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それから、数分後……。


葉月が顔を上げて、俺にスマホを返す。


「ありがとう。うん、面白かったよ」


「そ、そうか」


その可愛らしい笑顔と、慣れない台詞に言葉を詰まらせる。


……くそ、我ながら嫌になる。


これくらいのことで、心臓の鼓動がうるさい。


「正直言って、びっくりした」


「何がだ?」


「同じクラスに小説を書いてる男の子がいるなんて。こういうのって、もっと大人とかが書いてるかと思ってたし」


「別に珍しくもない。ネット小説を書いてる高校生も意外と多いし、プロのラノベ作家でも高校生の人は何人かいるしな」


「そうなの!? ……すごいなぁ」


「まあ、プロになった人は凄いかもしれないな」


「ううん、違うよ。君も充分すごいと思うけど?」


その真っ直ぐな視線に、俺の心が痛む。


褒められるのは嬉しい反面、辛いこともある。


「いや、俺はワナビだから」


「ワナビ?」


「プロを目指しているのになれてないアマチュアって感じかな」


俺は一年くらい書いているが、同時期に書いた人がデビューしたりしてる。


それを見るたびに、ここでも劣等感を感じてしまう。


もちろん、自分が読まれている方だというのはわかってはいるが。


「野崎君は、プロを目指してるってこと?」


「まあ、一応……」


「じゃあ、やっぱりすごいじゃん。そのために書いてるってことでしょ?」


「……そうかな」


「そうだよ! だって、私は面白かったし!」


「……ありがとう」


「私、こういうのは全然知らなくて……だから、面白いとしか言えないんだけど」


「いや、それが一番嬉しいし」


すると、葉月が距離を縮めてくる。


当然ながら、綺麗な顔が近づくわけで……免疫のない俺は慌ててしまう。


「な、なんだよ?」


「ねえ、これの続きは? あと、もっと書けないの?」


「まだ見せれない。誤字脱字や設定を確認してないし。あと……無茶言うなよ」


「なるほど、それはわかったけど……無茶って?」


「あのな、小説一話二千文字書くには一時間かかるんだよ」


「そ、そんなにかかるの!?」


「そうだよ!……それに、なんだって俺の小説なんか読みたいんだよ? 可愛いし、リア充でギャルで、クラスの人気者のくせに……」


それだ、俺がわからないのは。


どうして、こいつは小説を読みたいんだ?


こんなこと言って、ほんとは俺のことを馬鹿にしてるんじゃないか?


これで俺が調子に乗ったところで……罰ゲームでしたとか言われるんじゃないか?


俺の心の中の一人が、そう囁いてくる。


「か、可愛い……?」


「はぁ? そんなの言われ慣れてるだろ?」


「そ、そうね! ……えっと……なんだっけ?」


「だから、ギャルのくせに何で俺の小説を見たいんだよ?」


「どういうこと?」


「ん?」


「別にギャルだってネット小説見たっていいじゃん。何がダメなの?」


「……はっ? 何だ、今流行りのオタクに優しいギャルってやつか?」


だめだ、自分の嫌な部分が出てくる。


こんな言い方、絶対に良くないのに……だから関わりたくないんだ。


どんどん、自分が惨めになって……嫌いになる。


「なにそれ? 別に優しくないけど? 私は君の作品を見て、面白いと思ったから見たいって思っただけ」


「お、おう」


いかん……ニヤニヤするのを止められない。


結局、それが一番嬉しい言葉だから。


「あと、確かにオタクに優しいギャル?はいないかもしれないけど、オタクなギャルはいると思うけど?」


「うん?」


「君に比べたらあれだけど、私だって漫画とか読むし……にわかに見えるかもしれないけど——それじゃダメなの?」


「っ——!?」


……その真っ直ぐな言葉に、俺は言葉を詰まらせる。


そうだ、エンタメが衰退する理由の一つが、オタクによる排他主義だ。


中途半なオタクを許さずに、そいつらを叩く。


本来なら、その人たちを取り込むのが正解なのに。


そうすれば客層は広がり、自分が好きな作品が打ち切りにならなかったりするかもしれない。


昨日、アキトさんも言っていた。


もしかしたら、チャンスかもしれないと。


ネット小説、ひいてはライトノベル小説を知ってもらうことができるかも。


あとで裏切られてもいい……ひとまず、こいつを信じるとしよう。


「それで、どうなの?」


「わかった。とりあえず、明日からまた投稿するから」


「ほんと!? やったぁ! 楽しみにしてるね!」


「ま、待ってくれ!」


そう言い、走り去る彼女を引き留める。


「どうしたの?」


「いや、実は……俺は絶賛スランプ中だ」


「そうなの? 原因はあるの?」


「まあ……あるにはある」


「煮え切らないわね」


「……ラブコメがわからん。読者さんに、ヒロインが人形だと言われた。女性の気持ちとかが、わかってないと。読んでみて、その辺はどうだった?」


「……あぁ、なるほどね……うんうん、少しわかるかも」


「葉月もか?」


「うーん……何がって言われると難しいけど」


「そうか……いや、葉月に聞いたのが悪かった」


そんなに読んだことないんじゃ、無茶な質問だった。


「むぅ……なんかムカつくわね」


「はい?」


「明日まで待ってて!」


そう言い、今度こそ走り去っていく。


ここから、俺と彼女の物語が始まるとは……この時の俺が知る由も無い。




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