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ディメンション・ノヴァ  作者: 酒本 ナルシー。
3章  信頼と疑念

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30話 指揮

夕暮れの整備棟には、工具とセンサー音が小さく響いていた。シオンは、明日使うノヴァのホログラムを前に腕を組んでいた。


「脚部装甲をミドルレンジ型に変更推奨。生存率17.6%向上」


「推進出力は維持できるか?」


「可能。スラスターVer3.2に換装、冷却ユニットを中型に」


シオンは端末を操作し、トールの提案を反映させる。ユニスの背部ユニットが変形し、より重厚なスラスターへと変わった。


「武装はどうする? 接近戦だけじゃ対応が遅れる」


「左肩に散弾砲推奨。射撃間隔0.9秒、装弾数5」


「オーバーヒートは?」


「11秒で熱暴走。対策として冷却効率10%向上パーツを追加可能」


「やってくれ」


「了解。実行中……完了。変更内容をログに記録しました」


一連のやり取りはすでにルーチンと化していた。トールの無駄のない補助に、シオンも無言の信頼を置いている。


整備を終え、整備棟を出たところで、ふと人影に気づいた。


そのとき――


「やっぱりここにいた」


背後からの声に振り返ると、フラワ・ストレリツィアが立っていた。制服姿の上に黒いミリタリージャケットを羽織り、風に髪を揺らしている。


「……フラワか」


「ふーん、冷たいね。明日、楽しみにしてる」


その言葉はどこか挑発的で、同時に含みを持っていた。


「お前……明日のミッション、知ってたのか?」


フラワは肩越しにシオンを見て、小さく笑う。


「さあ? どうだったかな?」


それだけを残し、彼女は歩き去っていく。


「……やっぱり、ただの共闘じゃ済まなさそうだな」


シオンは夜空を見上げ、ふと息を吐いた。冷たい空気の中、明日という戦いが、じわじわと迫っていた。


◇◇◇


薄暗くなり始めた空の下、アカデミーの中央戦略棟の会議室には、静寂が漂っていた。時間通りに現れたのは、3年目ランキング1位のリーダー、カイ・フォルセティ。


彼は無言で会議室に入り、すでに待機していたリリアに一礼を送る。

整えられた銀髪と鋭い目元、立ち居振る舞いからしても彼の放つ気配には威圧感がある。制服の袖には、トップランカーの証でもある金色のクレストが光っていた。


「カイ・フォルセティ。失礼する」


「うん。時間通りね」


リリアは表情を崩さずに席を勧める。二人が向き合うと、部屋の中央ホログラムが立ち上がり、作戦エリアの立体地図が投影された。


「……対象エリア、AI兵器の反応数、地形データ、既知のパターン、全て確認済みだ。問題は"未知の挙動"だな」


「ええ。通常のAI兵器なら問題なく対応できる。だけど今回は、前回の実戦で確認された“異常行動パターン”が報告されている」


「つまり――この任務、純粋な殲滅戦にはならないかもしれない」


「そう。もしかすると『接触』が前提になる可能性もある」


カイは顎に手を当て、しばし地図を見つめる。

その目は、戦況を既に頭の中でシミュレートしているかのようだった。


「我がクランは、前衛にジーク、後衛にエルナ、そして私が中距離と全体指揮。既にいつも通りの陣形で動ける状態だ。それと今回から新人が一人」


「こちらはまだ戦力にばらつきがあるけど……今回、1年生のシオン・ハートランドも投入される」


「……彼か」


カイの視線が一瞬鋭くなる。だが、否定でも軽視でもない。ただ、正確に“分析”している眼だった。


「お前が直接指揮するのか?」


「そうなるわね。彼に関しては、リスクもあるけど……見ておくべきだと思ってる」


「――ならば、戦場で判断させてもらう。足を引っ張る者がいれば、容赦はしない。それが最善を選ぶ上での礼儀だ」


リリアは少しだけ口元を緩める。


「そのつもりで、こちらも覚悟してるわ。あなたに見てもらいたいの。あの子が、何を見て、何を選ぶのか」


「……承知した」


会話が終わると、カイはすっと立ち上がる。すべてが最小限で、無駄のない動作。


「明朝、出撃前に最終編成確認を。予定通り0730集合」


「了解」


最後にリリアの目を真っすぐに見て、カイは一言残して会議室を後にする。


「――"戦場"で会おう。リリア」


扉が閉まった後も、部屋には緊張の余韻が残っていた。

リリアは深く息を吐き、ホログラムの地図を見つめ直す。


「……どうなるのかな、シオン」



リリアは指でホログラムの地図をなぞりながら、小さく呟く。


「シオン、あなたの選択次第ね……」


作戦の成否は、未知数のピースがどう噛み合うかにかかっている。


外の空はすでに群青に染まり、夜の帳が中央戦略棟を包み込もうとしていた。










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