第11階 お前たち、もうすっかり仲良しだな
「もう11階か…」
ノンビリが言った。
ノンビリ達は、ドクヅクから「白露の剣」というなんでも願いを叶えてくれる剣の情報を聞いた。
それがあれば、妹も助けられるかもしれない。
「なぁノンビリ、その『白露の剣』っていうのは本当にあるのかよ?」
キマジメがノンビリに聞く。
「あぁ。ドックさんから実際に聞いたから間違いないよ」
「ドックさん?」
「あぁ、昨日会った旅人だよ」
「お前、よく会ったばかりの人にそんなことが聞けるな」
キマジメはため息をついた。
「ははは…、それほどでもないわ」
ノンビリは照れ笑いをする。
「褒めてないわ!」
キマジメが突っこむ。
「さぁ、ここで朝食にしましょうか」
シトヤカがバッグから食べ物を取り出す。
「いやぁ、シトヤカさんが料理を作ってくれるから、食べ物にはすっかり困らなくなったなぁ」
ノンビリがそう言うと、
「いや、そんな…。大した物も作っていませんし…」
とシトヤカも照れ笑いをした。
「お前たち、もうすっかり仲良しだな」
キマジメが2人のやり取りを横目で追う。
「いや、そ、そんなことないですよ…」
シトヤカがまた照れ笑いする。
「だから、なんで照れるんだよ…」
キマジメがまたつっこむ。
「はー、食った食った」
ノンビリは腹を抱えて、床に寝転んだ。
「気に入っていただけて嬉しいです」
シトヤカは静かに微笑んだ。
「俺も腹一杯だ」
キマジメも横になる。
「こんな時に敵が来たら、腹一杯で戦闘にならないだろうな」
「まさか、そんなことはないわ」
ノンビリとキマジメは笑いあった。
「あの…、そのまさかが起きているんですけど・・・」
シトヤカが言った。
「シトヤカちゃん、いくらなんでもこんなときにモンスターなんで出るわけ…」
ノンビリが笑うと、背後から何か物音がした。
「…ウソでしょ……?」
ノンビリは今できる精一杯の笑顔で言った。
ノンビリ達の背後には、ノンビリ達の2倍はあろう体格のサイクロプスが立っていた。
「…サイクロプス…!」
キマジメが青ざめた表情をした。
「サイ…クロプスはこのダンジョンには出ないはずなのに…、なんでいるんだよ?」
キマジメの言う通り、サイクロプスはノンビリ達が今いる中級ダンジョンでは出現しない魔物である。
だが、そのサイクロプスが目の前に現れたというのはどういうことなのか。
「とりあえず攻撃だ!」
キマジメの合図で、ノンビリとシトヤカは構えた。
「行くぞ!」
ノンビリは剣を抜いて、サイクロプスに向かって走っていった。
「ウォォォ…」
すると、サイクロプスは地鳴りのような雄叫びをあげた。
「な、なんて声だ…」
キマジメが怖気付く。
ノンビリもその雄叫びに面食らう。
「でも…、俺たちがここでやられる訳には…」
ノンビリは何とか自分を奮い立たせる。
自分がここで倒されてしまえば、妹は助からない。
「シトヤカさん、何か相手の能力を下げる魔法とかはないの?」
ノンビリは僅かな可能性にかけて、シトヤカに聞いた。
「…1つだけなら…」
シトヤカが遠慮がちに答える。
「…よし、それをサイクロプスにかけてくれ!」
「はい」
シトヤカは一歩前に出ると、サイクロプス詠唱を始めた。
サイクロプスは少しクラっときている様子だった。
「防御力を下げる魔法をかけました。あとは思いっきり攻撃して下さい」
シトヤカが凛とした感じで言った。
この娘、こんなに立派になっちゃって…。
ノンビリは、しばらく会っていなかった親戚の子がものすごく大人っぽくなっていた時の気持ちになった。
「よし、やるぞ!」
ノンビリはサイクロプスに向かって攻撃を仕掛けた。
しかし、サイクロプスはまた雄叫びをあげた。
ノンビリはまたその場に倒れこんだ。
「攻撃できない…」
ノンビリはこの時、ゲームで攻略法はわかっているのに、なかなかクリア出来ない時の気持ちになった。
「くそ、近づくことさえ出来ないなんて…」
キマジメは悔しそうな表情を浮かべた。
その時だった。
「お兄ちゃん達、どいてな」
聞きなれない声が聞こえた。
「え?だ、誰?」
キマジメが辺りを見回す。
すると、サイクロプスは突然倒れてしまった。
「すげぇ!キマジメ、いつの間に強くなっていたのか?」
ノンビリはキラキラした目をキマジメに向けた。
「い、いや、今のは俺じゃないよ…」
キマジメが否定する。
「え?じゃあ、誰が倒したんだ?」
ノンビリも辺りを見回す。
「…まさか、シトヤカさんじゃないよね?」
ノンビリがシトヤカの方を見る。
「ま、まさか…。私、攻撃魔法とか覚えていませんし」
シトヤカが手を振って否定した。
「そうだよな、シトヤカさんを危険な目にあわせたくないもんね」
「ノンビリさん・・・」
「おい、イチャイチャしてる場合じゃないぞ」
キマジメが2人を現実に引き戻す。
「なんだ、お前ら付き合っているのか?」
男が口を開いた。
「な!」
「う!」
ノンビリとシトヤカは声にならない声を出した。
「いや、そ、そんな訳ないじゃないか!」
「そ、そうですよ!」
ノンビリとシトヤカは必死で否定した。
「本当か?何か怪しいぞ」
男は人をからかって楽しんでいる顔になった。
「あの…、あなたは何者なんですか?」
キマジメが男に聞く。
「おっと、まだ名乗っていなかったか」
男が頭をかいた。
「俺は弓使いのレイセイ。よろしくな」
レイセイは握手を求めた。
「あ、どうも」
ノンビリ達も握手に応じた。
「あの…、なんで俺たちを助けたんですか?」
キマジメがレイセイに聞く。
「いや、困っている冒険者がいたら助けるだろ」
レイセイはさも当然といった感じでこたえた。
「そういうものですか…」
キマジメがわかったようなよくわからないリアクションをした。
「どうだ?上の階にあがって話をしよう」
レイセイは階段を上がっていった。
「…何か勝手に仕切り始めたんだけど」
「大丈夫なんですかね…」
ノンビリ達は疑念を持ちつつ、階段を上がっていった。