第一話 目覚
意識が浮上する感覚とともに、シオンはゆっくりと目を開けた。眩しい白い光が視界を満たし、全身に鈍い痛みが走る。
「——目が覚めましたか?」
落ち着いた低い声が耳に届いた。反射的に顔を向けると、白衣を着た女性がこちらを見下ろしていた。医師だろうか。
「ここは……?」
喉が渇いていて、声がかすれて思うように出ない。
「あなたが眠っていた施設ではありません。説明は後にします。まずは身体の状態を確認しましょう」
そう言うと、女性は淡々とした手つきでシオンの腕に計測機器を装着した。
シオンの頭は混乱していた。確かに、自分は病に侵されていた。そして未来に望みを託して、コールドスリープに入った——そこまでは覚えている。しかし、目の前の光景は、想像していた近未来のものとは大きく異なっていた。
「……まさか」
思わず呟く。
「俺……異世界転生したのか?」
医師の手が一瞬だけ止まった。
「……何を言っているんです?」
胸の奥が高鳴る。未知の場所、未知の技術。まるでゲームや小説のような展開だ。もし本当にそうなら——
「違うのか?」
期待を込めて尋ねると、医師はため息をついて答えた。
「あなたが眠っていたのは西暦2020年。今は西暦2320年です」
——え?
シオンの思考が、一瞬で凍りついた。
異世界転生の夢は、現実の重みによってあっけなく潰された。
意識が戻った直後、激しい痛みが襲ってくる。体を動かそうとしたが、両腕と足はベッドに固定されていて、天井の無機質な白い光だけが視界に映っていた。
「意識確認。生体データ正常。プロトコルを実行します」
無機質な音声が響く。直後、右腕に鋭い痛みが走った。皮膚を裂いて何かが内部に侵入してくる感覚。
「ぐっ……! な、何だこれ……っ!」
必死に暴れようとするが、身体はまったく動かない。冷たい何かが頭の奥に流れ込んでくるような感覚が広がっていく。
──神経リンク確立。UI同期開始。
突如、視界に青白い文字が浮かび上がった。
〈SYSTEM BOOTING〉
〈Neural CPU Integration: 20%... 45%... 78%...〉
「ちょっと待て、何をしてるんだ!? 俺は……っ!」
シオンの抗議など意に介さず、次々とデータが脳内に流れ込んでくる。
──Neural CPU統合完了。バイオUI適用。戦術AIインストール開始。
頭の中で、機械的なアナウンスが鳴り響く。視界の隅には、さらに新たな情報が表示される。
〈AI System: No.1128〉
〈戦術支援モジュール インストール中……〉
シオンの意識に、別の存在が入り込んでくる感覚。誰かが頭の中に住み着いたかのような、奇妙な違和感。
──パイロット識別完了。No.1128、起動。
──指示を待機中。必要な情報を提示してください。
無機質で抑揚のない声。それは感情というものを一切持たない、ただの機械の声だった。
「……は?」
シオンは困惑しきっていた。だが、考える間もなく、さらに大量の情報が頭に叩き込まれていく。
〈機体適応テスト準備中〉
目の前に表示されたのは、人型機動兵器——「ディメンション・ノヴァ」。戦場で使用される戦闘用機体の設計図とデータ。それらが、シオンの意識へ直接流れ込んでくる。
「な……何なんだよ、これ……!」
〈指示:訓練への適応を推奨〉
〈パイロットの認識適正評価を開始〉
混乱の中で、シオンの新たな人生が——否、戦場の現実が、強制的に幕を開けようとしていた。
読んでくれてありがとうございます!
引き続き読んでいただきたいです!




