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「さ、今日はこの辺にしとこ!」
「もう今日は終わりか?」
まだ二回しか戦ってない。いいのか?
「いいよ。明日また潜るから、午後はお休み!」
「わかった」
「ルーナちゃんもゆっくり休んでね!」
「ありがとうございます」
ルーナの様子は俺も気になる。
魔物が怖いのに前衛は難しいんじゃないか?
「イズル、お前の気持ちはわかる。少し話そう」
クライスはそう言って俺の肩を叩く。
たしかに話したいこと、聞きたいことは多い。
「ああ、たのむ」
俺とクライスは中心部の居酒屋へと足を運んだ。
といっても、俺はオレンジジュースだが。
「さて、ルーナのことだが」
「おう」
「ルーナは随分と腰が引けてるな。ジョブ的には前に出てほしいが、このままだと厳しい」
「だろうな」
だから下がらせろって言ってるんだ。
「ルーナが魔物を恐れているのはわかる。なにか理由があるのか?」
「俺も詳しくはわからない。トラウマがあるってことしか」
「トラウマか。なら前に出るのは無理かもしれんな」
「そうだろ?」
「わかった。俺からユウセイに伝えよう」
「そもそもなんで、二人も前に出る必要があるんだ?」
クライス一人でも安定しそうなものだ。
「三次職パーティーで行くとこには二人タンクが必要になる場所があるんだ。いまやってるのは、その練習だ」
「二人必要?」
「特殊なバフでタンクを一人行動不能にしてくる魔物がいる。魔物が挟み撃ちにしてくるようなダンジョンもある。なんにしても二人いた方がいい」
クライスはそこまで言い切ってグラスを傾けた。
ふぅと息をつくと、アルコールの匂いが鼻をかすめた。
くせぇな。
「他にタンクができるのはせいぜいユウセイくらいだ。タウントやパリィはできないけどな」
敵意を惹き付、攻撃を弾く。
それらができないようではタンクとして前衛を張るのは難しいだろう。
「俺にはできないのか?あいつに壁をさせるくらいなら俺が!」
「イズルがタンクを?馬鹿言うな。回復はどうするんだ?」
「それも俺がやる!」
「無茶な。クレリックがそんなこと……いや、お前はまだクレリックなのか!」
「どういうことだ?」
「次の転職でモンクを選択すれば、壁と回復の両立は可能だ!回復力は格段に落ちるが」
「構わない!その分俺が敵の攻撃を引き受ける!」
「そうだな。そうなればルーナには下がってもらうことも可能だ。
だがルーナの役割はどうなる?あいつの職業は火力も補助性能と中途半端だ。
壁にするのが一番だと思うが?」
たしかにサブタンクというロールを奪えば、ルーナの役割は消えてしまう。
だがそれがどうだと言うのだ。
それでルーナを辞めさせるようなら、俺もこのパーティーを抜けてやる!
「壁ができないならルーナは役立たずだって言いたいのか!?」
「そうは言っていない。本人にもよく聞くべきだ。
役割は奪うべきじゃない」
本人の気持ち。
あいつは自分が役立てないとなれば自分を責めるかもしれない。
それは間違いない。
「よくわかった。ルーナにも聞いてみる」
「ああ。こっちもベラとユウセイに話してこよう」
俺たちはグラスを干し、店を後にした。
宿からルーナを連れ出し、再び街の中央へと足を運ぶ。
昼前には解散したというのに、気づけば日が傾いていた。
ルーナはピンクの髪を淡いオレンジ色に輝かせながら、機嫌よく歩いている。
「なあルーナ、今日の狩りどうだった?」
「私は大丈夫だよ。心配しなくても大丈夫」
本当に大丈夫なら、なんでそんな暗い顔をするんだ?
俺でもわかる。
やっぱりルーナは大丈夫じゃない。
「なあルーナ。後ろに下がってくれないか?」
「でも、サブタンクが必要だって……!」
「それは俺がなる!すぐにはできないけど、俺は三次職、モンクになることにしたんだ」
「モンク!?ビショップになるって言ってたじゃない!」
「やめたんだ。俺はモンクになる!」
「そんな、私のせいで夢を諦めるなんて」
ルーナはそう言って俺の肩を掴んでくる。
「考え直して!セドリックさんみたいになるって言ってたでしょ!
イズルならなれるよ!セドリックさんみたいな、ううん、セドリックさんよりずっとすごいビショップに
っ!イズルはなれるんだよ!」
たしかに俺は憧れていた。セドリックさんみたいに誰かを守れる人に。
「いいんだルーナ。俺はもうビショップには憧れてない」
「どうして!?」
「回復だけじゃルーナを守れない。
俺は前に出る!ルーナを攻撃させたりはしない!」
手段が変わっただけだ。
結局はみんなを守れればいいんだ。
より守れるジョブがモンクなら、俺はそれになる!
「私なんかに気を遣わないでよ」
ルーナは肩から手を話し、項垂れている。
「嫌だったか?」
「イズルの夢を壊しちゃったの。嫌に決まってるでしょ。こんなことなら」
冒険者にならなきゃよかったって?
それは違う!
「俺は今、ルーナと一緒に冒険ができて嬉しいよ!それに夢は壊れてない。俺の夢は最強の冒険者になること!それでみんなを守ることなんだ!
ビショップになることはその手段だっただけだ」
ルーナは目を見開いた。
吸い込まれそうになるような碧い瞳。
「そっか」
「そうだよ」
「わかった。ありがとうイズル!」
ルーナが抱きついてくる。
思ったよりも軽い。
しばらくするとルーナは離れ、やや照れて口を開いた。
「そうと決まれば、イズルが三次職になるまで頑張らないとねっ!」
「そうだな。まだまだ先は遠そうだ」
「私も頑張るから!二人で最強になろう!」
「ああ。そうだな!」
俺とルーナは拳を合わせ、宿への帰路についた。
街道の先では夕日が俺達を照らしていた。




