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第六十三話 集合写真

 私が着飾ったお馬さんや牛さんを想像していたら、辰月様の笑い声が聞こえてきました。


「ふふっ、美鶴の頭の中にはどんな姿の馬と牛がいるんだ?」


 私が考えることなどお見通しなのですね。流石辰月様です。それとも私の思考回路が単純なだけ……?


「豪華な着物で着飾った姿なのか、それとも専用の姿なのか考えておりました」

「両方かな。要するに好みだ。他のと同じじゃ嫌だってお方もいるからな」


 唯一無二が好まれる場合もあると。ふむふむ。


「もっと大きな象さんやキリンさんはいないのですか?」


 見栄や権威を示すのならもっと大きな生き物のほうが効果的ですからね。


「象はデカすぎだからなぁ。どうなんだろ? キリンって神獣の麒麟のことか?」

「ええっと、キリンは首がとっても長い動物ですよ。私も絵でしか見たことはありませんが、角が生えているそうです」


 確か不思議な模様もありましたね。首だけでなく脚も長いのです。


「それってやっぱり神獣じゃないか? けど首は言うほど長くないか」

「別の生き物です。角は一本ではなく複数あるそうで、南の国に生息しているみたいですよ」

「そうか、別物なのか。へぇ」


 象さんやキリンさんは日本に来てから年月が経っていないので、まだこちらには来ていないそうですがそのうち現れるかもとのことです。……うーんと、どういうことなのでしょうかね。さっぱりです。象さんは結構昔から日本に来ていたはずですし。もしや日本生まれ日本育ちでないといけないのでしょうか?


「いつか着飾ったお馬さんや牛さんを見てみたいです」


 思わず言ってしまいましたけど無理ですよね。残念です。


「じゃあ俺達の式の時にお願いしてみるか? 誰かと専属契約をしていない侍女や侍従ならやってくれると思うぞ」


 なんと! 自己表現の場はなかなかないそうなので、自分達の宣伝にもなるからやってくれる可能性が高いそうです。


「式……」


 生贄としての役目を果たす日が近づいてきています。

 皆さんの前でむしゃむしゃされてしまうのでしょうか。せっかく作ってくださった立派な着物が血まみれになってしまうのでしょうか。痛みはあるのでしょうか。

 ハッ、もしや血まみれになって着物が完成する……というのはないですよね、多分。恐ろしい想像をしてしまいました。


「そんな不安にならなくて大丈夫だ。座っていればいいだけだから」

「座っているだけでいいのですか?」


 台に立たされるのかと思っていました。そして品評会のようなことをするのかと。


「訪問客に挨拶するんだが、美鶴はまだこちらに知り合いはいないだろ? だから俺の知り合いしか呼んでいないんだ」

「それで私は座っているだけでよいのですね」

「うん。……あ、美鶴を治療してくださった先生方も呼んだんだった」


 目と耳のお医者様ですね。お二人の治療のおかげで美味しい生贄に近づけたのです。お礼を言いませんとね。


「あとは臘月兄さんも呼んだ」


 海岸で会った方ですね。式には奥様とお子さんもご一緒だとか。


「そういや俺の先輩や上司が美鶴を見たがっているって弥生姐さんが言ってたな……」

「弥生様もいらっしゃるのですか?」


 弥生様はどんな女性なのでしょう? 耳のお医者様の女性と親しいみたいですよね。月の一族なのでお美しいのは間違いないでしょう。


「ああ勿論。小さい頃から世話になっているからな」

「では辰月様がどのようなお子でらしたのか聞いてみましょうかね。うふふっ」

「えー……恥ずかしいからやめてくれよぉ」


 辰月様は自分で話すからとおっしゃいますが、やはり他者から見てどうだったのか知りたいのです。


「俺は良い子にしていた……と思う」

「お利口さんだったのですね」

「そうだぞぉ。利発な子だと誉められていた。……あ!」


 私がどうしたのかと聞くと、辰月様が棚から紙切れを取り出されました。いつの間に引き出しに入れられたのでしょう? 大きさからすると写真でしょうか?


「ふふん、前に美鶴が見たいって言っていた俺の子ども時代の写真だ」

「み、見せて下さい!」


 辰月様が以前おっしゃった通り、何人かの子が動いてしまっておかしな事になっています。こうなってしまった子の中に辰月様がいらっしゃるのですね。


「どこに俺がいるかわかるか?」

「探してみせます」


 まずは男女で分けましょうと思いましたが、顔の判別がつかないから着物で見分けましょうかね。ええっと……皆さん同じ格好をしていますね。では髪型を……、皆さん同じように一つに束ねているのでこちらでも判別は難しいです。辰月様も町中の皆さんも男性は短髪の方が多いですけど、撮影時は違ったようですね。


「見つけられたか?」

「いいえ、まだです。ですが見つけてみせます」

「俺でも見ただけじゃわからなかったのに見つけられるかなぁ」


 辰月様は記憶を頼りにご自身を見つけられたそうです。


「うぬぬぬ……」


 顔がわからないので、どのお方も辰月様に見えてきてしまいました。だって皆さん同じ髪型と背格好なのですもの。


「降参するか?」

「ちょっと動いてしまったのか、いっぱい動いてしまったのかだけでも教えていただけますか?」

「ちょっとだな」


 フッ、わかっておりましたよ。辰月様はお利口さんでしたので、動いたとしても少しだけだとね。


「うーん、この子かこの子かこの子か……」

「おいおい当てはまるの全員じゃないか。けどその中にいるぞ」

「ううーん……」


 顔はぼんやりとだけなら見えますので、一番顔貌が良い方を選びましょう。ってそれが出来ないから凝視しているのですよ。


「三分の一なんだからそんなに悩まなくても……」

「間違えたくないのです。決めました。辰月様はこの子ですね!」


 この写真では面影とかもわかりませんので、理由は何となくです。心なしか他の子達より賢そうに見えた……ような気がしたからです。


「お、正解だ。よくわかったなぁ」

「よかったです……」


 安堵で頬が緩みました。正解出来て本当に良かったです。


「俺達のあいの力のおかげだな」

「愛?」


 思わず愛だと思ってしまいましたけど、まさか神様と生贄の間に愛だなんて、ねぇ?

 おそらく違う()()ですよね。すぐには何も思い浮かばないですけども。

 あ、私は辰月様を敬愛しておりますので、愛の力と言えばそうなりますね。きっとそういう意味なのでしょう。


「え、違うのか?」

「いえ、違わないです。その通りだと思います」

「だよな」


 辰月様が笑顔になられました。きっと辰月様からの愛は愛着の愛だと思います。いえ、もしかしたら……。


(愛玩?)


 こう考えると色々とあてはまるような? 飼い犬や飼い猫を家族同然に扱う方もいらっしゃるそうですから、あり得ますね。


「どうした?」

「え? 何でもございませんよ」

「怪しいなぁ」

「愛されているのってこんなに幸せなのだなと思ったのです」

「な、なんだよ。そういうことか」


 辰月様の腕が伸びてきて抱き締められました。おお、わかります。愛しいものを見ると、ぎゅっとしたくなりますよね。なでなでしたくなりますよね。……匂いも嗅ぎたくなるのでしょうか? これはちょっとわからないですね。




 私は辰月様がお風呂に入ってらっしゃる間に、海で拾った貝殻を並び替えました。千代紙との相性も考えなければならないので意外と頭を使うのですよ。毎日やっていると前にもやった配置にしそうになりますが、今のところは回避していると思います。少なくとも使用と未使用の千代紙は分けているので全く同じなのはないでしょう。


「お、今日は一列か」

「ええ、大きさ順に並べてみました」


 辰月様の登場に驚きましたが、そろそろかと思っておりましたので最小限の驚きで済みましたよ。


「前は色味で並べてあった気がする」


 何という記憶力をお持ちなのでしょう。言われるまで忘れておりました。うう、頬が熱いです。


「あ、一列は一列でも扇状に並べていたこともあったよな」

「よく覚えてらっしゃいますね……」


 作った本人よりも覚えておられる……。これは記録しておくべきでしたね。今からでも遅くないでしょうか。


「フッ、美鶴が作ったものなんだから当然だろう」


 辰月様の満面の笑みが眩しいです。しっかり記憶しておきましょう。まぁ、記憶していなくてもすぐに思い出せますけどね。それも様々な笑みを様々な角度から。


「別の海に行ったら違う貝殻が見つかるかもな」


 その時私は辰月様の肉体の一部になっていることでしょう。


「巻き貝もありますかね?」

「あると思うぞ」

「拾ってきたら、ここに飾ってくださいますか?」


 私は飾れませんから……。きっと辰月様なら格好良く飾ってくださいます。


「ん? ああもちろん。美鶴の好きなようにしてくれて構わない」

「え、私がですか?」


 まさか式の前に再び海に?


「え、いつも飾ってくれているだろ? ……どうした?」

「辰月様が飾ってみたりは……」

「俺がいじってもいいのか? 俺がやるといつも似たようなものになると思うけど……」

「何の問題もありません。むしろそうするしかありませんから」


 ハッ、強制はよくないですよね。別に私がいなくなったら片付けたっていいのですから。それなのに辰月様の手を煩わせて並び替えてくれだなんて……。そもそも飾ったままにしてくれと言える立場ですらないのに。


「そ、そうなのか。じゃあ今度やってみようかな……」

「いえ、申し訳ございません。貝殻は辰月様のお好きなようになさってください」


 私の口からは処分とは言えませんでした。出来れば見て思い出して欲しいので。


「……あ、うん。じゃあ美鶴に任せようかな」

「では貝殻は置いたままにしていてくださいますか?」

「ん? 構わないが……」


 よかったです。これで仮に埃が被ったとしても私が関わった物が残るのですから。

 貝殻の話が終わったので、辰月様のお背中にボディクリームを塗らせていただきました。こんな日がずっと続いたらよかったのに。式の日はもうすぐです。




 あと5話で1章が終わります。

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