絡まれる
その日の昼休み……葉月から弁当を貰った俺は、いつものように教室を出る。
葉月は、いつものメンバーで飯を食うらしい。
たまにはなんちゃらとか言ってたな。
付き合いをしておかないと、面倒なことになるとか。
「リア充って言うのも大変だな」
いや、社会人になると必須能力だって、アキトさんが言ってたな。
作家でも、営業力やコミュニケーション力はいるって。
人対人である以上、それは避けられないと。
「はぁ……そういうのが苦手だから、作家の道を選んだ部分もあるのに。まあ、もう本気で作家になりたいって思ってるから頑張るしかないよな」
そのためには、最低限のことはやっていくか……面倒だけど。
そして、校舎裏で弁当を食べる。
「うん、うまい」
卵焼きが甘めで俺好みだ。
「うまいはうまいんだが……なんだ?」
なんだか、物足りない。
強がりではなく、俺は一人が好きということに嘘はない。
だから、これはむしろ好都合なはず。
「……葉月がいないからか」
それを寂しいって思ってるのか?
「まじか……まだ、二週間くらいだぞ?」
それだけ、俺の中で大きくなってるってことか?
……好きだとか。
「いやいや、俺が単純に女子に慣れてないだけだろ」
そんなことを考えつつ、弁当を食べ終わると……。
「ん? 雨か……仕方ない、中に戻るか」
これだから、梅雨の時期は嫌なんだよなぁ。
俺は仕方なく、もう一つの隠れ家である体育館に行く。
昼休みを終えた陽キャなどが遊んだりしてうるさいこともあるが……。
体育館の裏には屋根がついているので、こういうときは使ったりする。
……しまった。
体育館の裏に、誰かが先にいる。
しかも、髪が金髪でガタイも良くて、いかにも悪そうな見た目の男子だ。
もはや絶滅危惧種であるヤンキーってやつか?
「……こりゃだめだ、仕方ないから教室に戻るか」
静かにその場から立ち去ると……前から見覚えのある奴がやってくる。
「おっ、野崎じゃん」
「……おう」
やばい、誰だ?
多分、一年のときに同じクラスだった気がする。
リア充グループの一人だったはず。
「聞いたぜ、なんか葉月に付きまとわれてるんだって?」
「いや、そんなことないけど……」
「いやいや、最近一緒にいるじゃんか。まあ、あっちはお前をからかって遊んでいるだけだろうけどな」
「……そうかもな」
別にそれ自体は否定しない。
俺自身も、未だにそう思うことはある。
「まあ、顔は可愛いけど、俺はお断りだな。知ってるか?あいつ、放課後とか夜とか、おっさんと遊んで稼いでるらしぜ。いわゆるアレってやつだ。噂だけど、あいつならやってそうだし」
「はぁ?」
こいつ、何言ってんだ?
あの葉月に、そんな時間があるわけないだろうか。
そもそも、お金がなくとも……そんなことをするような奴じゃない。
付き合いは短いが、それくらいはわかる。
「お前も遊ばれてるだけだろ、あのくそ女に。それとも、なんか弱みを握ってるとか? だったら、俺にも教えろよ」
「……うるせぇ」
俺の中に、ふつふつと怒りが湧いてくる。
こんな感情は初めてだ。
「あん? なんつった?」
「うるせぇ! 俺が遊ばれてると言われるのは百歩譲っていい。だがな、あいつの悪口を言うことは許さん。あいつはくそ女なんかじゃない——めちゃくちゃいい子だ。俺は一緒に過ごしてて楽しいと思ってる」
そういう風な噂があったかどうかは、人と関わってなかった俺にはわからない。
だが。少なくとも……俺の知る葉月はそんな女の子じゃない。
「……なに調子に乗ってんだ? お前の意見なんか聞いてないんだよ」
まずい……思い出した。
こいつ、確か……空手部のやつだった。
だが、だからといって退くわけにはいかない。
俺は腹に力を込めて、相手を睨みつける。
「……生意気……お、お前は」
なんだ? 後ろに誰かいるのか?
俺が振り返ると……先ほどのヤンキーがいた。




