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第五十二話 土下座?

 侍女のお二人が帰られました。ちなみに今日の夜食のおにぎりは二つにしてもらいました。これを食べてしっかり太りましょう。目指せ食べ応えのある生贄!


(ふぁああ……。流石に四日目になると眠たいですね。辰月様の夜番は明日で終わるそうですから何とか耐えませんと)


 辰月様と同じ時間に活動するとなると、侍女のお二人も必然的に夜間の勤務になります。お二人の負担になってはいけないと思い、時間をずらしました。ですけど、よかったのでしょうかねぇ。お二人はいつもより長く寝ていられるから嬉しいと言っていましたが、収入はどうなんでしょう?


(きっと減ってますよねぇ……。けれど夜遅くまで一緒にいてもらうなんて悪い気がします)


 しかし夜間のほうがお給料が良いですから、本当は夜間勤務をしたかったと思っているかもしれません。通常より勤務時間が短いので、きっとではなく確実にお給料が減っていますよね。


(変な配慮をしたばっかりに……。次の夜番に備えて意見を聞いてみましょうかね。……あ)


 ああ、次などないのでしたね。


(落ち込んでちゃいけません。美味しい生贄になるために負の感情は捨てるのです。そうです。何か楽しいことを思い出しましょう。庭園では色んな景色を楽しめましたし、美味しいお団子もいただきました。海は大きくて綺麗でしたね。太陽の光を反射してキラキラしていました。磯の生き物はなかなか個性的で吃驚しちゃいましたけど。あっ、お寿司もお弁当も美味しかったですね)


 また行けたらどんなによかったでしょう。


(ああいけません。楽しいことを思い出しませんと)


 ウニは不思議な食感と味がして美味しかったです。思い出しただけで涎が出ちゃいます。ウニは他にどんな料理があるのでしょう。煮たり焼いたり炒めたりするのでしょうかね?


(そういえば、辰月様に鼻緒を直していただきましたね。あ、写真にも写っているかもしれません)


 私は写真の私の足元を凝視しました。うーん、左右で違うような気がしますけど、それは知っているからですよね。言われてみないとわかりません。

 それにしても何回見ても変な顔をしています。もちろん私がですよ。辰月様は文句なく美男子でらっしゃいます。


(それなのに自覚されてないなんて……)


 いえ、自覚されたら今の辰月様ではなくなってしまうのでは? そ、それは……。


(いいえ! きっとどんな辰月様でも素敵です。そうに決まっています)


 それなのによからぬ考えをしてしまい申し訳ないです。


(神様を疑ってしまうなんて……。こんな生贄でいいのでしょうか……)


 と、取りあえず、辰月様がいらっしゃるであろう方向に頭を下げましょう。そうです、写真にも謝罪しましょう。


「な、何してんだ?」

「ぬあーっ!」


 何の音も気配もしませんでした。それなのに辰月様がいらっしゃります。まだ朝ではないですよね? お仕事中のはずですよね?


「お辞儀の練習か?」

「ええ、そうなのです」


 咄嗟に嘘をついてしまいました。


「ふふっ、綺麗なお辞儀だったぞ」

「ありがとうございます」


 驚きと罪悪感で心臓が煩いです。


「けどなんで写真を見ている時に練習をしようと思ったんだ?」

「なんとなくです」


 何も良い言い訳を思い付けませんでした。これ以上嘘はいけませんしね、って真実ではなく「なんとなく」と言っている時点で嘘じゃないですか!


「なんとなくかぁ」

「ええ、なんとなくです」


 あああ嘘を重ねてしまいました。変な汗が出てきたような。


「んー顔色が悪くないか。具合悪いのか?」


 こんな嘘つきな私を辰月様は心配してくださっています。もう耐えられず、私は洗いざらい白状しました。サンドウヰッチを食べていた際のことも話しました。


「ふーん、子犬のようで可愛らしい、か」

「申し訳ございません……」


 やはり怒っておられるのでしょうか。ここはお辞儀もとい土下座をするときでは?


「別に悪い気はしないさ。犬は可愛いし。ってことで撫でてくれ」

「えっ」

「どうせ美鶴は俺が悪く思ってなくてもウジウジ悩むんだろ? だから撫でてくれたら許すってことでどうだろう?」

「わかりました。ではどちらを撫でましょうか?」

「ほう、そう来たか」


 辰月様は撫でると言ったら頭だったらしいです。


「犬はいきなり頭を撫でたら怖がるのですよ。なので首とか肩とか背中を撫でると良いのです」

「へぇそうなのか。じゃ、背中はいつも触れられてるから首と肩を頼む」


 ということでよくわかりませんが、辰月様の首と肩を撫でさせていただきました。どちらも背中と同じようにムキムキですねぇ。日々の鍛錬の成果なのでしょう。そして何やら手にチクチクと刺さるものがあります。


「首にもお髭が生えるのですか?」


 私は手元に集中して視線を逸らさぬようにしています。だって至近距離で辰月様のお顔を見るなんてそんな刺激的なことは……。


「うん。剃り残しか、それとももう伸びてきたのかな」

「そうなのですね。ところでどうして戻られたのですか?」

「あ、そうだ。忘れてた」


 辰月様はいつの間にか机に置かれていた物を、私の目の前に移動されました。ガラスの器に白い物が入っています。アイスクリンのようにも見えますが、それならとっくに溶けているはずです。似ている食べものでしょうか。


「これはヨーグルトと言うそうだ!」

「ヨーグルト、ですか」


 アイスクリンと同じく牛乳から作られているそうです。チーズもそうですよね。牛乳は色んなものに姿を変えるのですね。凄いですと思いましたが、大豆のほうがあらゆる姿になっているような?


「休憩中に食堂に行ったらくれたんだ。だから急いで持って来た」


 休憩時間は限られていますものね。実際に残された休憩時間はあと僅かだとか。


「なら急いで食べませんと」


 そういう訳で、早速スプーンでヨーグルトをすくって口に入れてみると、ほのかな酸味がいたしました。牛乳の香りと甘味も後からきます。アイスクリンやチーズとは違った風味に感動いたしました。これに苺ジャムを添えてもいいですね。なんでしたら、豆腐のように水を切ったヨーグルトも一緒に挟んでサンドウヰッチにします? けれどヨーグルトとパンは合うのでしょうかね。チーズが合うのですから心配ないですかね?


「また口についてるぞー」


 自分で拭こうと思ったら、いつしかのように辰月様に唇を拭われてしまいました。拭った指はそのまま辰月様が舐めてらっしゃいました。ななな、なんてことを!


「んじゃあ、仕事に戻る。美鶴、寝てていいんだからなー」

「はい……」


 辰月様は器とスプーンを持って颯爽と出て行かれました。その時に入り込んだ夜風が熱くなった私の頬を冷やしてくれました。




 私は夜食のおにぎりを食べ終え、歯みがきも済ませ、朝がくるのを待っています。ちなみに本日のおにぎりの具は昆布で漬け物は葉物でした。野沢菜とやらでしょうか。

 そして今日は縫い物ではなく、こちらの世界の文字の読み書きの練習です。復習は大事ですからね。と思ったのですけど、上瞼と下瞼がくっつきそうです。頑張って何文字か書いてみましたが、一瞬意識が飛んでしまいました。おかげで謎の文字だか模様だかを書いてしまいましたよ。これは仮眠をとってから練習を開始しましょうかね。


(寝台に寄りかかって……)


 私は座布団と膝掛けを持って移動しました。

 ここまでは覚えているのですが、目覚めた時は寝台の上だったのです。


(……?)


 眠たくて私はどういう状況なのかわかりません。一生懸命に頭を働かせて状況を把握いたしました。


「!」


 隣を見たら辰月様が寝てらっしゃいます。寝ていても綺麗なお顔をしてらっしゃいます。ってそうじゃありません。私は疲れておられる辰月様に寝台まで運ばせてしまったのです。なんと罪深いことをしてしまったのでしょう。これは再び土下座の機会が巡ってきたのでは?


「んん……、ああ、起きたのか」

「あのっ運ばせてしまい申し訳ございませんっ」


 起こしてしまったことも謝罪すべきでしょうか? ああもう、先ほどから変な汗が次々と。


「そう言うときはありがとうって言うんだぞー」

「はい、ありがとうございます」

「よろしい。ではおやすみー」

「え、あの……」


 すぐに辰月様から寝息が聞こえてきました。




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