14話 強制
次の日の朝。
シオンは歯を磨きながら思考を巡らせていた。
(実力診断戦【お披露目会】までに、クランと対戦相手を決める……か)
脳内UIを起動すると、視界の片隅にクランの一覧が浮かび上がる。
手でタブレットを操作する必要はない。視線を動かせば情報がスクロールし、思考だけで検索条件を変更できる。
(Dクラスでも入れるクラン……あるのか?)
情報を精査しながら、シオンは深く考え込む。
(俺は……どこを目指すべきなんだ?)
決断の時が迫っていた。
(どのクランを選べばいい……?)
視界に浮かぶクランの一覧。
どれもピンとこない。
Dクラスの自分が入れるクランは限られていた。
(……リリアはどこにいるんだろう)
ふと、彼女のことが頭をよぎる。
リリア・ヴァルハント――Aクラスに所属し、実力も折り紙付きの生徒。
企業側の推薦があり、普通ならクランを組む立場にあるはずだ。
彼女のクランを調べようと思い、思考だけで検索をかける。
──検索結果:該当なし
「……え?」
目を疑う。
何度検索しても、リリアの名前はどのクランのメンバーリストにも載っていない。
(まさか……)
試しに「リリア・ヴァルハント ソロ活動」と検索してみる。
すると、新たな情報が表示された。
『3年目からソロでの活動を希望』
(ソロ……?)
1年目と2年目はクランに所属する義務があるが、3年目と4年目は自由。
リリアは、その自由を選んだのだ。
(三年のAクラスがクランに入らないって……何があった?)
リリアの戦績をさらに掘り下げようとするが、そこには詳細な記録がなかった。
唯一見つかったのは、曖昧な情報だけ。
『過去のミッションにおいて、重大な判断ミスが発生』
(……失敗?)
詳細は記録に残されていないが、関連するデータを探すと、ひとつだけ目につくものがあった。
『チームリーダー、作戦中に死亡』
シオンの胸がざわつく。
(……リーダーが死んだ?)
それがリリアのミスだったのか、それとも単なる事故だったのかは分からない。
だが、そのミッション以降、彼女はクランを組むことをやめ、ソロ活動を選択した。
その影響で、かつてランク1位だった彼女の学年ランクは、現在9位にまで下がっている。
(それで……一人になったのか)
記録には詳細な理由は書かれていない。
だが、もしそれが原因でクランを組まなくなったのだとすれば、リリアは一人で戦うことを選んだのかもしれない。
その時、脳内UIに冷たい電子音が響く。
『クラン選択において、リリア・ヴァルハントと組むことを推奨』
「は?」
思わず声を出すシオン。
『リリア・ヴァルハントとクランを結成することで、最適な戦闘パフォーマンスが得られる可能性があります』
「いや、リリアはソロで活動すると決めてるんだ。無理に決まってるだろ」
『一度会って話をすることを推奨』
「だから、無理だって!」
『会話を試みることで、交渉の可能性が生まれます』
「……いや、そもそも俺はリリアと話したことすらないんだぞ?」
『強制指令:リリア・ヴァルハントとの会話を試みること』
「っ……!」
視界に、強制指令の通知が点滅した。
脳内UIを通じて、思考レベルで命令が押し付けられる。
シオンは歯を食いしばった。
「……クソッ、わかったよ! 会えばいいんだろ!」
渋々ながら、シオンはリリアに会いに行くことを決意する。
(どうせ断られるに決まってる……いや、もし――リリアが俺と組むと言ったら?)
ありえない。
でも、完全に否定できない自分がいた。
リリアとの再会が、シオンの運命を大きく変えることになるとも知らずに。
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