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ディメンション・ノヴァ  作者: 酒本 ナルシー。
4章 動き出す歯車

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42話 ロールアウト

クランバトル当日。

アカデミーの敷地内は、普段とはまるで別世界のように賑わっていた。

来賓席にはスポンサーや上層部の人間が並び、その周囲には招待された観客や関係者、さらには一般開放されたエリアに集まった人々で溢れている。

試合の合間には軽食やグッズを売る露店、パフォーマンスや音楽なども展開され、学園全体がまるで一つの大きな祭のような空気に包まれていた。


リリアたちの試合は午前中に組まれていたため、出場クラン「ネブラ・フレア」のメンバーはすでに控え室で装備と最終確認を済ませ、落ち着いた雰囲気の中、出番を静かに待っていた。


そこへ届く一通の通信。

シオンのUIに、見慣れた差出人の名前が浮かび上がる。


「セナ……?」


画面が開かれると、白衣をまとい、研究室と思しき場所からセナがこちらを見ていた。

その表情は、いつものような冷静さの奥に、どこか優しい色が混じっている。


『おはよう、シオン。今日はいよいよね』

『……私は立ち会えないけど、あなたの力は十分わかってる』

『今日は……やりたいようにやっていいわ。機体も、きっと応えてくれる。』


シオンは小さく頷き、画面を見つめたまま言葉を返した。


「……ありがとう、セナ。やってみる」


『うん。──楽しみにしてるわ。』


通信が切れると同時に、AIトールが静かに口を開いた。


『……いい許可が出た、シオン。それならば、今日は色々試していこう。

 あの機体なら、きっとついてくる』


「うん。初陣には最高の日だ」


会話の余韻が残る中、控え室のドアが勢いよく開く。


「やあ、調子はどうだ?」


現れたのはカイ。そしてその後ろにエルナとジークの姿もあった。

顔を見た瞬間、場が一気に明るくなる。


「カイ! 本当は出たかったでしょ?」

リリアがそう言うと、カイは肩をすくめながらも柔らかく笑った。


「それはな。でも機体の修理がまだ完全ではなくて。

 無理して壊すより、ちゃんと万全の状態で出たほうがカッコいいだろ?

 それに……フラワを一時とはいえクランに入れてくれてありがとう。助かったよ」


フラワは照れくさそうに笑いながらエルナの方へ目を向ける。


「エルナ、頑張るから見ててね。終わったら一緒にいろいろ回ろう。あっちの屋台とか楽しみにしてたし!」


エルナは少し恥ずかしそうに頷いたあと、「うん、待ってる。」と微笑んだ。


ジークは真っすぐシオンに目を向け、落ち着いた口調で言う。


「……フラワのこと、頼んだ」


「任せてください。フラワは絶対、守りますから」


短いが確かな信頼が交わされる。


リリアはそんなやりとりを見守りながら、あらためて三人に向き直る。


「……来てくれてありがと。

 カイも、ジークも、エルナも。あなたたちの分まで、ちゃんと戦うから。

 楽しんで、見ててね」


「当然さ。しっかり暴れてこい、隊長」


そう言ってカイは笑い、リリアの肩を軽く叩いた。

そして、モニターに表示される出撃時刻が、残り数分を告げる。


騒がしい控え室の空気が、少しずつ戦場の静けさへと変わっていく。


やがて、リリアは静かに言った。


「行こう。──ネブラ・フレア、出撃準備」


試合開始を目前に控えたクランバトルの特設会場は、すでに満員の観客で埋め尽くされていた。

かつて静まり返っていた同じ空間とは思えないほどの歓声と熱気。以前、シオンがリリアと模擬戦を行ったときは、わずかな観客と教官だけが見守る寂しい光景だった。しかし今日──その様相は一変していた。


リリアが「ネブラ・フレア」を率いてクランバトルに出場する──その情報は、数日前からアカデミー内外に広まり、スポンサー筋の動きも活発になった。特に彼女の名を冠する企業の関係者たちは一斉に席を押さえ、重要人物たちが続々と来場していた。


そして、それ以上に目立ったのが、リリアのファンたちだった。

彼女の姿を一目見ようと、学生、企業関係者、そして一般の観客までもが列をなし、場内には応援用のパネルやペンライトまで持ち込まれている。


だが、今回の観客の視線は──それだけではなかった。


観客の一角、特にアカデミーの生徒たちが集まるエリアでは、ある名前が静かにささやかれていた。


「……あれ、あのDクラスの子だよな? シオンって」


「前は笑いものだったけど……カイ先輩たちを助けたって聞いた」


「リリアが直接クランに入れてるし、もしかしてすごい奴なんじゃ……?」


ほんの少し前まで、Dクラスの生徒が試合に出るなど嘲笑の的でしかなかった。

だが、前回の実戦ミッションでの働き──カイ、エルナ、ジークを見事に救出したこと。そして今、リリアの隣に並ぶ姿を見て、生徒たちは徐々にその印象を塗り替え始めていた。


この日、シオンは単なる“Dクラスの異物”ではなく、“何かを持つ者”として注目を浴びていた。


観客席からの無数の視線。期待と好奇、そしてまだ拭えぬ疑念。

そのすべてが、今──試されようとしている。


やがて、出撃順が迫り、クラン「ネブラ・フレア」の機体群が搬入ゲートを通って姿を現した。


観客席にどよめきが広がる。

特に学生たちの目を引いたのは、その最後尾に現れた一機だった。


「……え? あの機体、なんだ……?」


「カラーリング、あれ専用機だろ。いや、待て、あれ──まさかの新型か?」


「でもあのパイロットって……シオン、Dクラスの……」


瞬く間に騒然とする観客席。

漆黒の装甲と流線型のシルエット、背部に搭載された独特の可変スラスター──その全てが、見る者に「只者ではない」と直感させた。


そして、観客たちはすぐに気づいた。


あの機体は、エリートクラスにすら数えるほどしか支給されていない、特別特化型の専用機。

機体の設計思想、装備構成、OSの挙動までもが、選ばれた者だけに許される領域にある。


それが──Dクラスのシオンに渡されているという現実。


「……なんでだよ、あいつDクラスだぞ」


「ふざけんな、専用機ってことは、スポンサーでもついたってことか?」


「いや、違う。あれ……支給印が入ってる。公認の専用機だ」


「うそだろ……じゃあ、“上”が動いてるってことか?」


疑念、嫉妬、驚き──様々な感情が入り乱れるなか、ただ一人、機体を前にしていた当の本人──シオンだけは、静かにそのコックピットに手を添えていた。


彼にとって、それは「搭乗する」というより、「身にまとう」感覚だった。

機体が自分を受け入れてくれている。そんな奇妙な一体感が、最初からあった。


その様子を見ていた観客の中には、さらに声を潜めて囁く者もいた。


「まるで……武器と融合してるみたいだな、あいつ……」


舞台は整った。

Dクラスの少年と、規格外の専用機。その組み合わせが、今──多くの目に刻まれようとしていた。

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