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ミッドナイト・リィンカーネーション ~運命に選ばれた彼と恋をして世界が変わりました~  作者: 秋原かざや


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アラスカ奥地での激戦

 空は、ずっと夜の色をしていた。

 極夜のアラスカ。吹き荒れる雪と風が、視界も音も奪っていく。


 ――数が、多すぎる。


 その中で黒一色で纏めた装いでその青年は立っていた。

 目元はミラーシェードで隠している。

 そして、時折緑にも見える艶やかな黒髪を靡かせて、自身に向かってくる……『異形』の化物と対峙していた。

 既に奴らとの戦いは、優に数時間を越えている。


 青年は浅く息を吐き、歯を食いしばった。

 視界の端で、異形が動く。正面にも、背後にも。

 一体一体は強くない。だが、休む間もなく押し寄せてくる。


「……っ」


 一歩踏み込んだ瞬間、脇腹に衝撃が走った。

 熱。鈍い圧迫感。

 だが、痛みは感じない。

 ついさっき、鋭い角を持つ敵に、脇腹を突かれたことを想い出して、煩わしい痛みを――切った。

 脇腹だけではない、たぶん、その前にどつかれた時にあばら骨も折れた気がする。

 意識の奥で、そう判断する。

 痛覚を遮断しなければ、とっくに立っていられない状態だった。


 血の匂いが、冷たい空気に混じる。

 腕は重く、足の感覚も曖昧だ。

 それでも、剣を振るう手と、詠唱する声は止めなかった。


「羅那!」

 低く響く声が、嵐を割って届く。

 後方で、銀髪の壮年の男性が声をかけたのだ。

「何、父さんっ」

 思わず青年が、いや羅那と呼ばれた黒づくめの青年が声を上げた。

 銀髪の壮年は、青年によく似ている。背丈もそして、二人の纏う雰囲気やそのプレッシャーも。

 そんな翔が、背後から前線へ踏み込んできた。

「まだ、いけるか!」

 最後にもう一発、どでかい花火を……いや、高威力の魔法でもって、勝負をかけるようだ。

「……問題ないよ。こっちも仕掛ける」

 正直言って、かなりキツイ。

 立ってるのでさえ、数分前にかけた魔力で強化しているところだ。


 一人では、もう限界だった。

 だが二人なら――。


 羅那は空に不気味に輝く月を見上げた。そして、右手を掲げる。

 ぶわりと羅那の周りに紫色に輝く光が集まっていく……。

「フル・ムーン、オーバーラップ……」

 羅那の足元に、赤黒い月光の魔法陣が展開する。

「我が身を代価に、行く手を阻む影を――繋いで、断て! 月禍・血月連鎖ブラッド・ルナ・カスケード!!」

 月光を含んだ赤黒い光が、羅那の目の前にいた異形を切り裂いた。いや、それはそれだけでは終わらなかった。


 連鎖。

 拡散。

 加速。


 敵が多いほど、戦場全体が血の月光に貫かれていく。


 代償として、羅那の身体は限界を超えて削られる。

 それでも、彼は詠唱を止めない。


 それを見て、翔も同じく、力を込めていく。

「イン・ノミネ・ルクス……」

 眩い光が翔の体に次々と収束していく。

「世界よ、ここに在れ。そして――邪な影の全てを拒め、天封・白界崩壊サンクトゥス・ドミニオン!!」

 翔が詠唱を終えた瞬間、戦場一帯の空間が鮮烈な『白』に塗り替えられる。


 音が消え、風が止まり、敵の異形だけが、光の中で輪郭を失っていく。

 破壊ではない。

 『存在を許可されなかった』かのような消滅。

 味方は、ただ白い静寂の中に立っているだけで済む。

 戦いは、翔の意思ひとつで終わる。

 ――そして、それは叶った。



 時間の感覚は、とうに失われていた。

 ただ、嵐が止み、異形の気配が完全に消えた瞬間だけは、はっきり覚えている。

「……終わった、か」

 翔の言葉に、羅那は膝をついた。

 遮断していた痛覚が、じわりと戻り始める。


 遅れてやってくる痛みと疲労。

 視界が暗く揺れ、冷たい地面に手をついた。

「よくやった」

 翔の手が、肩に置かれる。

 その重みだけが、今は現実だった。

「はぁ……死ぬかと思ったよ。もう、こんなのは勘弁して欲しいな……もう無理」

 弱音を吐く羅那に翔は苦笑する。

 まだ、経験浅い羅那にとって、この戦いは、きっと糧になるだろうと翔は思っていた。

「だが、これを知っていれば、また勝利に近づく。覚えて置け」

「忘れられないよ、こんなの……」

 そう羅那が言った瞬間。

 突然、翔の胸に入れていた携帯が震えながら、音を鳴らしていた。

「なんだ?」

 日本に置いていた、後方支援部隊からの連絡だ。

「何があった?」

 翔は嫌な予感を感じながらも、その電話を受けて、ありえないくらいの表情を変えた。

「……とう、さん……?」

 いつも冷静に物事を処理する翔が、これほどまでに表情を変えるとは思わなかった。


 驚愕。

 そして、酷く……酷く悲壮な顔を浮かべていた。

 今すぐにも崩れ落ちそうになるのを、必死に堪えているような、握る拳には、血が滲むようだった。

 一通りの報告を受けて、翔はしばらく言葉を失っていたが、絞り出すように、羅那に告げる。

「……日本でも、同時多発的に、襲撃があった」

「えっ……」

「被害は……大きい。だが、鎮圧は完了している」

「それなら……」

 問題ないのではと、言うつもりだった。が、しかし、次の翔の言葉にその声は消え去った。

「第一部隊が全滅した。流斗りゅうとのいる、部隊だ」

「う、嘘……でしょ?」

「……死者多数。それに、流斗は……俺の、親友……だった」

 翔は、それ以上、言葉を続けなかった。

 ただ、通信端末を強く握りしめている。

 羅那もまた、その犠牲の意味を理解していた。

 翔が一番信頼を置き、かつ、一番強力な戦力を有する部隊が……全滅したのだ。

 このアラスカの地も、そして、遠く日本でも平和は守られた。けれど。


 雪は、何事もなかったかのように降り続いていた。

 勝利の夜は、あまりにも静かで、冷たかった。


 ――そして、5年の月日が過ぎた。



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