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第三十五話 化粧品確認

 辰月様と私の出会いを侍女のお二人に話し終えた頃、夕食が運ばれてきました。今日も良い香りで、匂いを嗅いだだけで涎が垂れそうになります。御膳の前に座り、さあ食べようとした時です。


「あ、そうだ。忘れぬうちに」


 辰月様が懐から何かを取り出されました。……それにしても相変わらず見事な胸板でらっしゃる。


「これだ!」

「なっこれは巻き貝!」


 辰月様の手には巻き貝が握られていました。じゃきに投げられた巻き貝と同じものでしょうか? いえ少し色形が違いますね。ヤドカリの貝殻でもないようです。


「名残惜しそうに見ていたからこっそり拾っておいたんだ」


 私の視線に気付いておられたようです。恥ずかしい限りです。


「ありがとうございます」


 辰月様から巻き貝を渡されました。やはり私が拾った物とは違いますね。磯で拾われたのでしょうか? 私も脱衣所で寝間着の袂に移動させた貝殻と匂い袋を出しました。

 実は私、お風呂場に行く前に貝殻達を出すのを忘れておりまして。けれど着物を回収された方が出しておいてくださったようです。

 侍女のお二人が不思議そうに貝殻を見ていたので、辰月様が簡単に説明してくださいました。


「そうだったのですね。今度もっとお聞かせくださいね」

「それで、どちらに飾られますか?」

「この棚でいいんじゃないか?」


 背の低い小さな棚の上に飾ることにしました。取りあえず今は仮置きします。ただ置いただけでも映えますねぇ。素敵です。


「んじゃ、冷めないうちに食うか!」




 今日の夕食も大変美味でした。可愛らしいお麩があったのですが、なんでも手鞠麩と言うのだそうです。いつも思うのですが、視覚からも食を楽しむだなんてとても贅沢ですよね。母と一緒に食材を切りそろえたり盛り付けたのを思い出しました。


「あ、化粧品を買ったんだった。良い物を買えたと思うんだが、二人とも確認してくれないか?」

「かしこまりました」

「ですが私達でよろしいのですか?」

「ええ、辰月様と私は詳しくないのでお願いします」


 辰月様は御膳が置かれていた場所に口紅と頬紅とおしろいを並べられました。いえ、置かれたが正しいですかね。化粧品達はどうぞ見てくださいと言わんばかりに光っています。

 もちろん爪のお手入れの道具もありますよ。こちらは今まで使用していたものと取り替えるそうです。


「ふむふむ。それでこちらのおしろいは白いものではなく、肉色のものですね」


 に、肉……。肌のことですね。肉……。そうですね、肉です。


「こちらの口紅はお戻りになった時に美鶴様がつけてらっしゃいましたよね」


 私が写真撮影をする際につけたのだと言うと、頬紅もつければ良かったのにと返されました。


「筆でないと濃くつきすぎてしまうと思ったのです」

「それはですね、指につけたまま顔に塗ってしまうからでございますよ」

「手の甲などで馴染ませてから頬に塗布されると良いですよ」


 流石侍女のお二人はお化粧に詳しいですね。私も見た目を良くするために学びませんとね。


「ですけどね美鶴様、大変申し上げにくいのですが、恐らくこの頬紅には塗布するための道具が付属されていると思われます」

「丸くてふわふわしている物ですよ」


 私が驚いていると、辰月様が頬紅を開封して下さいました。ゆっくりと蓋を開けると、お二人の言う通り丸い物が出て来ました。このリボンは指を通すためについているのでしょうね。


「筆で塗るのもいいですけれど、こういった道具もあるのでございます」

「便利で使いやすいですよ」

「ふーん、色々と考えられているんだな」


 化粧品なんて今まで触れてこなかったので、全く知りませんでした。きっともっと色々とあるのでしょうね。私が考えもつかないものが沢山と。


「まゆずみは買われましたか?」

「眉を描くための墨でございます」

「ん? 眉毛はすでにあるだろ。それなのに描くのか?」


 昔の方は剃り落としていたらしいですが、今の時代ではそうではありませんので、私の眉毛はしっかりと生えております。フサフサではないですけれど。


「最近は整えるのだそうです」

「生えたままにしないのです」


 ハサミ等で切って形を整えるそうです。不思議なこともあるものですね。ですがまだまだあるそうで、お二人が教えて下さいました。


「なんでも、海の向こうには睫毛を濃く見せるものもあるそうですよ」

「目元の印象が強くなるのだそうです」


 お二人の目がキラリと光りましたよ。眉毛の次は睫毛ですって。眉毛は整えて、睫毛は濃くすると。睫毛に塗るのでしょうかね? もう何がなんだか……。


「ふふふ、これらを使って美鶴様にお化粧するのが楽しみです」

「腕が鳴ります」


 お二人の尻尾がビュンビュンと揺れております。おかげでそよそよと風が吹いてきました。




 談笑が一段落すると、お二人は帰っていきました。明日はいつもより遅く来るとのことです。何故って辰月様が夜番だからですよ。


「今日は夜更かしするか」

「夜更かしだなんて久しぶりです」


 頼まれた着物を期日までに仕上げるために、夜遅くまで頑張ったものです。最後の仕事は急遽私が生贄になるのが決まったので、大慌てで縫いましたね。なんとか間に合ってよかったです。


「何をする?」

「私はそういうのに詳しくないので、辰月様のお好きなのを……」

「えーパッとは浮かばないなぁ。人間の遊びって何があるんだ?」


 二人でも出来る遊びですよね……。侍女のお二人とのお話しで色々と聞いているのですが、どうやら人間とこちらでは同じような遊びをしているようです。となると女児が好む遊びとかいかがでしょうか。


「神様と人間の遊びは大差ないようですよ。私がよくやったのはお手玉とあやとりですね」

「ふーん、人間もやるのか。俺、結構得意だったな」


 器用でらっしゃるのですね。ってもう何を言ったらいいのかわかりません。こうなったら思いついた物を言っていくしかないですね。二人で遊べるもの……、カルタは駄目ですよね。あ、花札はどうでしょう? ってどちらも専用の札が必要でした。


「メンコとかは……」


 メンコだったらお手製でなんとか用意出来そうですよ。


「ああメンコか。コツを掴んだらいくらでもめくれるようになったなぁ」

「独楽は……」


 売っているのを見かけたので、今でなく後日遊ぶときにどうでしょう?


「最初は上手く行かなかったけど、練習のおかげで長時間回せるようになったな」


 むむ、どの遊びも名人でなければ辰月様に大差で負けてしまうのでは? 実際に見ていなくても容易に想像がつきます。さぞかし鮮やかに勝利なさるのでしょうね。昼間のじゃき退治のように。


「他に何かあっただろうか。……あ! 忘れてた。美鶴の背中にボディクリームを塗らないと」

「えっあっ、そうでしたね」


 そんなわけで、遊びの話は終了いたしました。もう何も思いつかなかったので助かりました。二人だけで遊べるものってあまりないのですね。

 こう思いながら辰月様に背中を差し出しました。背中は塩を揉み込めなかったので手触りが悪いかもしれません。大丈夫でしょうかね?


「じゃあ塗るぞー」


 いつものように辰月様の大きな手が私の背中で行ったり来たり、円を描いてみたり、首や肩にも行ったりして、しっかりと塗り込んでくださっているようです。私もこの辰月様の手つきを真似て、かなり念入りにボディクリームを塗らせていただいております。


「!」


 そして恒例となった腹の贅肉確認です。摘ままれております。さらに揉まれて……。これは良い肉になってきた証拠ですよね。頑張って食べた成果です。ぞわぞわしますが我慢です。


「!!」


 手が、辰月様の手がいつもより上に! いつもはお腹だけなのに今回は少し私の胸に触れたような?


「……」


 勘違いではありません。辰月様は手の平で私の腹を撫でつつ、親指で私の胸に触れ、いえ、持ち上げておられます。もしや重量の確認でしょうか? 胸にも脂肪がついているから念入りに確認されているのですかね? ……ただもっと肉がついていたらと思います。脂肪の塊ですから食べ応えがあったでしょうから。残念です。


「よし、こんなものか。じゃ俺に塗ってくれ」

「はいっ」


 辰月様の背中を見ても前ほどはドキドキしなくなりましたよ。鼻息も荒くなりませんしね。流石の私も見慣れたのです。

 もちろん見慣れただけではありません。塗るのも慣れたので、いくら広い背中と言えどすぐに塗り終われるようになりました。ふふふ、たった今塗り終わりましたよ。


「あ、そういや腹側に塗ってないな。ついでに塗ってくれないか?」

「えっ」


 ご自分で塗れますよね?


「頼む」

「……え、ええ」


 爽やかな笑顔で頼まれて断る訳にはまいりません。大丈夫です。辰月さまのお体の正面も何度か見ておりますので、問題なく塗布出来るでしょう。何でしたら触れたこともありますのでね、平気ですよ、ええ。

 そう思っているのに顔だけでなく全身が湯上がりのように火照ってしまいました。上手く手を動かせているでしょうか。


「美鶴、もう手についてないだろ。やりたくないならそう言えばいいのに」


 これではただ肌を撫でているだけになっています。なんと恥ずかしい! 変な汗が出てきました。


「えっ、そんな私は……」


 辰月様に対して嫌だなんて言うはず……。今のは緊張しすぎて……。ああ、言い訳なんて駄目です。


「昼間、俺にされて嫌なことはないとか何をされても平気とか言っていたが、キャラメルの口移しは嫌がったよなぁ?」

「ふぁっ」


 そんなこともございましたね。汗が止まりません。


「ああ、そうか。あの時は嫌だったけど、今はいいってことか?」

「そっそれは……」


 自分でもわかるくらい目が泳いでおります。このまま泳ぎ続けたら何処かに行ってしまうのではないでしょうか。汗だって出続けたら干からびてしまいますね。干物……。


「……ふっ、今度背中に塩を塗るのを手伝おうか?」

「なっ! 」


 つまりそれは一緒にお風呂に入ると?


「背中もすべすべになりたいだろ?」

「そう、ですね……」


 胸やお腹ほど肉は付いておりませんが、背中だって良い食感になって程よい塩味になりたいですものね。是非ともお願いしたしましょう。


「けどまぁ、それは式が終わってからかな」

「はい……」


 食べる直前に塩味をと、なるほど。辰月様とお風呂だなんて今から緊張してしまいますね。想像は止めておきましょう。




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