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第十七話 団子

 サブタイトルは「団子」ですが、団子のシーンはすぐに終わります。サブタイトル難しい……。

 一体いつ各串から一玉ずつ取り外されたのかも不思議ですが、いつの間に黒文字が置かれたのか、こちらも不思議です。これは置いてなかったですよね? きっと辰月様が用意してくださったか、いつものように突然出現したのでしょう。気にせずいただきましょう。

 桜餡は可愛らしい色をしているからか女性に人気のようですね。みじん切りの桜の葉が入っているため、口に入れるとより一層桜の香りが広がりました。

 みたらし団子は甘じょっぱくてとろりとしたタレが舌に絡みついてきました。こちらの団子は他のよりしっかりめに焼かれているようで焼き目が香ばしいです。

 餡子はこしあんの滑らかさと団子の弾力がたまらないですね。飽きの来ない味ですので、こちらを召し上がっている方は多いです。

 草餅はヨモギの香りと苦味が粒あんの甘さを引き立てています。爽やかさが口に残るので、最後に食べたのは正解でした。おかげで口の中に甘ったるさが居座りません。


「うん。どれも美味かった」


 辰月様は私の三倍の個数を召し上がったはずですのに、食べ終わるのが私と同じくらいでした。そんなにゆっくりと食べたつもりはなかったのですが……。きっと列になって待っている皆さんのために急がれたのですね。


「はい。こんなに美味しいと他のも気になってしまいますね」

「だよな。季節限定もあるみたいだし、また今度一緒に来よう」


 季節が変わった頃には私はもういないと思います。きっと辰月様の血や肉になっているので、一緒にとおっしゃったに違いありません。


「抹茶もいただこうか」

「ええ」


 お抹茶は少し時間が経ったので表面の泡が少なくなっています。急いで飲みませんと。

 行儀が悪いですが、お盆を持っている手とは逆の手だけでお茶碗を持ち上げて口元に近づけました。するとお抹茶の香りがふわりと鼻に入り奥で広がり、全身が包まれたかのような錯覚が起きたのです。私は思わず目を見開いて驚いてしまいました。

 味も絶品で口に入れると程よい苦味とまろやかな甘さ。一流の茶人の茶会だけではなく、こういった茶屋でも高級なお抹茶を出しているのですね。香りと味の両方で感動させるだなんて……。

 きっと人間の匂い消しにもなることでしょう。


「こちらも美味い」


 私達はお茶碗をお盆に戻しました。


「はい、飲み終わってもまだ香りがしますね」

「礼儀作法の練習の時に飲んで以来だが、その時はこんなにいいのじゃなかった。なんかどろっとして苦いし、色ももっと濃かったと思う」

「ああ、きっと濃茶だったのですね。今飲まれたのは薄茶ですよ」

「別物なのか」


 薄茶と濃茶はお抹茶の量が違うのです。


「ええそうです。けれど、いきなり濃茶は飲まないと思いますよ?」


 それとも人間と違って神様は濃茶から練習されるのですかね?


「うーん、きっと印象深かったんだろうな。まだ子どもだったし」

「えっ、お小さい頃があったのですか?」


 神様にも幼少期が? 人間と同じように成長するのですか?


「お、おう。そりゃあるだろ」

「そうでしたか」


 辰月様のお小さい頃はどのような感じだったのでしょう? 整った顔立ちをされていたのはわかりますけど、幼少期から明朗で慈悲深いを性格をなさっていたのでしょうか?


「よし。待っている者がいるから、勘定を済ませて出るか」


 会計場所に行くと干菓子や米菓が陳列されていました。どれも一口大なので食べやすそうです。


「……欲しいのか?」

「ええ、本多さんと紺野さんにお土産をと思ったのです」

「フフッ、きっと喜ぶだろう」

「お二人はこういったものは召し上がりますかね?」


 私達には平気でも、動物さん達には毒になる物があるかもしれません。


「俺達と大して変わらない物を食べてるはずだぞ」

「え、大丈夫なのですか?」

「問題ないだろ。見かけが獣なだけで中身は俺らと大して変わらないんじゃないかな」

「ええっ?」




 私は干菓子の詰め合わせを侍女のお二人のために購入しました。これなら見た目も楽しめると思います。


「立て替えてくださりありがとうございます。どのようにお支払いすればいいですか?」


 私は一文無しです。神様の世界でお金を稼ぐ手段があるといいのですが。


「返さなくていいぞ」

「ですが……」

「じゃあ俺達二人からってことにしよう」

「よろしいのですか?」

「これからも世話になるんだし、いいだろう」


 せめて荷物は私が持とうと思って申し出ましたが、断られてしまいました。これはもう、絶対に美味しい生贄になるしかありません。より精進せねば。

 まずは怪我をしないように慎重に歩き、美しい景色を沢山見ましょう。


「今まで池に映る風景なんて気にしなかったが、結構面白いんだな」

「ええ、水面が揺れると変化するのが面白いです」

「時間や天気が違ったら水面の色も変わるんだよな」

「紅葉や落葉しても変わりますね」

「雪とかな」

「え、雪が降るのですか?」


 私自身も季節の変化について言ったものの、天気の変化があるとは考えもしませんでした。


「雨も雹も降るぞ。雷だってある」

「人間の世界と変わらないのですね」

「どっちが先なんだろうか」


 小さな東屋を見つけたので、間食後の休憩をしました。ここは木々に隠れていて見つけにくいからか他の方はいらっしゃいません。話し声も聞こえないので自然の音だけの空間です。


「結局何処から見る景色が一番良いのかわからなかったな」

「甲乙付けがたいですものね」

「だから何処の東屋か言われなかったんだろうか? うーん。まぁいいか、楽しかったし!」




 小さな東屋からの景色を堪能した後、私達は書店へ向かうことになりました。

 当然ながらこれまでと同じように空を移動しますので、荷物は一旦私が預かることに。


「あそこの繁華街のほうが本の種類はあるだろうが、治安が良くないから少し離れているけど別の書店に行こう」


 チラリと遠くに見えた賑やかそうな街が気になりますが、安全第一ですものね。

 安全第一と言えば、現在私は荷物を持っているので辰月様の首に腕を回していませんけど、これって大丈夫なのでしょうか。互いに慣れてきているから、大丈夫ですよね?


「気に入る本があるといいな」

「ええ。どんな本があるのか楽しみです」


 神様はどのような書物を読まれるのでしょう。雑誌もあるのですかね?


「本以外にも何か欲しい物はあるか? 見たいところとか」

「いいえ、十分すぎるほどです」

「いいのか? まだ日は高いぞ」


 確かにまだ太陽は高い位置にありますが、傾きかけているのも事実です。


「では辰月様のお気に入りの場所に行ってみたいです」


 先ほどの庭園は辰月様が行きたかった場所ではなく、私の心に綺麗な風景を刻ませるために行ったので、きっと心の底から楽しめていなかったと思います。ですので辰月様がくつろげたり満喫出来る所に行くべきです。そこで色んな物を見聞きしたり空気を吸えば、私が辰月様好みの味になるかもしれませんし!


「俺のお気に入りの場所を知りたいってことか?」

「ええそうです。教えていただきたいです」


 私は辰月様に満足していただける味になりたいのです。だってそうすれば村が災害から救われるのですから。


「ふふっ、そうか。……けどなぁ、特にないなぁ。それこそさっき行った食堂とか?」


 これは量と質を同時に上げられるからでしょうか。なんと効率的な。


「あ、見えてきたぞ」


 先ほど見えた街とは違い、閑静な住宅街の一角にある小さな書店です。手入れが行き届いており、店の前には落ち葉が一枚も落ちていませんし小石もありません。

 辰月様に降ろしていただいて店の前に立ってみると、今まで見てきた立派な建物とは違って、人間の私でも親しみやすい外観をしているので落ち着けました。


「よし、入ろう」


 書店の見た目に安心感を得ている場合ではありませんでしたね。私は辰月様に子どものように手を引かれながら入店しました。入り口の近くには新しくて出たばかりと思われる本が所狭しと並べられています。

 私達はそこを通り過ぎ、奥に向かいました。どうやら子ども向けの本が置かれている区画のようです。


「色々あるけど、絵が多いほうがいいよな」

「ええ」


 ですが神様の世界の文字を覚えた方がいいですよね、きっと。少しでも賢くなっておきませんと。


「絵本とかもいいんじゃないか?」


 辰月様が何冊か見繕って下さいました。どれにしましょうか。どの絵本も可愛い絵が表紙に描かれています。しかし題名がわからないので内容もわかりません。もちろんあらすじも不明です。

 思い切って表紙の印象だけで買ってみますかね?


「他は何が欲しい?」

「はぇ? ぜ、全部買われるのですか?」

「ああ、だってこれからも使うわけだし」

「え、ええ……」


 意味が全く理解出来ません。これからも……使う……。私は直に生贄として役目を全うするのですから、何処かに寄付なさるのですかね? 例えば人間の孤児院のような施設が神様の世界にもあるとか。


「あ、さっきあった流行りが載ってる本も買うか?」

「雑誌ですか?」

「そうそう。これなら侍女達とも楽しめるだろ?」


 かなりの冊数になってしまいましたので、本は紐で縛り風呂敷に包みました。こちらも私が持とうとしたのですが、すでに辰月様が背負われていました。




 黒文字とは簡単に言うと爪楊枝のことです。念のため。

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