19話 実力診断戦(スキル・アセスメント)中編
──ノヴァ、起動。
コックピットに収まり、シオンは深く息を吸い込んだ。
目の前のディスプレイには機体の状態が次々と表示されていく。
(対ノヴァモード起動)
(AIコントロール 36%)
ゲートが開くと、太陽の光が視界を満たし、シオンはゆっくりと機体を前進させた。
視線の先には、すでにスタンバイしているリリアの機体。
それは──
入学式のデモンストレーションで見た、あの機体だった。
白と青の機体、背中には翼のようなスラスター。
中量級ながら細身のシルエットに、後付けの装甲が各所に取り付けられている。
武装はすべて、彼女の企業の最新モデルだ。
右手:中距離ライフル
左手:アサルトライフル(高レート連射)
右肩:プラズマキャノン
左肩:高性能レーダー
左腕:エネルギーブレード
そのフォルムからして、スピードは相当速い。
間違いなく、スペックではこちらの機体を凌駕している。
シオンは思わず息を呑み、わずかに萎縮した。
「ふざけんなよ……スペック差ありすぎだろ」
そんなシオンの心中を見透かしたかのように、AIが冷静な声で言い放つ。
「機体性能の差、約10倍。」
「おいおい、やっぱ無理ゲーじゃねえか!」
「だが──」
AIの声に、いつになく確信が宿る。
「ノヴァの性能の違いが、戦力の決定的差ではないということを……教えてやる!」
「お前ふざけてるだろ!?」
シオンはイラッとしながら叫ぶ。
「もしこれで負けたら、お前アンインストールだからな!!」
──カウントダウン開始。
9……8……7……6……GPU起動
3……2……1……GO!
瞬間、加速する世界。
シオンの脳内加速が始まるが──
リリアの動きが、前回のBクラスの相手と比べ物にならないほど速い。
「やっば……!」
だが、適応できないほどではない。
問題は──
機体がついてこられていない。
リリアは開始と同時に中距離射撃を展開。
シオンはAIの指示通り弾幕を張りながら後退し、被弾しつつグレネードをわざと落とす。
バリア残量 30%付近。
リリアが動いた。
──左手の武器をパージ。
──ブースト最大出力。
──エネルギーブレード攻撃体制。
一気に距離を詰め、トドメを刺しに来る。
「来た!」
シオンは作戦通り、グレネードを踏みつける。
ドォン!!
爆発の衝撃と土煙が視界を覆う。
リリアの機体も煙の中に突っ込んできた。
──そして、煙が晴れる。
シオンの機体と、リリアの機体が重なり合っていた。
シオンの機体はブレードの一撃をギリギリで回避していた。
だが、バリア残量は10%。
対してリリアは──
彼女の機体の 頭部にパイルバンカーが突き刺さっていた。
しかも、バリアを貫通して。
沈黙。
観客席も静まり返る。
リリアも動けずにいる。
その静寂を破ったのは、AIの落ち着き払った声だった。
「実戦なら、私の勝ちだ。」
──試合終了。
短い電子音とともに、アカデミーの試合終了の合図が響いた。
結果は── リリアの勝利。
シオンのバリア残量は 10%。
一方、リリアのバリアは 90%以上を維持 していた。
アカデミーのルールでは、模擬戦において 直接的な機体破壊は禁止 されている。
そのため、バリア残量が30%以下になった時点で勝敗が決まる。
たとえ、実戦であれば パイルバンカーの一撃で勝負が決していたとしても、ここでは負けは負け。
「はぁ……」
シオンは長く息を吐きながら、コックピットのシートに背を預けた。
今の戦いを振り返ると、完全に AIの作戦が機能していた のは間違いない。
「……惜しかったな。」
呟くと、AIの声がすぐに返ってくる。
「模擬戦ルール上は敗北。だが、目的は果たせた。」
「は?」
シオンが不機嫌そうに聞き返すと、AIは淡々と続けた。
「リリア・ヴァルハント、『負けた』と理解したはずだ。」
「……?」
意味が分からなかった。
シオンはゆっくりとモニターを操作し、外部カメラの映像に切り替える。
そこには── 機体の頭部にパイルバンカーを突き刺されたまま動けないリリアの機体があった。
リリア自身もまだ状況を整理しきれていないのか、コックピット内で沈黙しているように見える。
バリアの数値ではシオンが負けた。
だが 実戦ならシオンの勝ちだった。
リリアはその事実を、嫌でも理解しているはずだった。
「シオン。お前は確かに負けた。」
AIが、いつになくゆっくりとした口調で続ける。
「だが、リリア・ヴァルハントもまた──お前に『敗北』したのだ。」
シオンは口を噤んだ。
確かに バリアの数値はルール上の勝敗を決める。
だが 機体同士の戦いにおいて、勝者と敗者を決めるのはそれだけではない。
リリアは、シオンが単なるDクラスの生徒ではないことを この一戦で理解したはずだ。
「……そうかよ。」
シオンは小さく笑い、機体を静かに停止させた。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
後編もお楽しみください。




