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ディメンション・ノヴァ  作者: 酒本 ナルシー。
4章 動き出す歯車

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39話 実食

クランハウスに戻ったシオンは、部屋に入るなりリリアの元へと足を運んだ。

彼女はUIを操作しながら何かの報告書を見ていたが、シオンの表情に気づいて顔を上げる。


「……何かあった?」


「うん、ちょっと。いい知らせ」


シオンはそのままソファに腰を下ろし、息をひとつつくと口を開いた。


「専用機が配備されることになったんです。次の作戦からは、俺の機体も正式に実戦投入されます」


一瞬の沈黙のあと、リリアの顔がぱっと明るくなる。


「ほんとに……? よかった……!」


笑顔を浮かべながら、リリアは心からの声で喜びを示す。

それは、ただ戦力が増えることへの安心ではなく――シオンという仲間の努力が認められたことが、何よりも嬉しかった。


「これで、ようやく本格的なクラン活動ができるね」


「……ああ、俺もそう思ってる。だからさ――」


シオンは少し間を置いて、言葉を選ぶように続けた。


「新しいメンバーって……必要だと思います?」


その問いに、リリアの表情がわずかに曇る。


彼女は元々、過去のトラウマを引きずり群れることを避けてきた。ソロ志望だった彼女が、クラン設立を選んだのは――

シオンの真剣な言葉と行動に心を動かされたからに他ならない。


「……うん。たしかに、ふたりだけじゃ限界はあると思う。でも……」


リリアは視線を落とし、UIを閉じる。


「少し考えさせてくれる?」


「……ああ、もちろん。急ぐ話でもないし」


短いやりとりの中に、互いへの信頼と気遣いがにじんでいた。


その日はそれ以上メンバーの話はせず、シオンは自分の部屋に戻った。

ベッドに体を預けながら、天井を見上げる。


(……誰を誘うべきなんだろうな)


クランの未来。仲間との関係。

そして、自分自身が何を求めているのか――


ぼんやりとそんなことを考えているうちに、シオンはゆっくりと眠りについた。



翌日。

シオンの頭にあるのは、ただひとつ――新しいクランメンバーをどう見つけるか。


とはいえ、Dクラスなので、はっきり言って友達が一人もいない。

誘う以前に、まずは会話できる生徒を見つけなければ話にならない。


(誰でもいいってわけじゃないしな……)


リリアの信頼を裏切るような適当な選び方はしたくない。

シオンは教室をぐるりと見渡した。


いつも通り、窓際ではノエルがぼんやりと外を見つめている。

変わらぬ無表情、眠たげな目。今日も何を考えているのか分からない。


(……話してみるか? いや、あの調子じゃ無理だろ)


そう思って視線を外しかけた、その時。


「ねぇ、シオン。あれ、ないの?」


ノエルの方から、声をかけてきた。


「……え?」


一瞬ぽかんとしたが、ノエルの視線の先――彼女の期待のこもった目で察する。


「あっ、チョコのことか」


「うん」


シオンはカバンを探るが、今日は持ってきていなかった。

「ごめん、今日持ってきてない。でも……授業終わったら、食堂に行くか?」


ノエルは少しだけ残念そうにしたが、それでもコクンとうなずく。


「うん、行く」


それだけのやり取りだったが、シオンはなんとなく嬉しかった。

自分から話しかけずとも、誰かが自分を求めてくれる――そのことが。


放課後。

全ての授業が終わった教室に、静かに立ち上がる二人の姿があった。

そして、少しだけ距離が縮まった二人は、並んで食堂へと向かっていった。

ノエルと一緒に食堂へ向かう道中――会話はなかった。

シオンが一歩歩けば、そのすぐ後ろを無言でノエルがついてくる。


(これ……付き添いか?)


時折振り返っても、ノエルは眠たげな目のまま視線を泳がせているだけ。

何を考えているのか、本当に分からない。


ようやく食堂に到着すると、シオンは思い切って聞いてみた。


「……なあ、ノエル。なんでさ、自分で食べたいもん選ばないんだ?」


ノエルはぼそりと答える。


「わかんない」


(わかんないって、お前な……)


シオンは小さくため息をつきながら、それならと決めた。


「……じゃあ、俺が選ぶ。これ、食っとけ」


そう言って、チョコレートたっぷりのパフェを差し出す。

大きめのグラスに盛られたアイスとフルーツとチョコが層になった一品だ。


ノエルの目が一瞬でキラリと輝いた。


「……いいの?」


「おう。好きに食え」


その瞬間、ノエルはスプーンを手に取り――

まるで待ってましたと言わんばかりにカプカプとパフェを食べ始めた。


(……犬かよ)


シオンは思わず呟いたが、否定する気にはなれなかった。

無邪気にパフェにかぶりつくノエルの姿が、どこか癒やしにすら思えたのだ。


「……ま、これはこれで、ありか」


そう呟きながら、シオンはどこかなごんだ気持ちでノエルを見守っていた。


ノエルがパフェを食べ終える頃――

ふと、食堂の隅から明るい声が響いてきた。


「シオ〜ンくんっ! あれ? その子だれ?」


現れたのは、フラワだった。

ひらひらと手を振りながら、ノエルとシオンのもとへ駆け寄ってくる。


「ん〜かわいい〜!その子、すごくタイプなんだけど!」


フラワは目を輝かせながらノエルを覗き込む。

一方のノエルは、フラワのことをまったく意に介さず、空になったパフェグラスを名残惜しそうに見つめていた。


「……ああ、この子はノエル。最近Dクラスに転校してきたばっかでさ」


シオンが紹介すると、フラワは「ふむふむ」と頷きながらニヤニヤする。


「ねぇシオンくん、もしかして……お持ち帰りしちゃう感じ〜?」


「お、お前なに言って――! ちげーから! 冗談だってわかってるけど!」


顔を赤くして言い返すシオンを尻目に、フラワはくすくす笑いながら手に持っていたプリンをノエルに差し出した。


「はい、これもどうぞ。さっきのパフェ、すごくおいしそうに食べてたし」


ノエルは初めて見るプリンに少しだけ首をかしげたあと、

スプーンでぷるぷると揺れる表面をツンツンと突いてから――ぱくり。


次の瞬間、

眠たげだった目がほんの少し見開かれ、頬がほんのり染まる。


(……あきらかに顔が違うな)


シオンは驚きと共に、どこかほっこりする気持ちでノエルを見つめる。


食べ終わったあと、フラワが自然な手つきでノエルの口元を拭ってやった。


「ほら、プリンついてるよ。よしよし〜」


(……完全にペットと飼い主じゃねぇか)


シオンが思わずそう呟いたとき、フラワは急に真面目な顔を見せた。


「ねぇ、シオンくん。ちょっと相談なんだけどさ。

前回の任務でうちのクラン、今しばらく動けなくてね。

それで……もしよかったら、一時的にそっちのクランに入れてくれない?」


「……フラワが? いや、それは……」


シオンは驚きながらもすぐに考える。

フラワは戦力としても優秀で、何よりリリアと一度実戦を交え連携もとっているし、相性も良さそうだ。


「今度始まるアカデミーのクランバトル、どうしても参加したいの。」


シオンは驚いたように目を見開く。


「クランバトル……?」


「そう。各クランの実力を見せるお披露目みたいな大会。

個人戦じゃ見せきれない連携や戦術が問われるから、スポンサーの目にも留まりやすい。

うちのクランじゃ今それに出られないし……でもシオンくんたちのクランなら、もしかして出場するでしょ?」


少しだけ不安そうな顔をしながら、フラワは続ける。


「ね? 一時的でもいいから、参加メンバーとして入れてくれない?」


「とりあえず、リリアに相談してみるよ」


フラワはにっこりと笑い、「よろしくね、シオンさん」と冗談めかして言った。


その笑顔を横目に、シオンはこれからの展開を思わず想像してしまうのだった。




いつも読んでいただいてありがとうございます。

今後もよろしくお願いします。

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