それぞれ
ある程度歩いた後、安全な道に入ったので、二人の手を放す。
無論、目を離すことだけはしない。
子供というのは、どんな行動するか予測がつかないからな。
「パンケーキ~パンケーキ~」
「お兄ちゃん! ファミレスのパンケーキっておいしいの!?」
「うまいぜ! フワフワで家で食べるのとは違うぜ!」
「わぁ~! たのしみっ!」
そんな姿を見ていると、何やら心が暖かくなってくる。
よくわからないが、父性ってやつなのか?
パンケーキくらいなら、食べさせてあげたいと思ってしまう。
「ご、ごめんね」
「うん? 何がだ?」
「その、お母さんが変なこと言ったり、拓也や恵梨香が騒がしかったり……」
「いや、別に気にしてない」
「そ、そう……」
横目に葉月を見ると、自分の手でポニーテールをいじっている。
……なんかめちゃくちゃ可愛く見えるのはなぜだ?
「え、えっと、恵梨香はファミレスにいったことがないのか?」
「いったことはあるんだけど、小さくて覚えてないみたい。あと前も言ったけど、いったとしてもファミレスでパンケーキは高いから」
「そういや、言ってたな」
まだ二週間くらい前なのに、そんな感じがしない。
……それだけ俺が、この状態を楽しんでるということか?
楽しいと、時間はあっという間に過ぎるというし。
「ねえ、聞いてもいい?」
「ん? なんだ?」
「今日は、どうしてそんな恰好してるの?」
「……やっぱり変か?」
「へ、変じゃないし!」
「別に気を遣わなくていいぞ。自分でも、慣れない格好なのはわかってるし」
「変じゃないから困ってるし……」
「はい?」
「そ、そうじゃなくて! 恰好の理由を聞いてるし!」
「あ、ああ……姉貴が、相手の親御さんに好印象を与えてきなさいって」
「そ、それってどういう意味?」
こちらを伺うように、上目遣いをしてくる。
……お、落ち着け、俺。
「いや、小さい子供を預かるなら、きちんとした格好をしなさいって。お母さんからしたら、知らない男なわけだし」
「……もう!」
「いてっ!? なぜ叩く!?」
何故か、肩を思い切り叩かれた。
「そこは冗談でも、私のためにって言うところだし! そんなんだから、ラブコメが書けないんじゃないの?」
「ぐぬぬ……」
確かに、葉月の言う通りだ。
ラブコメの主人公なら、そういうことを言いそうな気がする。
よし……ここは、頑張ってみるとするか。
「ふふ~ん……言えるなら言ってみてもいいけど?」
「は、葉月が可愛い女の子だから、それに釣り合う恰好にしてきた……それと今日の洋服、よく似合ってると思う。あと、ポニーテールもいいと思います」
こ、これでどうだ?
くそ、自分の心臓がうるさい……!
「……」
「葉月……?」
恐る恐る、葉月を見てみると……そっぽを向いている。
……失敗だったか。
「はぁ……」
「ようやく、言ってくれたし……」
「へっ?」
「とりあえず——合格!!」
背中をバシンと叩かれる。
しかしその顔は、見たこともない微笑みを浮かべていた。
その笑顔に、俺の心臓が跳ね上がる。
「お、おう」
「えへへ……拓也! 恵梨香! あんまり先にいかないの!」
葉月は走り出し、二人に駆け寄っていく。
……叩かれた背中は、結構痛い。
それこそ、背中が熱くなるくらいに。
でも……何やら、それ以外の熱を感じる気がする。
◇
ふふ、髪型も洋服も褒めてくれた。
私は上機嫌で、二人に駆け寄っていく。
「おねえちゃん、顔あかいよ?」
「どうしたんだよ、そんなに笑って」
「き、気のせいよ」
ほんと……なんか、昨日から変な感じ。
家に帰ってからも、ずっと落ち着かなかったし。
あの日、私は家に帰ったあと……布団の中で悶えていた。
幸い、お母さんが早く帰ってきたので、二人を連れて買い物に行ってるから平気だ。
「何あれ? えっ? やばくない?」
脳裏には、私をかばう野崎君の声と映像がリフレインしてる。
……不覚にも、カッコいいと思ってしまった。
「いやいや、普段からああすればラブコメじゃん。というか……ドキドキさせるのは私のはずなのに、こっちがドキドキしてるし」
まずいなぁ……どうしよう?
「と、とりあえず……落ち着け、私」
これは吊り橋効果っていうか、いっときの感情かもしれないし。
ひとまず、色々と確かめてみないといけないよね。
「そのためには、まずは野崎君と色々なところに行ったり、色々なことをしてみたり……」
明日は早速出かけるし、何かアクションを起こしてみようかな?
「うーん……あっ、髪型変えてみる? というか、洋服も決めないと」
布団から出て、自分の引き出しを開けてみる。
「……私、お金ないからあんまり洋服ないしなぁ」
放課後は制服で過ごしちゃうから楽だけど、休日はそういうわけにはいかない。
「えっと、確か可愛いスカートがあったよね……あとは靴は綺麗なのあるし、上はパーカーとかでも良いかな?」
別に、ファミレスに行くだけだし、あんまり気合い入れてると思われるのもアレだし。
野崎君も、普通の感じたと思うし。
「そうなると……髪型かぁ」
三つ編み? サイドテール? おでこあげる?
結局、みんなが帰ってくるまで鏡の前で格闘するのだった。
それで洋服や髪型が決まったのは良いけど……。
なによ、野崎君ってば……普通にお洒落してきちゃって。
髪型が違うから、いつもより顔がよく見えるし……うん、やっぱり素材は悪くなさそう。
というか、ドキドキさせるはずなのに……こっちがドキドキするし。
もう——なんなのよ、この気持ちは……。




