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ディメンション・ノヴァ  作者: 酒本 ナルシー。
3章  信頼と疑念

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31話 トップクラン

作戦当日 – クランハウスの朝


クランハウスのブリーフィングルームには、朝の淡い光が差し込んでいた。機材の起動音が静かに鳴り響く中、シオンは一人、大きなモニターをを見つめていた。


モニターに表示されているのは今日の戦域地図。何度も確認したはずなのに、指先はどこか落ち着きなく地形データをスクロールしていた。


「……」


言葉にはならないが、胸の奥に小さな不安が残っている。


「シオン、大丈夫?」


背後から聞こえた声に、シオンは少し肩をすくめた。振り返ると、リリアがいつもと変わらない落ち着いた表情で立っていた。


「別に。何も心配してない」


わずかに視線を逸らして答える。だが、リリアの目はすぐにその言葉の裏を見抜いていた。


「嘘。気を使ってる顔してる」


そう言って、リリアはそっと微笑んだ。


「大丈夫。私があなたをフォローするから。だから、心配しないで」


シオンは目を見開き、ほんの少し言葉に詰まった。


その一言が、まるで胸の奥にあった小さな不安をそっと包んでくれるようだった。


「……ありがと」


言いながら、シオンは顔を少し逸らした。リリアのまっすぐな優しさが、少しだけ照れくさかった。


その瞬間、シオンのUIから機械音声が割って入る。


「報告:シオンの心拍数が通常より12%上昇。原因分析中。感情変化の可能性」


「トール、余計なこと言わなくていい」


「了解。しかしデータは保存しました」


シオンは小さくため息をついた。


「よし……行こうか」


立ち上がると同時に、クランハウスのドアが開く。外はすでに出発の準備が整えられていた。


朝の空気は澄んでいて、戦いの始まりを告げるような静けさがあった。


シオンはリリアと並んで歩き出す。まだ少し緊張は残っている。けれど、横にいる彼女の存在が、それを確かに和らげていた。


集合場所はアカデミー西側の特設ミッションブリーフィングエリア。薄明の空に薄く靄がかかる中、シオンは、三年のトップクランと初めて顔を合わせた。


制服の裾をなびかせて現れたのは、フラワ・ストレリツィアは、近接戦に秀でた冷静な実力者。すらりとした姿で歩み寄ると、柔らかな笑みを浮かべながらも、その瞳には隠しきれない鋭さがあった。


その隣には、指揮・戦術支援型で3年ランキング1位のリーダー、カイ・フォルセティ。無口で理論派、彼の存在がいるだけで周囲の空気が引き締まる。機体〈ヴァルヘイム〉による戦術支援で、多くの戦局を制してきた。


そして後方に控えるのは、超遠距離狙撃の名手エルナ・レヴィア。感情を表に出さず、静かにこちらを見つめる姿はまさに“幻影”の異名にふさわしい。


さらに、彼らの背後に堂々と立つのは、突撃型アタッカーのジーク・アシュレイ。赤い装甲が特徴の兄貴分で、見た目通りの豪快さと頼もしさを持つ男だ。


三年の最前線を担う彼らが並び立つだけで、その場の空気が一変した。


「ようこそ、シオンくん」


フラワは柔らかく微笑む。その表情は親しみを感じさせつつも、どこか試すような色を含んでいた。


「今日は一緒に戦えるのを楽しみだね、シオン。それに……リリアさんも」


名前を呼ばれ、シオンは驚いたように目を見開いた。だがすぐに、微笑を浮かべて応じる。


「……言ったな、楽しみにしてるって。こっちこそ、その期待に応えないとな」


「ふふ。じゃあ、手加減はしないから」


やり取りの間、フラワの視線は少しだけ柔らかく、どこか懐かしさを含んでいた。昨日の夕暮れの短い会話が、ただの言葉ではなかったことが、シオンにはわかっていた。


その横でセレナがくすっと笑いながら言葉を挟む。


「楽しそうね、フラワ。……でも、今日は“見学”じゃないのよ? 実戦。覚悟はできてる?」


リリアが一歩前に出て、落ち着いた微笑を浮かべたまま応じる。


「もちろん。全力で支援してあげる。……ただし、足を引っ張られるのはご遠慮しますけど」


「言うようになったわね」


フラワが口元に小さな笑みを浮かべ、視線をリリアへ移す。その態度は冷たさではなく、対等な相手を認めるようなものだった。


一方で、シオンは再びフラワを見つめていた。視線が交差する。


「……お互い、いいミッションにしよう」


「わかってる。背中は、預けてもいい?」


その言葉に、シオンは少し照れたように笑って頷いた。


カイが静かに一歩前に出て、穏やかだが芯のある声で全体に呼びかける。


「そろそろ作戦行動に移ろう。敵の動き次第で即時展開。命を預ける以上、言葉よりも動きで示そう」


リリアが軽く頷き、指示を飛ばす。


「各機、出撃準備。30分後、指定ポイントに展開開始」


淡い朝の光の中、緊張と信頼が入り混じった空気が満ちていく。



いつもありがとうございます。

次回お楽しみに!

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