18話 実力診断戦(スキル・アセスメント)前編
お披露目会 当日
アカデミーは普段、一般人が立ち入ることのできない閉ざされた施設だった。しかし、この日は違う。
年に一度の「お披露目会」――実力を示す場として、外部の人間にも門戸が開かれる。
スポンサー企業の関係者、軍関係者、他のアカデミーの要人――
普段は見ることすらできない重要人物たちが次々と到着し、アカデミー内はまるで祭りのような賑わいを見せていた。
豪華な服装に身を包んだ人々が、まるで見世物でも楽しむかのように会話を交わしながら、指定された観覧エリアへと向かっていく。
一流の生徒たちにとっては、ここでの戦いが将来を左右する重要な舞台となる。
だが、シオンにとっては――
「……気が重い。」
朝から、不安が全く消えなかった。
普段なら、時間が来るまで適当に模擬戦を見に行くところだが、今日はそんな余裕がない。
胸の奥にズシリと重たいものが沈み込んでいるような感覚がして、何をする気にもなれなかった。
そんな中、端末にメッセージが届いた。
――白衣の女からだ。
『くれぐれも言いつけを守るように。絶対に、余計なことはするな。』
シオンはメッセージを見て、わずかに顔をしかめる。
まるで何かを警戒しているような言い方だ。
「……ああ、わかってるよ。」
端末を閉じ、深呼吸をする。
シオンの試合は午後。
まだ時間はあるが、じっとしていても落ち着かない。
控室の場所を確認するために、試合会場へと向かうことにした。
試合会場
シオンの模擬戦が行われる会場は、アカデミーのメイン施設から最も遠い場所にあった。
華々しいメインアリーナとは対照的に、このエリアまで見に来る者はほとんどいない。
シオンは、少し気が楽になったような気がした。
(まあ、見られるのが少ないのは助かる……)
だが、それは同時に、期待されていないという証拠でもあった。
この場所を割り当てられた時点で、すでに勝負は決まっているとでも言いたげな扱いだった。
控室に入り、モニターを確認する。
会場内には、ちらほらと観客がいるのが見えた。
彼らは純粋な観戦者というより、「何か珍しいものを見れるかもしれない」と考えているような雰囲気だった。
シオンは小さく息を吐き、椅子に腰を下ろす。
AIとの作戦会議
『……そろそろ、作戦を説明する。』
AIがようやく、戦略を語り始めた。
「やっとかよ。ずっと不安だったんだけど?」
『問題ない。すべて計算の範囲内だ。』
シオンは呆れながらも、耳を傾ける。
【機体のアセンブル】
重量級はそのまま維持。
両肩にばら撒き型ガトリング砲×2を装備(広範囲に弾幕を張るため)
右手:パイルバンカー(近距離での決定打)
左手:グレネードランチャー(牽制および誘導用)
【リリアの戦術予測】
AIは、対戦相手であるリリアの戦術を事前に分析していた。
試合開始直後、リリアは中距離から攻撃を仕掛け、シールドを削る
シールド残量30%まで削ったら、一気に接近してブレードの一撃で止めを刺すつもりだ
これは彼女の過去の戦闘データから導き出された、最も高い確率の動きだった。
「……で、俺はどうすればいい?」
AIは淡々と言った。
『まず、開始と同時に弾幕を張りながら後退しつつ、グレネードを構えろ。』
「なるほど。遠距離から圧力をかけるわけか。」
『そして、ある程度被弾したところで、グレネードを"わざと落とせ"。』
「……え?」
『その後、リリアの攻撃をわざと受けながら、落としたグレネードの上に乗れ。』
シオンの脳内に、一瞬「?」が浮かぶ。
「いや、意味わかんねぇんだけど。なんでわざとグレネードを落として、それを踏むんだ?」
AIの声は静かだった。
『その先は、私にすべて任せろ。』
シオンは、モニターの向こうに映る静かな試合会場を眺めた。
AIの言葉を信じるしかない。
「……本当に、大丈夫なんだろうな?」
『当然だ。これは必然である。』
シオンの心臓が、嫌なほど早く鼓動を打ち始めた。
控室のドアが開き、試合開始のアナウンスが響く――。
長くなったので、3話にしました。
続く。