第4話
会社を出て駅に向かって5分ほど歩いたところで、後ろから呼び止める声が聞こえた。
「間宮さん!待ってください!」
振り返ると橘さんが息を切らして走ってきていた。
「え、橘さん...?ごめん、俺会社で何かやらかしてた?」
「えっ?いや、そうじゃなくて!たまたま間宮さんが見えたからよければ一緒に帰りたいなと思って!」
「ああ、そっか...!」
近くに会社の人が見当たらないのを確かめてから、
「橘さんも電車だっけ?」
「はい!◯◯駅経由で帰ります!」
「あ、じゃあ方向一緒だね。」
「そうなんですか!じゃあ一緒に行きましょ!」
橘さんと話しながら帰っていて、彼女が多くの人に好かれる理由がよく分かった。相手の言うことを否定せず、こまめに相槌も打ってくれ、自分の話をする時も喜怒哀楽、特に笑顔をハッキリ示す、一緒にいてとても気持ちが良い人だと感じた。
ふと、電車に貼られたポスターを見て橘さんが、
「あ、花火大会やるんだ!10月って結構遅いですよね?」
「ほんとだ。寒すぎも暑すぎもしないし、外でのイベントにはこれくらいの時期が丁度良いのかもね。」
「今年花火観に行けてないんですよねえ...。間宮さんは観に行かれました?」
「いや、俺はここ数年行ってないな。」
最後に花火大会に行ったのは高2の時だろうか。受験を終えて大学に入ったのはいいが、アルバイトでやっていた塾講師の仕事が忙しく、久しく行っていなかった。もっとも、一緒に行く人がいないというのが大きいが。
「...間宮さんは彼女さんとかいらっしゃらないんですか?」
「え?ああ、いないよ。」
「学生時代とかは?」
「高校の時と大学の時にそれぞれ付き合ったことはあるんだけど、2人とも半年くらいで別れちゃって。」
「えー!間宮さん優しいし、長続きしそうなのに!」
「優しい」、ね...。
昔から色々な人に言われた言葉。褒め言葉ではあるが褒め言葉として使わない人もいる言葉。
僕は「優しい」と言う言葉が嫌いだ。勿論、褒めてもらえるのは嬉しい。性格に言えば「優しい自分」が嫌いだ。
人には優しくするように心がけてきた。しかし「優しい」という言葉ほど、広義且つ都合の良い言葉もなかなか無い。捉えようによっては「八方美人」「都合がいい」「つまらない」と思われることもあるだろう。自分はまさしくそういう人間なのではないかと思ってしまうのだ。
「...さん、間宮さん?」
「!」
「ごめん、何か言った?」
いつの間にか橘さんがこちらを覗き込んでいた。
「あの、よかったらこの花火大会、一緒に行きませんか...?」
「えっ?俺と?」
「あ、ええと...ほら!仕事手伝っていただいたお礼ってことで!」
「お礼ならお菓子を貰ったけど...」
「あ、そっか...、でも妹もお礼言いたがってたので!私と妹と3人で!」
ずいぶん律儀な妹さんだな...?
「そういうことなら、橘さんさえよければ。」
「ほんとですか?ありがとうございます!」
細かいことは後々決めることにして、その日は解散することになった。
家の近くまで帰ってくると、公園のベンチに1人腰掛けている女性に気がついた。時間はもう19時を回っているが、1人で何をしているのだろうか...。
関わらないようにしよう...。そう思って公園の前を通り過ぎようとした時、
「ねえ、そこのお兄さん!」




