第15階 じゃあ、このフロアはのんびりできるな
「15階に着いたな」
階段を登り終えたノンビリが言った。
「ここで一区切りついた訳だ」
「何の一区切りなんだよ」
キマジメがツッコむ。
「このフロアには魔物はいなさそうだな」
レイセイが辺りを見回しながら言った。
「じゃあ、このフロアはのんびりできるな」
ノンビリは笑顔で言った。
「妹を救うんだよな…?」
キマジメがノンビリに言った。
「じゃあ私、そこら辺を見てきますね」
シトヤカはそう言うと、奥の方に行ってしまった。
「もう…、魔物がいないとわかったらこれだもんな…」
キマジメは眉間にシワを寄せた。
「まぁまぁ、たまにはこんな時があってもいいんじゃないか?」
レイセイがキマジメの肩を叩く。
「だいたい、みんな危機感が無さすぎなんだよ。ノンビリの妹を救うためにこのダンジョンに挑んでいるのに、誰も急ごうとしないんだから…」
「いや、まだ大丈夫だろう…」
「だいたい、ノンビリは昔からあんな感じなんだよ。何にしても取りかかるのが遅いし、途中で寄り道ばっかりするし、あいつのおかげで何度も…」
キマジメがくだを巻いてきた。
「キマジメ、お前、結構苦労してきたんだな」
レイセイがキマジメに同情する。
「…わ、悪かったよ…」
ノンビリは苦笑いした。
「あの…」
シトヤカが戻ってきた。
「あ、シトヤカさん、どうしたの?」
「あの…、建物を見つけたんですけど…」
シトヤカが控えめに言った。
「え?このフロア内に?」
キマジメが目を丸くする。
「はい、ちょっと小さめですけど…」
「行ってみようよ!」
ノンビリが笑顔になる。
「なんでお前はテンションが上がっているんだよ」
キマジメがテンション低くツッコむ。
「いや、フロア内に建物があるんだぞ?行くしかないだろ!」
「ノリノリだな!」
今度はキマジメがテンション高くツッコむ。
「まぁ、とりあえず行ってみようよ」
レイセイは冷静さを装っているが、口元が緩んでいる。
「いや、お前もテンション上がっているんかい!」
キマジメがまたテンション高くツッコむ。
「ここです」
シトヤカの案内でノンビリ達は建物の前に着いた。
「…思ったより大きいな」
キマジメが言った。
キマジメの言う通り、フロア内に建っているにしてはかなり大きめな建物で、かなり存在感がある。
「ここ、誰かいるのかな?」
レイセイが建物の入口らしきところを覗きこむ。
「レイセイ、どうだ?」
キマジメがレイセイに聞く。
「…」
レイセイは驚きとどうしていいか分からないといった顔をしている。
「なんだ?何かあったのか?」
「…人がいる」
「…は?」
ノンビリ達は固まってしまった。
「だから、人が中にいるんだよ」
「…怪しすぎる…」
キマジメが怪しむ。
「…よし、入ってみよう!」
ノンビリは決意を固めた。
「いや、お前本気かよ…?」
キマジメが脂汗をかく。
「大丈夫だよ。敵だったら倒せばいいんだよ」
「いや、そういう話では…」
キマジメが止めるのも聞かず、ノンビリは建物に入っていった。
「ノンビリさん、普通に入っていきましたね…」
シトヤカが苦笑いを浮かべる。
「あいつはまた、人の話を聞かないで…!」
キマジメが怒る。
「こうなったら俺たちも入るそ!」
「いや、結局入るのかよ」
レイセイがツッコむ。
ノンビリの後を追うように、キマジメは建物の中に入っていった。
「あ、ノンビリ…」
中は店みたいなつくりになっていた。
前の方にテーブルがあり、そこにノンビリが座っていた。
ノンビリの目の前には、細身のスーツを着ている男が立っていた。
「ノンビリ!」
「キマジメ!」
キマジメの呼びかけにノンビリが応える。
「大丈夫か?この男に変なことされてないか?」
「お母さんかよ」
レイセイがまたツッコむ。
「だって、勝手にひとりで行くから…」
キマジメは少しに弱気になる。
「キマジメ、ここはな」
ノンビリがキマジメに何かを伝えようとしている。
「ここは…?」
「バーなんだ」
「…は?」
キマジメ達はキョトンとする。
「だから、ここはバーなんだ。冒険者達が一休みするための」
ノンビリの一言に、キマジメは肩の荷が降りたかのようにその場を倒れこんだ。
「…色々お騒がせしました…」
キマジメが男に謝る。
「いえ、別に構いませんよ」
店主はニコッと笑った。
「どうしてここにバーを開こうと思ったのですが?」
シトヤカが聞く。
「はい、こちらは冒険者の皆様が夜な夜な魔物討伐のために訪れます。かなり疲れている方がほとんどですので、私が少しでも疲れを癒して差し上げよう、と思いまして」
店主は柔らかな声で言った。
「頭が下がります」
「いや、嘘つけよ」
ノンビリにキマジメがツッコむ。
「とりあえず、何か飲もうぜ」
「あ、私、お酒飲めないです…」
シトヤカが申告する。
「すいません、ジュースってありますか?」
「はい、ございますよ」
店主はニコッと笑った。
「はぁ、飲んだ飲んだ」
建物を出たノンビリは少し満足そうだ。
「かなり良さそうなお店でしたね」
シトヤカも満足そうだ。
「キマジメも少し寛容になったらどうだ?ただ怪しむだけじゃなくて」
レイセイがキマジメに言う。
「いや、それが敵だったらどうするんだよ」
キマジメがツッコむ。
「あ、あそこに面白そうなのがある!」
ノンビリはまた走り出した。
「おい、だから危機感を持てよ!」
キマジメ達も後に続いて走り出した。