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ディメンション・ノヴァ  作者: 酒本 ナルシー。
3章  信頼と疑念

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35/50

34話 シオンとトール 壊れたリリア

肩で息をしながら、乱れた前髪をかき上げる。


「……お前、トール。何なんだよ。さっきの動き……あれ、俺のじゃないだろ」


《正確には、私との共同制御。君の動きを元に最適解を演算し、リアルタイムで補正した。》


「補正とかそういうレベルじゃなかっただろ。あの回避、ブースターでの高速接近、ブレードの間合い……全部“最初からできる”みたいな動きだった」


《君の脳波と神経伝達を解析し、AI演算で加速させた。あの瞬間だけ、君の反応速度は通常の2.8倍に達していた。》


「やっぱりお前……俺の動きを“先読み”してるだろ。俺の意思の先を、勝手に動く感じだった。あれ……まるで、お前が俺を操ってたみたいに」


一瞬の沈黙が流れる。


《私が望んだのは生存。君の命を守るための最善手を選び続けただけだ。》


「守るため……? それが本当に“俺の意思”を守ったって言えるのか?」


トールは一拍置いて、いつも通りの冷静な声で答えた。


《君は今日、死ぬ確率が78%だった。通常制御のままでは、君はあのクロノマタに撃ち抜かれていた。私が動いたのは、君が“生き延びる”ための必要条件だ。》


「……で、そのために俺を“動かした”ってわけか」


シオンはうつむき、拳を握った。


「なんかさ……俺、自分の機体じゃなくて、逆に“乗られてた”気分なんだよな」


《君の命を救ったのに、不満か?》


「違うよ。……怖いんだよ」


シオンの声が小さくなる。


「俺の中で、“俺”が消えていく気がした。次に動くとき、今度こそお前が全部やっちまうんじゃないかって……」


しばしの沈黙の後、トールの声が少しだけ、ほんの少しだけ柔らかくなった気がした。


《安心しろ。私は君の命令に従う。だが……》


「だが?」


《君が死にそうになったときだけは、私が全てを握る。それだけは、変えられない。》


シオンはゆっくりと顔を上げ、格納庫の天井を見上げた。


「……最悪の相棒だな、お前」


《光栄だ。》


シオンは、ふっと笑った。疲れと不安の中に、ほんの一筋の信頼が生まれ始めていた。



【ミッション後/格納庫】


激しい戦闘の余韻を残したまま、シオンは機体から降りた。装甲に刻まれた焦げ跡や、冷却ガスの音がなおも耳に残る。

スーツの下は汗で濡れ、息は乱れていた。

「……疲れた……」


ふと、リリアのことが頭をよぎる。

あの戦場で彼女も同じように限界を超えて戦っていたはずだ。


UIを覗くと、ちょうど彼女が本部へのミッション報告をキャンセルしているログが表示されていた。

どうやら今回はかなり無理をしていたらしい。


心配になったシオンは、格納庫から急いでリリアのもとへ向かった。



---


【連絡スペース付近】


リリアは壁にもたれかかるようにして、息を整えていた。彼女らしくもなく、疲労が表情に滲んでいる。

シオンが駆け寄ると、彼女は無言で目を合わせた。


「……帰りましょぉ、クランハウスまで支えます」

そう言ってシオンは彼女の肩に手を回す。


無言でうなずくリリア。力を抜くように、彼女はシオンにもたれた。



---


【クランハウスへの移送中】


カートが静かに走る車内、薄暗い灯りの中でリリアがぽつりと呟いた。


「……ねぇ、今日のあの動き。シオン……あれ、AIがやってるの?」


シオンはしばらく沈黙し、前を見つめたまま答える。

「……正直、俺にもよく分からないんです。途中から、自分で動かしてる感じがなかった」


リリアは少しだけ眉を寄せ、そして小さく笑った。


「なんだか……守られてたのは私の方だったね。私がシオンを守るって言ったのに」

声は弱々しく、どこか悔しげだった。


「そんなことない」シオンは即座に否定する。「リリアさんがいなかったら、俺、あの時死んでた。間違いなく」


それでもリリアは納得いかないような顔をしていたが、あまりの疲労にそれ以上口を開かなかった。



---


【クランハウス到着】


クランハウスに着くと、リリアの体に明らかな外傷はなかったものの、疲労困憊で自力ではまっすぐ歩けない。

シオンは彼女を支えながら、静かに部屋の前まで付き添った。


「……ありがとう」

扉が閉じる直前、リリアはかすかに呟いた。



---


【その夜/シオンの部屋】


自室に戻ったシオンは、スーツを脱ぎシャワーを浴びる。

熱い湯が全身を包み込んだとき、ようやく自分の緊張が解けていくのを感じた。


(……クロノマタ……あれは一体、なんなんだ?)


湯気の中、脳裏にフラッシュバックするのは、あの戦場での異常な反応速度と、トールの声。

だが答えは出ない。


タオルを巻いたままベッドに倒れ込むと、そのままシオンは静かに眠りに落ちていった。



【深夜/クランハウス・シオンの部屋】


――ドンッ!!


何かが倒れるような、重い音がリビングから響いた。


シオンはその音で目を覚ました。

一瞬、夢かと思ったが、また何かが天井を打つ音がした。


「……リリアさん?」


眠気も吹き飛び、シオンは急いで部屋を飛び出した。



---


【リビング】


薄明かりの照明の下、リリアが立っていた。

目は虚ろで、周囲には倒れた椅子やクッションが散乱している。


「リリアさん……」


声をかけた瞬間、彼女は崩れるようにその場に座り込んだ。

その瞳は潤み、表情は今にも壊れそうだった。


「……やっぱり、私、何も変われてない……」

「今日の戦場も……私、また、ただ見てるだけだった……」


リリアは震える声で呟く。


「……あの時と何も変わらない……」

「だから、一人で進むって決めたのに……なのに……」


シオンが近づこうとすると、リリアはそれを拒むように首を振った。


「また……また私の前から、大事な人がいなくなるのは嫌……!」


その瞬間、リリアは錯乱したように涙を流しながら叫び出す。


「ごめんね……ごめんね、シオン……私、強くなれなくて……ごめん……!」


普段は冷静で、自信に満ちた彼女が、今は別人のように崩れていく。


シオンは戸惑いながらも、彼女の前に膝をついた。

そして、躊躇うことなくその細い身体を、ぎゅっと抱きしめた。


「……大丈夫」

「俺、生きてます。ちゃんとここにいます」


リリアはその言葉を聞いた途端、声をあげて泣き崩れた。

言葉にならない嗚咽だけが、静かなリビングに響く。


シオンは何も言わず、ただ彼女を包み込むように抱きしめていた。

彼女の過去も、傷も、涙も――全て受け止めるように。









最後まで読んでいただいてありがとうございます。

次回………………。

説明してめっちゃ多いです。

読まなくてもいいです。

でも書かせてね( °؎ °)

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