3話「No.1128」
「なあ、お前さ……」
シオンはベッドに寝転びながら、ぼんやりと天井を見つめていた。頭の中には、直接響くAIの声がある。
『質問の意図を明確にしてください』
「いや、お前がどんなヤツなのか気になってさ」
『No.1128。期待値の低い個体』
「あっさり自己評価低っ!? どういうAIなのか教えてくれよ」
『戦闘支援AI。過去のデータを参照し、適切な指示を行う』
「ふーん……ってことは、前に使ってたパイロットの戦い方も覚えてるのか?」
『肯定。AIはインストール先の戦闘経験を蓄積し、次の適合者へ引き継ぐ』
「なるほどな。で、その前の持ち主ってどんなヤツだったんだ?」
『データは存在しない』
「は?」
『データは存在しない』
「二回言うな。……お前、もしかして前のパイロットがヘボで戦績残してないとか?」
『……否定』
「お、違うのか。じゃあどんな戦績なんだよ?」
『開示できません』
「は? なんで?」
『制限がかけられているため』
シオンは眉をひそめる。AIに制限……軍事機密か何かか?
「お前、本当はどれくらい強いんだ?」
『No.1128、期待値の低い個体』
「またそれかよ……」
シオンは苦笑しつつ、適当に聞き流すことにした。
「まぁ、いいや。お互い頑張ろうぜ」
『……了解』
数時間後。簡単な検査を終え、ようやく落ち着いたシオンの前に、冷静な表情の女性医師が現れる。
「体調はどう?」
「うん、まぁ……普通かな。ていうか、ここって結局どこなの?」
ベッドに座ったまま、シオンは軽く肩をすくめて尋ねる。
女性は無表情のまま淡々と答える。
「あなたにはこれから、適性テストを受けてもらいます」
「適性テスト?」
「そう。ここでは“ノヴァ”と呼ばれる人型機動兵器を操作できる人間を探しているの。あなたがそれに適しているかを確認する」
シオンは一瞬、ぽかんと口を開けた。
「ちょ、待って。それってロボットとかで戦うってこと? いや俺、そういうの無理だと思うんだけど……」
「問題ありません。AIが大半を補助してくれます。あなたは指示に従えばいいだけ」
「AIが……?」
シオンの中に、小さな興味が芽生える。“ノヴァ”を操縦する……それが自分にできるのか?
だが同時に、不安もよぎる。
「俺、運動とか苦手だし……ホントにできんのかな」
女性は少しだけ声を落として言う。
「あなたにはNo.1128がインストールされています。このAIが操作を補助します」
「No.1128……って、名前じゃないんだ」
「過去に実績がないAIなので、識別番号だけです」
「ふーん……」
名前すら与えられていないAI。どこか、自分と重なるような気がして少し胸がチクッとした。
「まぁ……やってみるよ」
軽いノリで言ってみたが、シオンの中には確かな決意もあった。
「本当に?」
「うん。どうせここにいても暇だし、乗るだけ乗ってみる」
女性はわずかに口角を上げ、静かにうなずいた。
「では、ノヴァのコクピットへ案内します。こちらへ」
シオンはベッドから降り、彼女の後について歩き出した。
(俺なんかが、本当に動かせるのかな……)
そんな不安を胸に、シオンは“初めてのテスト”へと向かっていく。
「では、No.1128の起動試験を開始します」
目の前にそびえ立つ巨大な機体――ノヴァ。
シオンはそのコクピットに座り、唾を飲み込んだ。
「……マジかよ。俺がこれ、動かすのか?」
『システム起動……パイロット認証完了。No.1128、起動を許可します』
冷静なAIの声が響く。
「うわぁ……すげぇな、これ……」
モニターに次々と起動するシステム画面。インターフェースが視界いっぱいに広がっていく。
『パイロット、初回起動モード。操作支援レベル:高』
「おお……これなら俺でも……!」
緊張しながら操縦桿を握り、起動レバーを引いた。
ゴォォォォォッ!
重厚な駆動音とともに、ノヴァの巨体が動き出す。
「すげぇ……! 本当に動いた……!」
だが、すぐに異変を感じた。
「……あれ? なんか、重くね?」
ノヴァは確かに動いている。でも、思ったようには動かない。まるで全身が鉛になったかのような感覚。
『現在、パイロットの操作精度20%以下。AIによる補助を強化します』
「マジかよ……! 全然うまくいかねぇ……!」
制御に必死になっていたそのとき――
「……うぉっ!? な、なんだこれ……!」
突然、視界が一気にクリアになった。
ノヴァの動きが手に取るように分かる。まるで自分の手足が巨大な機体と一体化したような錯覚。
『制御安定度上昇……数値、確認不能』
「はぁ!? 今、俺……動ける……!」
シオンは直感的にスラスターを吹かした。
ゴォォッ!
ノヴァが加速する。圧倒的なスピード。驚くほどの反応。
「うぉぉぉ!? すげぇ! これ……!」
数秒間だけ、シオンは完全にノヴァを掌握していた。
だが――
『エラー発生。制御安定度、強制低下』
「え……?」
突然、力が抜け、ノヴァの動きも鈍くなる。
「待て、待て……なんだよこれ……!」
まるでリンクが途切れたかのようだった。
『パイロットの適応率、正常値に戻りました』
「なんだよ今の……俺、確かに“できてた”よな……?」
数十分後、テストは終了。
シオンはコクピットから降りても、胸の鼓動は止まらなかった。
「俺……今、何やったんだ?」
医師はモニターに映るデータを見て、眉をひそめる。
「……制御安定度、一瞬だけ人間の限界を超えた?」
しかし、その数値はすぐに通常値へ戻り、異常記録はログから消えた。
「……まさか、ね」
彼女は静かにデータを保存し、次のテストの準備を始めた。
シオンは、まだ知らない。
自分の中に眠る“何か”が、ノヴァと共鳴し始めていることを。
――そしてこのとき、彼は知る由もなかった。
自身のAIがかつて「ジュディキウム・ヴェナトール」――
“裁きの狩人”と呼ばれ、
数多の戦場を駆け抜け、無数の敵を葬った存在であったことを。
今は制限された状態で、
ただ「No.1128」と呼ばれているだけのAIであることを。
その力が、再び目覚め始めているとも知らずに――。
貴重なお時間使ってくれて読んでいただいて嬉しいです!
(;^ω^)




