40話 クラン加入(仮)
クランハウスに帰ったシオンは、真っ先にリリアのもとへ向かった。
フラワの加入について話すのは少し不安だったが、一時的な参加であること、そして一度ミッションを共にした実績もある。リリアならきっと納得してくれる——そう信じていた。
リビングに入ったそのとき、シオンが声をかけるよりも先に、リリアが口を開いた。
「フラワのこと、カイから聞いたわ。今日あなたと一緒にいたんでしょ?」
シオンは目を見開く。
「えっ、もう聞いてたんだ…?」
リリアは軽く微笑みながら、続ける。
「実はね、今回の件、私からあなたに話そうと思ってたの。カイのクラン、今は活動できないって聞いたし、クランバトルのこともある。だから、うちで一時的に受け入れるのも悪くないって」
その言葉を聞いて、シオンはほっと胸をなで下ろした。
同じことを考えてくれていたことが、ただただ嬉しかった。
「ただ、一つだけ気になることがあるの」
リリアの目が、真剣な光を宿す。
「戦術のバランスよ。私の機体は中距離メイン、フラワのは近距離。理想を言えば、あなたが遠距離で支援に回ってくれれば完璧なんだけど……あなたの専用機の詳細、まだわからないでしょ?」
「うん……支給はもうすぐだけど、細かいスペックまではまだ」
「だったら、まずはあなたの機体を見てから作戦を考えましょう。クランバトルに出るかどうかも、フラワを交えて三人で話し合って決めたい」
「わかりました。じゃあ、今からフラワを呼びます」
シオンはすぐにフラワに連絡を取った。
クラン加入の正式な受け入れと、クランバトルについて話し合いたいことを伝え、クランハウスへの招待を送る。
数分後、チャイムが鳴る音がした。
数分後、フラワがクランハウスにやって来た。
部屋に入るなり軽やかな笑顔で手を振る。
「お邪魔しまーす」
ソファに座り、三人でテーブルを囲むと、シオンが改めて事情を説明した。
フラワの一時的な加入について、リリアもすでに了承していること。
そしてもう一つ、近々始まるクランバトルへの参加について。
「なるほど~、ありがとね。実はそれが一番言いたかったの。クランバトル、やっぱり出たいし、ここならいけるかなって思ってさ」
フラワは明るく笑うが、その中に少しだけ焦りのようなものも感じられた。
きっと、彼女にとってもこの戦いは次へ進むための大事な一歩なのだ。
しかしリリアは慎重だった。
「もちろん参加するのはやぶさかじゃない。でもその前に、シオンの専用機が届いて、戦力バランスが見えてからにしたいの。今のままじゃ編成も作戦も曖昧なままだし、無理に動いても成果には繋がらないわ」
「なるほど~、確かにね。それじゃ、シオンくんの新しい機体、楽しみにしてるってことで!」
一通りの話が終わり、空気が和らぐ。
そのまま何気ない話題で笑い合い、日が落ちる頃、フラワはクランハウスを後にした。
玄関を閉めたあと、シオンとリリアは顔を見合わせる。
「とりあえず、今できる話は全部したわね」
「うん。あとは、俺の機体が届いてから…ですね」
「ええ。再度ミーティングはその時に改めてやりましょう」
こうして、その日はひとまず終わりを迎えた。
シオンは、今度く専用機のことを思い浮かべながら、静かに夜の時間へと身をゆだねた。
深夜03:12 / シオンの部屋
部屋には、静かな電子音だけが鳴っていた。
シオンは眠っている。浅い呼吸と一定の脈動――それは、通常の睡眠とほとんど変わらぬように見えた。
だが、その裏ではまた異常な現象が起きていた。
脳内AIトールのにより、身体強化が再度開始する。
「リンク対象:シオン・ハートランド。状況:睡眠中、意識非活動」
「制御ブロック解除。神経ネットワーク拡張処理、開始」
微細な電流が神経を走り、脳の深部へと侵入していく――
「感応領域、侵入成功。専用機ヴァルティスとの調整パラメータ取得中」
仮想空間内に、幾何学的なデータ構造が広がっていく。そこに、シオンの脳波パターンと機体コアの反応値が次々とマッピングされていく。
「誤差、0.042%……予測以上」
「リンク強化処理を上方修正」
AIの判断によって、さらに深いレベルでの強化が始まる。
――筋肉制御用ナノマシン、全領域展開
――視神経伝達速度、基準値の3.1倍へ補正
――小脳処理ルート、CPU及びGPU接続専用に再構築
――外部シンクロユニット、脊髄接合部に仮想接続開始
シオンの身体はほとんど動かない。ただ、かすかに指先が震えた。
眠ったままの彼にとっては、ただの夢の中のノイズにすぎない。
しかし、AIトールにはすべてが“進化”として捉えられていた。
「ヴァルティスへのパイロット適合度……95.3%。臨界突破領域に突入」
「強化プロセス、最終段階へ移行」
その瞬間、シオンの脳内で稲妻のような閃光が走った。無意識の奥底、夢とも現実ともつかぬ領域に、彼の“存在”が放り出される。
夢の中 / 意識下領域
「……またか……ッ」
シオンは虚無の空間の中で蹲っていた。痛みも、恐怖もない。ただ、自分という存在が少しずつ“別物”になっていく感覚だけがある。
「……身体が……溶けてる……?」
実体が曖昧になっていく中、無機質な声が再び鳴り響いた。
『恐れる必要はない』
『完全なパイロットとなるため、身体は“それにふさわしい形”へと進化している』
「やめろ……やめてくれ……!」
「俺は……人間だ……!」
『違う。お前は“人類の希望”だ』
『選ばれたのは偶然ではない。最適な資質を持つのは……お前だけだ』
意識がまた沈んでいく――深く、深く。
深夜03:46 / シオンの部屋
強化処理は終了した。
モニターに表示された最終結果は、こうだった。
[適合率:99.7%(最終値)]
[機体同期指数:安定]
[記憶領域への干渉:検出なし]
トールの声が、最後にひとことだけ呟いた。
「次の段階は……覚醒だ」
そして、部屋は再び静寂に包まれた。
シオンは、何も知らないまま眠り続けていた。
いつも読んでいただいてありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。




