38話 専用機
翌朝──
シオンは白衣を揺らすセナに付き添われ、アカデミーから車で離れた場所へと向かっていた。
「……ここって、まさか……」
車窓から見える景色に、シオンの胸の奥がざわつく。
「ええ。あなたがこの時代に目覚めた場所よ。今日はそこで“あるもの”の最終調整を行うわ。」
「“あるもの”?」
セナは意味ありげに微笑むだけだった。
やがて車が停まり、シオンは見慣れた施設の前に立っていた。
(……ここだ。俺が冷たいカプセルの中で目を覚ました場所。)
まるで時間が巻き戻されたかのように、空気の匂いや足音の反響までが、あのときと重なる。
「こっちよ。」
セナに導かれ、奥へ進んだシオンがたどり着いたのは、広い格納庫のような空間だった。中央には巨大な機体──いや、“骨組み”のような姿をした金属の塊が静かに佇んでいた。
「……これって、もしかして……俺の……?」
「そう、あなた専用の機体よ。まだ外装はついていないけど、内部のコアユニットとOSはすでに稼働可能な状態にあるわ。」
シオンの胸が高鳴った。
(俺に……専用機?)
思いもしなかった展開に、驚きと期待が一気に押し寄せる。
「動作チェックのために、少しだけ動かしてみましょう。コクピットはすでに完成しているから、あなたが乗って。」
指示されるままにコクピットへと乗り込むと、静かだった空間が微かに振動し始めた。
『起動プロセスを開始し。』
脳内に響くトールの声。シオンのUIが連動し、モニターが次々と起動する。目の前のディスプレイには各種ステータス、機体情報、外部カメラの映像などが流れ込み、最後に中央のメインモニターが光を放つ。
──視界がひらけた。
外の風景が、モニターを通じてリアルに映し出される。
「感覚、問題ない?」
セナの通信が入る。
「……はい。はっきり見えてます。」
「じゃあ、少し動いてみて。まずは腕部の可動から。」
セナの指示に従ってレバーを握る。すると、まるで自分の腕のように、機体のアームが滑らかに持ち上がった。
『補助動作を同期。問題なし。』
トールの声が穏やかに響く。
「……すげぇ、めちゃくちゃスムーズだ。」
足を動かし、旋回し、姿勢制御を試す。そのすべてがシオンの意志に応えるように自然で、力強く、それでいて繊細だった。
(この感覚……間違いない。前に施設で乗った“ノヴァ”の操縦感に似てる。)
目の前の機体は未完成の姿でありながら、アカデミーで使っている量産機とはまるで別物だった。
「ふふっ、気に入った?」
「……はい、凄くいい。」
そう答えながらも、シオンの中には一つの疑問が浮かぶ。
(でも……なんで、俺に専用機なんて?)
試験運転が終わると、残りの調整をセナたちが引き継いだ。
そして日が暮れるころ、シオンはアカデミーへ戻る車の中で一人、静かにその機体の名前を思い浮かべていた。
(この機体と一緒に、俺はどう戦うことになるんだろうか……。)
空はいつの間にか、深い藍に染まっていた。
◇◇◇
某大企業 本社ビル 会議室
高層ビルの最上階、磨き上げられたガラス越しに都市の景色が広がっている。近未来的なインテリアに囲まれた会議室の中央に、スーツ姿の関係者たちが静かに並ぶ。
一人の白衣の女性が、重厚な資料ファイルを手元に置き、静かに立ち上がった。
彼女の名はセナ・ユキシロ。本計画の主任開発者であり、機体「ヴァルティス」の全設計を統括する人物。
「――では、シオン=ハートランド専用機体『ヴァルティス』、投入最終承認フェーズに入ります」
会議室に緊張が走る。
セナは手元の資料を操作し、ホログラムで機体の三面図を表示させた。
機体は黒と深紅の流線型。極限まで軽量化されたフレームに、特殊反応装甲を搭載。
「……彼に渡すことで、AIがどう反応するかは未知数です。ですが、今このタイミングでしか投下の機会はありません」
重々しい言葉が響く。
「戦場に投入された瞬間、我々の計画はもう後戻りできない。これは賭けです。
けれど――彼なら、“あのAIに選ばれた者”なら、道を切り拓けると信じています」
数秒の沈黙の後、承認のサインが次々にホログラム上に並ぶ。
「投入開始、最終シーケンスに入ります」
セナは静かに椅子に座り直し、資料を閉じた。
その目には、どこか不安と期待が入り混じっていた。
今日も読んでいただいてありがとうございます。
新しい機体ってワクワクしますよね☆
これからも宜しくお願いします。




