第16階 マウント取るなよ…
「なぁ、ちょっと思ったんだけど」
16階にたどり着いた時に、レイセイが行った。
「なんだ?」
キマジメが聞き返す。
「お前らってさ、新しい魔法を覚えないの?」
「新しい魔法?」
ノンビリもレイセイに聞き返す。
「いや、これから魔物はどんどん強くなるだろ?だから今のうちに新しい魔法を覚えておいた方がいいんじゃないかと思ってさ」
「確かにそうですね。私の回復魔法も追いつかなくなっていますし」
シトヤカとレイセイの意見に賛成した。
「でもさ、新しい魔法ってどうやって覚えるの?」
ノンビリが聞いた。
「まぁ…、ノンビリは魔法を覚えずにここまで来たからな…」
キマジメが下を向く。
「お、ということは俺はスゴイのか?」
ノンビリはいきなりな得意げな感じになった。
「マウント取るなよ…」
キマジメはうっとおしそうに手で払い除けた。
「まぁ、ノンビリは特別として、他のメンバーは新しい魔法を覚えておいた方がいいと思うんだ」
レイセイが言った。
「なるほど、これから敵が強くなると回復しきれない場合もありますもんね」
「今のところ真剣に考えてくれるのシトヤカさんだけだよ」
レイセイは泣く振りをした。
「俺だって真剣だよ…」
キマジメが決まりが悪そうに言った。
「どんな魔法を教えてくれるんだ?」
ノンビリがレイセイに聞いた。
「今回教える魔法はね、体の中にある気を指先に集めて一気に放つ技だよ」
「なんか…、よくわかんないな」
ノンビリは頭を抱えた。
「まぁ、実際にやってみせるね」
レイセイは岩の前に立った。
「…行くぞ…」
レイセイが指を突き出す。
レイセイの指先に気が集まり、眩しいぐらいに光っている。
「…気が集まっています!」
シトヤカが言った。
「ハッ!」
レイセイが声を出すと、指先の光は岩に向かっていった。
光に当たった岩は、バラバラに崩れた。
「す、すげぇ…」
キマジメは絶句した。
「これができるようになれば、少しは魔物も倒せるようになるだろ」
レイセイは得意気な顔をした。
「いや、これ、相当難しいぞ」
キマジメがやっと言葉を絞り出した。
「大丈夫だ。俺はこれを1ヶ月で覚えたから」
レイセイはまた得意気な顔をした。
「マウントとるなよ…」
キマジメが遠い目をした。
「ノンビリ、これ、習得してみるか?」
レイセイはノンビリに聞いた。
「これ覚えれば、強くなれるのか?」
ノンビリはレイセイに聞いた。
「あぁ、かなり強くなれるぞ」
レイセイはにっこりと笑った。
「…ノンビリ、これ覚えるのか?」
キマジメが聞いた。
「…俺、強くなりたいんだ」
ノンビリがいつになく真面目なトーンで言った。
「俺、気がついたんだ。妹を救うためは今のままじゃダメなんだって」
「ノンビリ…」
キマジメがノンビリを見つめる。
「俺はもっと強くなりたい。強くなって必ず妹を取り返したい」
ノンビリはレイセイの顔を見て言った。
「…わかった。相当な覚悟を持っているってことだな」
レイセイが笑った。
「よし!わかった!1ヶ月のところを今回は1週間で習得させてやる!」
レイセイはノンビリの肩に手を置いた。
「あぁ、よろしくな!」
こうして、ノンビリとレイセイの特訓が始まった。
そして、1週間後。
「よし!特訓の成果を見せる時!」
ノンビリとレイセイは1週間前と比べると、精悍な顔つきをしている。
「はぁ…、1週間もここで足止めを食っちまったよ…」
キマジメがあくびをした。
「結構暇でしたね…」
シトヤカも言った。
「それも今日で終わるぞ!」
「終わるぞ!」
ノンビリとレイセイが続けて言った。
「何なのそのテンション」
キマジメがツッコむ。
「早速特訓の成果を見せてやるぜ!ノンビリ、行くぞ!」
「おう!」
ノンビリはそう言うと、岩の前に立った。
ノンビリは指を突き出すと、気を指先に集中させだ。
ノンビリの指先に気が集まってきている。
「え?まさか…」
キマジメは身を乗りだした。
「ホントに習得しちゃったんですか?」
シトヤカものぞきこむ。
「ウォォォッ!」
ノンビリが雄叫びを上げる。
それと同時に気が指から離れた。
しかし、気はかなり小さく、岩に届きもしなかった。
「…あれ?」
キマジメとシトヤカは目を丸くした。
「全然届いていないんだけど…」
ノンビリがレイセイの方を見る。
「…なんというか、やっぱり1週間じゃ無理みたい。ゴメン」
レイセイは誤魔化した。
「ふざけんなよ。俺たちはここで1週間も足止め食らったんだぞ」
キマジメはレイセイに食ってかかる。
「ゴメン、早くしなくちゃいけないかな、っと思って」
レイセイは必死になだめる。
「やっぱり習得するには相当な時間がかかるんだよ。だから、これから根気強く覚えていけばさ…」
「だったら、『1週間で習得させてやる!』なんて言うなよ!」
キマジメはかなり怒っている。
「ほ、ホントにすいません…」
「ヘラヘラするな!」
「あ、できた」
キマジメとノンビリが言い争っていると、ノンビリが声を上げた。
キマジメが岩の方を見ると、岩が砕けている。
「ほ、ホントに…?」
「うん。かなり遅れたけど。シトヤカさんも見てたよね?」
「はい、かなりすごかったです」
シトヤカが言った。
キマジメはレイセイの方に向き直ると、
「なかなかやるじゃん…」
と言った。
「わかってくれればいいんだよ」
レイセイはなぜか誇らしげだった。