいだよ……」
と、羅那がぐったりしてしまった。
「そういえば、私を助けるためにまた……力を使ったんだよね? なら、また力をあげるね」
さっそくサナが羅那へと力を分ける。
音紗はそれを静かに見守っていた。
力が無くなるというのは、分かる。だが、それで力が欲しいというだろうか?
何か、違和感を感じるのは、気のせいだろうか?
「ありがとう、サナ。これでまた、力が戻りそうだよ……それとね、今日は一つ、お願いがあるんだ」
にっこりと微笑みながら、羅那は続けた。
「そのペンダントを、僕にくれないかな?」
「えっ……!?」
『受け取ってくれるかな? ……君に持っていて欲しいんだ』
『どうしても。……君を守るお守りだから、かな?』
大切な思い出が詰まった、大切なペンダント。だからこそ……。
「ごめんね、羅那くん……せめて、一日、待ってくれないかな? これ、思い出のペンダントだから……ちゃんと、お別れしたいの……」
サナはそう言って、大切なペンダントに触れる。
「そう……わかった。明日にはくれるんだよね?」
「うん」
その言葉を聞いて、羅那は納得したようだ。サナは少し寂しそうにしながらも、その鳳凰のペンダントを持っている。
(あのペンダントって……確か、浅樹家に伝わる大事なペンダント? なら、どうして、彼はそのペンダントを……まさか、彼の正体は……)
音紗はここで、羅那の正体に近づくことになるのだが……。
「サナ、また逢おうね。その時は、そのペンダントを」
にこりと笑うその顔を見て、音紗はぞくりと寒気を感じた。
「僕に渡してね」
月明かりの下。
また少し、背が伸びた羅那は、綺麗な夜空を見上げて哂っていた。
「後もう少しだね」
愛しそうに羅那は続ける。
「僕のサナ……明日で君は、完全に僕の物になる。楽しみだよ……」
その片手を空に伸ばして、その蒼い瞳を細めた。
「僕と一緒になって……その力を僕にちょうだい」
そう羅那は告げたのだった。




