表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミッドナイト・リィンカーネーション ~運命に選ばれた彼と恋をして世界が変わりました~  作者: 秋原かざや


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

115/120

サナとクッキーとプールの異形ともう一人の影

「蒼士くん、それは本当なのね?」

 翌朝、蒼士はすぐに音紗に報告しに来ていた。

「ああ……間違いない。あいつは、サナのことを知ってた。名前も……たぶん、サナのこと全部知ってると思う」

 そう真剣な目で言う蒼士の言葉に、音紗は静かに頷いた。

 蒼士の表情は険しい。

 普段の軽さはなく、真剣そのものだった。

「その少年の名前が……」

「浅樹羅那」

 どこかで聞いたことのある名前だ。気のせいだろうか。ここに来てから、少しずつ記憶が薄れてきている。

 だからこそ、マメにメモして覚えるようにしている。

 少し体が辛い時にだけ、サナから貰ったクッキーを食べて繋いでいる。

 時間感覚も、実は正直、分からなくなっている。

 サナのクッキーのお陰で、少しずつ、感覚が戻ってきているような気もするが……。

 ふと、そのサナの方を見れば……。

 ぼんやりと虚空を見つめ、呼びかけにも反応が鈍い。

「サナちゃん?」

 舞華が心配そうに声をかける。

「……え? あ……うん……」

 返事はする。

 けれど、その声には生気がなかった。

 まるで、大切な何かが抜け落ちてしまったかのように。

 音紗は静かに近づくと、いつも身に着けていたポーチからクッキーを一枚、取り出した。

「サナ、口を開けて」

「えっ……あーん」

 開いた口の中に、ぽんとクッキーを入れた。

「もぐもぐっ!?」

 強制的に食べさせられて、サナは困惑するも……しかし。先ほどのぼんやり感があっという間に消え去った。

「はわわ……美味しい……もう一つ食べたいな……」

「なら、あなた……自分で作りなさい。家庭科室借りてあげるから、作り方、知ってるんでしょ?」

「任せて、ばっちり、たくさん作るよ!」

「ええ、大量にたくさん作りなさい。これでもかというくらいにね……」

 と、楽しく、ガンガン、サナは家庭科室でこれでもかとクッキーを作っていっている。

「俺も手伝うよ!」

 蒼士もサナと一緒にクッキーを作るのを手伝っていく。

 音紗も、こっそり、出来たばかりのクッキーを一つ齧って、意識がはっきりするのを自覚する。

「ちょっといいかしら、蒼士」

「んん……なに?」

 ぱこぱことクッキーを型で抜きながら、蒼士が顔を上げた。

「あなた、サナを守りなさい。守り切れなかったら、きっとそこで全部が終わるわ」

「なんだよそれ。けど……守るよ、俺」

「それでいいわ。頼むわね」

 しっかりと蒼士が頷いたことを見て、音紗は安堵する。


 どこかで聞いたことのある、あの名前。

 けれど、何故かホッとできない。サナが知っている、向こうの少年もサナのことを知っている。

 ならば、何か良い結果を得られるはず……なのに、なぜ、こんなに胸が騒ぐのか。

「私も、その子に会いたいわ。……羅那って言ったわよね?」

 音紗はそう呟いて、旧校舎の方を見つめたのだった。




 ――野外にあるプール。

 放課後を迎えたプールでは、誰もいないはずなのに水面に人影が映る。

 水面に触れた生徒は、数分間水中に沈んだような感覚に陥り、意識がぼんやりして行方不明になる。

 もし、そのプールの中に入れば、時間や空間の感覚が歪み、生徒は校舎内で迷子のように行動するという。


 それが、第四の七不思議。



 四人は、また夜の学校にやってきていた。

 目指すは野外プール。

「今の所は……誰も来ていないようね」

 その音紗の言葉に、皆はホッとする。今回は助ける対象はいないようだ。

「なら、調査に集中できるわね。しっかり、進めるわよ」

「了解! 私もしっかり写真を撮っていくね!」

 プールにたどり着いた舞華は、さっそく、プール内を撮影していた。と、そのときだった。何かに足を引っかけて。

「えっ……」

「舞華!?」

 近くにいた玲玖がプールに落ちそうになった舞華に手を伸ばすが、間に合わない。


 ――ざぱーんっ!!


「大変っ!!」

「た、たすけ……がばごぼ……!!」

 普段ならば、すぐに起き上がって、出てくるはずだった。しかし。

 舞華の周りには、無数の手が出てきて、彼女をどんどんと、プールの中へと引きづり込んでいく。

「私、行くよっ!! 助けないと!!」

 ざぶんと、サナが飛び込もうとした……そのときだった。


「危ないよ、サナ」


 それを止めたのは、あの羅那だった。昨日、出会った時より、少し背が高くなったように感じるのは、気のせいだろうか。

「羅那くん!! 止めないで! 今、舞華ちゃんがプールに引きずり込まれてて……」

「僕に任せて……」

 ふわりと、プールの上に浮かび、手を翳す。

「その子から、離れるんだ」

 いつもより、低い羅那の声が響く。

 びくりと、舞華を抑えていた無数の手が震えた。まるで、羅那を恐れるかのように、さあっと逃げ出していく。

 そして――消えた。

 それと同時に、舞華が浮き上がり、そこを蒼士と玲玖が舞華をプールから引き揚げ、無事に助け出すことが出来た。

「けほけほ……た、助かった……」

 まだ完全ではないものの、舞華は大丈夫そうだ。蒼士と玲玖が二人で舞華を介抱している。

「大丈夫? 無理しないでね?」

 そういって、サナはさっそく、治癒の力で舞華を復活させていて……。

 それを、明らかな嫉妬を宿した瞳で見つめているのは、羅那だった。

 と、ぐらりと羅那の体が揺れて、倒れそうになる。

「ら、羅那くんっ!!」

 それに驚き、サナが羅那を支えた。

「無事でよかったよ……けど、力を……使い過ぎちゃったみたい」

「それは大変だよ! すぐに羅那くんも癒してあげるね」

 サナは気づいていない。癒す力が先ほどの舞華よりも遥かに多いことに……。

 そのことに羅那は、笑みを浮かべた。

 満足そうに――その蒼い瞳を、細めて。


 蒼士は、舞華を抱えながら、その光景を見ていた。

 今回、やつは、舞華を助けた。

 サナを守った。

 ――本当に、敵なのか?

 昨日は、嫌な気配を感じたし、今もその気配は変わらない。

 けれど、目の前の羅那の行為に、助けたというその行為に戸惑いを隠せない。

 その隣で音紗は、興味深そうに彼らを眺めていた。

 姿を見て、まだ、確定したというわけではないが……。


(浅樹家の、退魔師……確か、浅樹家は……最強の退魔師を出しているところ……)

 だから、自分達の味方になりえる……はずなのに、音紗の勘がそれは違うと教えてくれている。

 なら、目の前の少年はなんなのだろう?

 もしや、目の前の、『羅那』は……。

 一つの仮説を生み出し、音紗は思わず、ため息をついたのだった。




 また、羅那は一人になった。けれど、その手には、欲しかったサナのクッキーがある。

「やっと手に入った。嬉しいよ、サナ」

 ぱくりとそのクッキーを食べて、少し嫌な顔をする。

「力はあるけど、ちょっと痛いな」

 けれど、羅那はそのクッキーを全て食べきった。また少し、背が伸びた。

「サナ、また君に会いたい。今度はサナの全てが欲しい。その為には」

 ふっと揺らめくプールの水面を見つめながら、羅那は続けた。

「あの忌々しい『ペンダント』が邪魔だね」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ