プロローグ
異世界転生だと思ったら300年後の世界です。
「損傷率20%」
AIが冷静な音声で告げる中、荒野には無数のノヴァ(人形戦闘用兵器)の残骸が転がっていた。血塗られた戦場は静寂に包まれ、一面に広がるのは死と破壊だけだった。
コクピット内、パイロットは一瞬だけ息を吐き、顔に張り付く汗を拭った。
(この程度か……つまらんな)
周囲に散らばるノヴァの破片を一瞥し、機体のエネルギーブレードを振り払う。焼けた金属の匂いが想像できるほど、機体の手は血と油で塗れているかのようだった。
「増援を確認。カーストランク 8、7、5、4。接近戦モード。」
AIの声と共に、彼方から新たな機体群が高速接近してくる。
「ハッ……まだ来るか。」
パイロットの口元が不敵に歪む。
「オーバークロック作動。」
瞬間、機体の駆動音が悲鳴を上げた。強制的にリミッターを解除し、推進機関は限界まで引き上げられる。
「オオオオオオッ!!!」
機体が爆発的な加速を見せ、4機のノヴァのうち2機を瞬く間にブレードで切り裂く。
「う、嘘だろ……!? 化け物か!!」
残った2機が恐怖に駆られ、一瞬だけ動きが止まる。
(怖気づいたか……そんな暇は与えん)
一気に距離を詰め、左の機体のコクピットへ一直線にブレードを突き刺す。
「増援を確認。カーストランク 11、10、9、6、3。全機接近中。」
「来たか……!!」
新たな増援5機が一斉に包囲を完成させる。
「すまない……遅れた。」
通信越しに響く敵パイロットの声。それは謝罪の意を示すと同時に、確実な死への恐れでもあった。
「機体損傷率60%。残弾数19%。」
「クク……ッ、はははは!! おもしれぇ……!!!」
パイロットは狂気に満ちた笑みを浮かべ、両腕のライフルをパージ。代わりに両腕のエネルギーブレードを構え、推進機関を最大出力まで引き上げた。
「行くぞ、地獄の底まで付き合え!!」
機体が凄まじい速度で突っ込み、目の前のノヴァのコクピットへ躊躇なくブレードを突き刺した。
同時に他のノヴァたちが一斉に射撃を開始する。だが、パイロットは止まらない。
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「やぁぁぁぁッッ!!!」
狂気の笑みを浮かべながら、ヴェナトールは目の前のノヴァへと刃を突き立てた。
瞬間、ノヴァのコクピットから火花と爆炎が噴き出し、内部にいたパイロットの絶叫が通信越しに響き渡る。
「やめろぉぉぉぉッ!!」
パイロットの悲鳴など意に介さず、パイロットの機体は次の獲物へと突進する。
「増援機残数5……」
敵の数が減り続ける。だが、パイロットの口元に笑みは消えていた。
(……クソ、身体が重い)
オーバークロックによる機体負荷と、被弾による損傷が限界を迎えつつあるのを理解していた。
「機体損傷率78%。エネルギー残量15%。推進機関、臨界温度突破。」
(わかってる……まだだ……まだ終わらせねぇ)
目の前のノヴァの機体へブレードを振るう。しかし、その瞬間――
「くっ!?――ぐぁぁぁぁぁッ!!!」
背後から放たれたミサイル弾頭が直撃し、機体の右肩装甲が弾け飛んだ。
「損傷率89%……致命傷までカウントダウン開始。」
「クソがァァァッ!!!」
振り返ると、7機のノヴァのうち3機が連携を取って集中砲火を開始している。明らかに冷静さを取り戻し、ヴェナトールの戦闘スタイルを解析し始めていた。
(……やれるもんならやってみろよォッ!!)
パイロットは機体を強引に反転させ、ブースターを限界まで吹かす。
「右手エネルギーブレード、使用不能。」
だが、それでも刃を振るい、2機のノヴァの胴体を断ち切った。
「損傷率93%……94%……」
そこへ、残った4機が一斉に重火器を発射。
「っが……はァッ……!!」
機体の胸部装甲が崩壊し、コクピット内に警報音が鳴り響く。
「まだ……まだぁぁぁぁッ!!」
最後の力を振り絞り、目の前のノヴァへ斬りかかる――。
しかし――
「損傷率100%。エネルギー炉、沈黙。」
ズドォォォォォン!!
ヴェナトールの膝が砕け、機体は崩れるように倒れ込んだ。
「パイロット、バイタル低下。コクピット浸水……」
「クソッ……ここで……終わる……?」
視界が薄れ、意識が遠のく中――
「目標、ヴェナトールの無力化を確認。」
通信越しに冷徹な声が響く。
「これより……回収を開始する。」
――まさか、"奴ら"が来るとはな……
最期に浮かんだのは、地獄のような光景と、憎き敵の姿だった。
「……まだ、生きてやる……」
しかし、次の瞬間――コクピットごと彼は連れ去られた。
ここまで読んでくれてありがたいです。
続きも読んでいただきたいです!