44話 アカデミー襲撃 1
会場の上段、関係者席からも少し離れた暗がりの一角。
スーツを着た男が腕時計型の通信端末にそっと触れる。周囲の騒がしさとは対照的に、男の瞳は冷たく、焦点はモニターに映るシオンの機体にしっかりと定まっていた。
「……間違いない。あれで確定だ」
通信の先に誰かが頷いたのか、男は静かに言葉を続けた。
「――始めろ」
その瞬間だった。
轟音とともに、会場の外周で爆発が起きた。
続けざまに、遠方の防衛壁で何かが破壊されるような鈍い音が響く。
一瞬、誰もが何が起きたか分からず言葉を失う。
「な、なんだ今の音……?」
「え、ちょっと待って――!」
ざわつく観客たち。スタッフたちが混乱しながらも避難誘導を始めた。
「侵入警報!?外部からの強行突破……!?嘘だろ……!?」
巨大スクリーンがノイズに覆われ、セキュリティシステムのアラートが全館に響く。
直後、映像が切り替わり、オートマタ群が次々に構内に侵入していく様子が映し出された。
「未登録IDの複数機体が接近!」
「アカデミーが……襲撃されてる……!?」
戦場の静けさが、今、戦慄へと変わる。
晴れやかだったクランバトルの祭典が、悪夢のような現実へと変貌を遂げた瞬間だった。
爆音と混乱が渦巻く中、シオンたちのUIに緊急通信が届いた。
画面にはアカデミーの紋章が瞬き、緊張したオペレーターの声が響く。
「緊急事態発生。クランバトルは中止。すべての戦闘可能機体は迎撃態勢に移行せよ。繰り返す、迎撃態勢に移行せよ」
続けて、区分けされた指示が一斉に流れる。
「1年目および3年目のクラン、ならびに3年ソロパイロット・教官・教師は、アカデミー内に侵入したオートマタ群の迎撃に当たれ。
2年目および4年目のクラン、4年ソロパイロットは、アカデミー外周の未確認機体の排除に向かえ」
情報を読み取ると同時に、リリアがすでに判断を下していた。
「シオン、フラワ、行くよ。格納庫まで急ぐわ」
混乱する観客とスタッフを避けながら、三人は裏手の通路を駆け抜けていく。リリアが後ろを振り返り、二人に力強く言葉をかけた。
「大丈夫。あなた達はもう“実戦”を経験してる。だから、怖がらなくていい。――私が絶対に守るから」
その言葉に、シオンは少しだけ頬を赤らめながらも笑みを浮かべた。
「はい……頑張ります」
一方、フラワは前回の任務で負った精神的な傷を完全には癒していなかった。
しかし、それでも前を向くしかない。唇を引き結び、小さくうなずく。
「……わかってる。やるしかないんでしょ」
格納庫に響く警報音の中、シオンの機体が静かに起動する。
操縦席に深く腰を下ろすと、目の前のディスプレイにシステムログが走る。
その瞬間、どこか冷静で、それでいて頼りがいのある声がコックピット内に響いた。
『メインシステム、起動。
敵性存在:AI兵器との戦闘を想定――戦闘モードへ移行。
武装構成、変更――
主兵装:中距離ライフル。副兵装:近接マシンガンに切り替え。
AIコントロールレベル:10%。オペレーション優先権はパイロットにあり。』
「……よし、行こう。トール」
『了解、シオン。きみの判断に従い、最適な補助を行う。』
重厚なフレームがゆっくりと持ち上がり、格納庫内にわずかに振動が走る。機体のセンサーが環境データを一斉に取得し、戦場となるアカデミー区域のマップが展開された。
同じく出撃準備を整えるフラワの機体が隣に立ち、さらに数秒遅れてリリアの機体も始動する。
『3機、出撃準備完了。各機、リンク状態良好。』
リリアから通信が入る。
「シオン、フラワ。アカデミー内に侵入したオートマタの排除が最優先よ。私はあなたたちの前線を支援するから、安心して進んで。……大丈夫、あなたたちはもう実戦を経験してる。だから、信じてるわ」
「……はい!頑張ります!」
「……了解。任務、遂行するわ」
格納庫の扉が開き、混乱する学生たちの姿が広がっていた。
そこに向けて、シオンたち3機は、疾風のように出撃していく。
AIトールの声が再び静かに響く。
『戦闘モード、完全移行。これより戦闘領域へ突入――始めよう、我々の戦いを。』
嵐のような戦場へと。
戦う覚悟を胸に――。
ここから結構長いです(;^ω^)
お付き合いよろしくお願いいたします。




