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よろしくお願いします。
病室からの帰り道はもう日が暮れていた。
王都の夕暮れも見慣れてきたな。
「イズル君。君には辛いことをしてしまったね」
「いえ、全員のためです」
「わかってくれるならいいが」
マスターは赤い髪をポリポリと掻いている。
「次の狩りからは、別のパーティーに入ってもらう。だが君は成長が早い。
また、今回のように抜けてもらうことになるかもしれない」
また、同じ目に合わされるってのか。
信頼し合った仲間と別れさせられるなんて御免だ!
「マスター。俺はこんな思いを、あと何回しなくちゃいけないんだよ!」
「確かじゃないが、あっても次が最後だ。君が入るパーティーは残りの全員が三次職だからな」
「じゃあ俺が足を引っ張るんじゃないか!?」
二次職になったばかりの俺じゃ、とてもついていけそうにないぞ?
「いや、大丈夫だろう。ヒーラーは一つランクが下がってもなんとかなるもんだ。狩り場のレベルを下げればいい」
「それって、やっぱり俺が足引っ張ってるじゃんか!」
「君がいなければさらに下げざるを得ないんだ。安心してくれ」
なるほどな。しかしどんなやつのパーティーに入れられるやら。
翌日、宿屋から出てきた俺の前には懐かしい人物が立っていた。
「ちゃお!イズル君じゃん!
こんなに早くパーティー組むことになるとは思わなかったよ!」
「え!?ユウセイさんがパーティーメンバー?」
「ユウセイでいいよ!」
「ユウ、知り合いなの?」
「ああ。最近メンターしたときの教え子だよ。一月くらい前の」
「ほぉ。じゃあ一月で二次職まで来たってのか。そら有望だ」
「ユウなんてすぐに抜かれちゃうかもね!」
「俺が抜かれたらみんな抜かれてんだろうが。全く」
そういって三人は笑っている。
「ああ紹介がまだだったね。こっちの杖持ってる女がソーサラーのベラで、あっちの盾持ってるおっさんがパラディンのクライスだ!」
「おいユウ!俺の方が年下だろうが!」
苦笑するクライスは背は低いもののあまりある筋肉の持ち主のようだ。
「よろしくね!」
ベラは紅色の長髪をした細い女性だ。
しかしかなり長い杖が非力でないことを証明している。
「よろしくお願いします!」
パーティーが変わることになったのは驚いたが、ユウセイのパーティーだったのか。
彼らとならきっと、また楽しい冒険ができるだろう。
「明日には王都をでて、隣町のミュヘイムに移動するから、家族とかいるなら今日中に挨拶してきてね」
「ミュヘイム?」
「だいたい馬車で一週間くらいかな?狩り場のダンジョンがあるんだよね。
詳しくは行きながら説明する。帰ってくるのは二ヶ月後くらい!」
「わかりました」
二ヶ月後か。
そういえばもう父さんとルーナに最後に会ってから一ヶ月くらいになるのか。
喧嘩してできちゃって気まずいけど、一度挨拶してくるか。
「よし、今日は解散!明日からよろしく頼むよ!」
「はい!」
顔合わせは終わった。
家に帰ると、ルーナが抱きついてきた。
「ルーナ、ただいま」
「おかえりなさい!心配したのよ!」
「ごめん。全然帰ってこなくて」
「お父さんはいま畑に出てる。なんでこんなに帰ってこなかったの!」
「忙しくて……」
実際、この一ヶ月は忙しかったが理由が逆だ。
帰りたくなくてパーティー狩りが休みでもダンジョンに潜っていただけだ。
「私は怖い。モンスターも、モンスターを狩る冒険をイズルが続けることも。
ねぇイズル。もう冒険者なんてやめて、私と畑を育てていきましょう?」
それも悪くはないだろう。
二人で父さんと一緒に畑を作り、贅沢はできなくても楽しく過ごすんだ。
「もう冒険に出るのはやめて!モンスターと関わらないで……!」
「ルーナ。俺はもう冒険者なんだよ?」
そう。冒険者とは決して気が向いた時にダンジョンに潜るなんて生温い仕事じゃない。
「俺は金も経験もいっぱいもらってる。
それはスタンピードや戦争の時、前線で働くことが前提なんだ」
冒険者は有事の際、王の指示に従って国民を守る。
それが冒険者になる際の誓約事項だ。
「でもそれでいい。俺はみんなを守りたい!その力が欲しかったから」
ルーナはなにか言いたそうにしてはいるが、うまく話せないようだ。
俺が冒険者になることを頭では納得しつつあるのだろう。
感情はともかく。
「俺はこれからも強くなり続ける!ルーナのことも守るから。だからもう冒険者をやめろなんて、言わないでくれ」
「私のことなんて守らなくていい!もう私を守るために誰かに死んでほしくないの!
モンスターはイズルが思ってるよりずっと恐ろしいの!あいつらは……!」
その時聞いたこともないような轟音があたりを包んだ。
耳鳴りを残して音が消え、土埃の中からそのシルエットが現れる。
「あれはバフォメット!?なぜここに!?」
黒い羽と山羊の頭を持った、半人半獣の化け物。
明らかに格上の相手だ。
今の俺に倒せるだろうか……。
「っ……!父さん!?」
土埃の先には別のバフォメットに追われる父さんの姿があった。
助けないと!
「セイントレイ!」
聖属性の魔法は闇属性のバフォメットには効果が高い。
俺の魔法により出現した光は父さんを襲おうとしていたバフォメットを溶かし、父さんは危地を脱した。
よし!通用している!
「帰ってたのか!……イズル、後ろ!」
父さんに言われ振り向くと、目の前に巨大な黒い影が見えた。
もう回り込まれたのか!?
聖属性魔法でまたダメージを!いや、詠唱は間に合わない。
逃げることも、できない。
「俺。ここで終わりか」
「マジックソード!」
ルーナが叫ぶと目の前の影が崩れ落ちた。
「フレイムエンチャント!」
ルーナが振り回す白銀の刃が次々とバフォメットを屠っていく。
バフォメットは切り口から青い炎を出し、倒れていく。
「ルーナ!?」
「黙ってて、ごめん」
一挙に半数以上を失ったバフォメットはあっさりと退散した。
生き残れた!でも一体なぜルーナは魔法を使えたんだ!?
「ルーナ、どういうことだ!?」
「私、三次職なの。エンチャンターよ」
その声は廃墟の中で、虚ろに響いた。
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