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私の好きな匂い

作者: トムボーイ

25歳

 OL 

 恋人なしの寂しいクリスマスを過ごした後の事だった。

 クリスマスが過ぎ四つ日が進んだ寒い朝道端に落ちているマフラーを見つけた。

 普段であれば拾う事はなかったがそのマフラーは手編みのようで放って置くのは少し可哀想だと思い拾った。

 少しチクチクする肌触りだがマフラーに包まれた手を暖かく灯してくれた。

 どんな人がどんな思いでどんな人にプレゼントしたマフラーなのだろう……とふと気になり私はマフラーに顔を近付け匂いを嗅いだ。

 するとなつかしい香りがした。

 洗濯洗剤と汗の匂い……


「これやるよ」

「いいの?」

「今日、サッカーの試合観に来てくれたお礼」

「ありがとう!」


 寒そうにしていた私にぶっきらぼうで優しい幼馴染みがくれたマフラーと同じ匂い

 小学生卒業した後あの子は引っ越してしまってそれ以降出会っていない


「……また会おうな」

「うん! ぜったいだよ!」


 あの時大泣きしながら勇気を振り絞って握った手の感覚を私は今でも思い出す。

 私はそんな思い出に思いを馳せていたらいつの間にかマフラーを首に巻いていた。

 このマフラーは暖かくてなつかしくてちょっぴり切ない

 そんな匂いがした。

 

「そのマフラー……」


 と背後から声がしたので「ご、ごめんなさい!」とマフラーを取りながら慌てて振り返る

 するとそこには……


「あっ」


 織田信長がいた。


「そのマフラー、もしかして儂の為に暖めてくれてたのか?」

「いや、その……ごめんなさい信長さん、寒くてつい……」


 信長に嘘を言うのは忍びないので私は正直に話した。

 しかし信長さんは怒ることなく


「はははっそうか寒いのであればそのマフラーくれてやろう」

「いえいえ! 頂けません! ……それより信長さんはこんな所で何を」

「なに通りがかりよ、今から今川義元の野郎の首を取ってきてやろうと思ってな」


 悪い事をした出陣中だったんだ……

 

「なら尚更頂けません、このマフラーは今の信長さんにこそ必要な物」


 私がそう言って半場無理矢理マフラーを返すと信長さんはそうかと笑ってマフラーを受け取った。


「もし暴れたいなら尾張まで来い、歓迎する」


 と言い残して信長さんは馬に乗って行ってしまった。

 信長さん……実際見ると思ってたより背が大きいんだな

 なんて事を思いながら寂しくなった喉を摩る


「ふふ」


 もしかしてあの子かも……なーんて甘い展開を考えていた自分が照れくさくなり私は思わず笑う

 そーんな少女漫画みたいな展開あるわけないよね

 子供の頃の様に甘い夢を信じられなくなった寂しい私に少し嫌気が差してきた今日この頃

 私はよしっと一息入れてもう一度歩みを進める

 するとまた道端にマフラーが落ちていた。

 さっきとは違うマフラー

 私がしゃがんでマフラーを拾った。


「そのマフラー……」


 私は振り返る


「あっ」

「……久しぶり」

「……遅いよ、バカ」


 そのマフラーは暖かくてなつかしくてちょっぴり甘い

 そんな匂いがした。

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