33話 異形 ― クロノマタ出現
「シオン、警告。こちらをロックしている」
シオンのUIに、冷静なトールの声が響く。
「……は? こんな距離で? もうロックされてんのかよ」
驚きと焦りを隠せずにモニターを見るシオン。
「当たり前だ。さっきまでのオートマタとは格が違う」
その言葉と同時に、クロノマタと呼ばれる人形兵器が両腕から長距離レーザーを放った。
「来るぞ!」
トールの指示で機体が自動的に急回避。シオンはかろうじて回避に成功した。
だがその直後、エルナの機体が――
「うそ……っ!」
レーザーが直撃し、エルナの機体の頭部が吹き飛ぶ。警告音が鳴り響く中、彼女はかろうじて機体を動かそうとあがいていた。
「エルナ!」
リリアがシオンのカバーに入りつつ、仲間の異常に気づき、即座に前へ。
「作戦中止! 全員、退避に移れ!」
カイの命令が飛ぶ。
だが、遅かった。
2機のクロノマタが音もなく、高速で接近。
ジークがすぐに応戦に向かうが――
「速……っ!」
意思を持ったような動きに翻弄され、両腕を掴まれ、ねじ切られる。ジークの機体はその場で動かなくなった。
「ジーク!」
フラワがその惨状に目を見開き、恐怖で身動きが取れなくなる。
『リリア、フラワを頼む』
カイの通信。
「了解。フラワ、下がって!」
リリアがフラワの援護に向かう。その間、カイがクロノマタと正面から交戦を開始。
「はっ、動きが……読めない……っ」
リリアは援護しながらもカイの窮地に気づき、すぐに彼の元へ戻る。
3年目エリート二人 vs クロノマタ二機。
しかし、カイの機体は激しいダメージを受けていた。バリアが消失し、コクピットが狙われる。
「カイッ!」
リリアが飛び込もうとするが、すでに余裕はない。
「こちらも参戦する」
突然、トールが言った。
「は? リリアが前に出るなって言ってたろ!」
「久しぶりの感覚だ……」
どこか嬉しそうな声音に、シオンは焦る。
「AIコントロール50%。GPUおよび補助システム起動」
「おい待てトール! ふざけ――!」
トールの制御下で、シオンの機体が自動起動し、戦線へ突入。
クロノマタの二機が、即座に目標を変更。両腕から、再びレーザーが放たれる。
「未来予測起動。思考加速、開始」
トールの声と同時に、シオンの機体がまるで意思を持ったように滑らかに動き、回避していく。
「近接戦モード、展開」
機体の脚部からブレードが射出され、装備される。
クロノマタ1機が高速で接近――
突きが来る。回避。左腕の薙ぎ払いも、ブースターで空中回避。
そのまま急接近し、ブレードで本体を切断――!
が、それは囮だった。もう1機が至近距離からビームを発射。
「やば――!」
だが、機体は信じられない速さでそれをも回避。
しかし――
「ブースター、限界超過……っ!」
爆発音。推進器の一つが吹き飛ぶ。
「機体性能、最低クラス。これでは話にならん」
「言い訳すんな!」
だが、制御不能に近づいていく機体。
その瞬間、リリアの機体が間に入る。
ビームは逸れ、クロノマタが動きを止める。
そして――
まるで何かの命令を受けたかのように、2機はそのまま戦場を離脱していった。
残されたのは、傷ついた仲間と、焦げた大地、そして――
異質な“恐怖”だった。
沈黙が戦場に降りた。
風の音すら止まったように感じられる中、シオンは息を切らしながらブレード体制を維持していた。
「……なんでだ。あいつら、なんで引いた……?」
トールの返答はない。まるで分析中かのように沈黙を守っていた。
「シオン! 無事!?」
リリアの声が通信に飛び込んでくる。息を荒くしながらも、彼女は何とか冷静を保っていた。
「ああ、なんとか。でもブースターやられた。機体、ほぼ死んでる」
「無茶しすぎだ……何が“前に出るな”だよ……」
シオンが苦笑するも、リリアは返さない。ただ、胸を押さえているような沈んだ沈黙だけが返ってきた。
「エルナ……!」
フラワの叫びが割り込む。
機体を降りた彼女が、頭部を吹き飛ばされたエルナの機体に駆け寄っていた。エルナは意識を保っていたが、コクピットの中で肩を震わせていた。
「ごめん……動けなくて……何も……できなかった……」
「エルナ、よかった、生きてて……!」
フラワが泣きながらエルナにしがみつく。
ジークの機体は……その場に横たわり、動かない。腕をもがれ、動力系統が死んでいる。
「俺は……クソッ……!」
彼の声が通信からかすかに聞こえた。怒りと悔しさ、そして恐怖がにじんでいる。
「リリア、カイさんの状態は!?」
シオンが尋ねる。
「……バリアはゼロ。コクピットは……ギリギリで潰されなかった。意識はあるけど、出血がひどい。すぐに医療班呼ぶ」
リリアの声は震えていた。彼女もまたギリギリだった。
「この機体じゃ、もう動けないな……」
シオンがため息をつく。
「トール、さっきの……なんだよ。なんで、あんな動きできたんだ」
「後で話す。今は状況整理を優先すべきだ」
冷静すぎるトールの返答に、シオンは苦い顔をする。
「……怖かった」
誰かがポツリと呟いた。
フラワかエルナか、それともジークか――
その言葉は、全員の胸に突き刺さっていた。
あれは兵器じゃない。
“あれ”には意志がある。
そう、誰もが直感していた。
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