世界を跨ぐ原チャリ
頭を空っぽにしてお読みください。
今、何故か神殿みたいな所に同い年くらいの清楚系少女と二人、大勢の人間に囲まれてるとかウケるんですけど。
いつものように昼過ぎに起き、母親に叱られながら学校へと欠伸をしながら原チャリで登校する。着いた所で意味ないじゃーんと思いながら信号が青になり、フルアクセルにした瞬間、右からトラックが突っ込んできてヤバっ、死んだわコレ。っと思っていたら、神殿みたいな所に私の愛する原チャリと共に清楚系少女がいた。
私は良く分からんからスマホを取り出してカシャカシャとイケメン騎士達や、儚い系美男子の神殿の関係者と思われる人を連写し、動画も回す。
清楚系少女と周りの人間が混乱している一方で、私は笑いながらこの状況を楽しんでいた。
「聖女が二人だと……?どういう事だ!!」
なんか偉そうなオッサン怒鳴ったので、うるせぇよと原チャリのクラクションを鳴らす。その音に驚いたイケメン騎士達が一斉に私に剣を向けて来た。なんだ、やんのかコラと私も原チャリのブレーキを握りながらアクセルをふかす。
ぶおん、ぶおん、ぶおん、ぶおん!!
私とイケメン騎士達の睨み合いを止めたのは、これまた偉そうなお爺ちゃんだった。
「鎮まりくだされ!!ここで分からぬ事で争いの火種を撒かないで頂きたい!!剣を下げよ!!聖女様候補様も落ち着いてくだされ!!」
お爺ちゃんの言葉に私は素直にアクセルをふかすのを辞めた。そしてスクールバッグからお饅頭を出して、原チャリに乗った私が近づいてきて戸惑うお爺ちゃんの手にお饅頭握らせた。
お爺ちゃんはポカーンとお饅頭と私を交互に見ていたので、ケラケラと笑って原チャリのキーを回して止めた。
「お爺ちゃん、大丈夫だよ。お饅頭に毒とか入ってないし、美味しいよ。私はこし餡派だから、粒あん派だったらゴメンね?」
「……あ、あの!!此処は何処ですか!?元いた場所に帰してください!!」
清楚系少女は涙ながらに叫んだので、私は原チャリに乗ったまま足でヨタヨタと近づいて、スクールバッグからバナナを出して持たせてあげる。
「あ、あの……?」
「バナナ美味しいよねぇ。私のオヤツあげるから落ち着こうか」
ヘラヘラと私は笑い、少女はポカーンとしている。そんな私達にさっきのお爺ちゃんが、馬鹿な私にでも分かるようにと今の状況を説明してくれた。でも、お爺ちゃんゴメンね?私、もっと馬鹿みたいだから良くわかんなかったわ。
とりあえず帰れない事と、この世界で聖女とやらが幸せに生きていけばこの世界の瘴気とやらが消えるらしいって事だけは分かった。でも、何方が聖女だと聞かれれば、多分清楚系少女の方だろう。ハーフだろうか、綺麗な甘栗色の髪に緑色の瞳が綺麗だ。
反対に、私は黒髪をブリーチしてそのまま放置してプリン状態だし、すっぴんブスなのだから。化粧したらかなり変わるんだけどね?本当よ!?
そしてなんだかんだと話し合いの元、清楚系少女は王宮預かり、私は神殿預かりとなったらしく、愛する原チャリと共に監視される事となった。
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ぶおおおおおおおおおん!!!!
「ナナカ様!!神殿をゲンチャリで走り回るのはお辞め下さい!!」
「え〜〜。だって暇なんだもん。勉強も馬鹿な私にはマジで無理なんだって。だって毎回テストの点数一桁台よ?」
私は儚い顔を般若にして烈火の如く怒る美人さん、ダグアンさんに文句を垂れる。私の頭がかなり悪いのはご愛嬌だ。
スマホで怒るダグアンさんの肩を組み、イェーイと写真を撮る。カメラの美人加工で私の顔は変身する。
「ナナカ様!!これでは、この世界で生きていけませんよ!!」
「え!?ダグアンさんが私のことお嫁さんにしてくれないの!?」
「どうしたらそんな考えになるのですっ!?」
顔を真っ赤にして怒るダグアンさんの顔をカシャっと写真に収める。
この世界にきてから不思議な事がいっぱいだ。先ずは愛する原チャリの燃料が無くならないし、壊れない、速度200キロの性能になってしまった。スクールバッグからは私が思った物が出てくる。拳銃が出た時には、嘘だろと思いながら聖樹に向かって打ったら枝が折れてダグアンさんに滅茶苦茶叱られた。スマホの電池も切れないし、壊れない。
清楚系少女のミライちゃんのは数日で電池が切れたらしい。スクールバッグからも物が何でも出てくるわけじゃないが、ミライちゃん自身は癒しの魔法が使える様になったみたいだ。魔法すげぇ。
国の方は私の原チャリやスクールバッグを狙っているが、私は拒否している。この不思議な能力はお馬鹿な私のものだ。お前の物は私の物、私の物は私の物。ああ、素晴らしきかなジャイアニズム。
「ほぉっほぉっほぉ。今日も賑やかじゃなあ」
「あ、お爺ちゃん。お饅頭とお茶でまったりする?」
偉そうなお爺ちゃんは本当に偉かったみたいで、私は今お爺ちゃん預かりなのだ。そればかりか養子縁組までして、私に戸籍を作ってくれて好きに生きて良いと言ってくれている。私も冒険者として生きていきたいと最近では思い始めている。それをダグアンさんが良く思ってない事も知っている。
でも、帰れたところでトラックで死ぬだろうし、この世界を楽しみたかった。
神殿の応接室でお爺ちゃんとダグアンさんとお饅頭を食べながら私は切り出した。
「お爺ちゃん、私冒険者になる。それでこの世界を全力で楽しみたい。だから、明日にはもう行くね」
「そうかぁ……偶には手紙や顔を出すんじゃぞ?マンジュウが食べれなくなるのは残念じゃ……ほぉっほぉっ」
「何を言っているんですか、ナナカ様!!冒険者は危険だと何度も言ったではないですか!!文字だって、計算だって子供の領域で……まだ何にも知らない、貴方の脳みそは子供なんですよ!?」
「ごめんね、ダグアンさん。……もう決めたんだ」
「……っ勝手にしてください!!私は知りませんからね!!」
ダグアンさんはお饅頭を口に突っ込み、部屋から出て行ってしまった。しょんぼりとする私をお爺ちゃんは慰めてくれる。
「ダグアンも、ナナカ殿が心配なのだ。毎夜ナナカ殿が泣いているのをダグアンは心配しておったしなぁ」
「なんで知ってんの、お爺ちゃん」
「秘密じゃ。ふぉっふぉっ」
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まだ日が登る前に私は原チャリに跨り、教えられた冒険者ギルドへと行こうとした。だが、そんな私に聞き慣れた声で呼ばれた気がして後ろを振り返ると、ダグアンさんが神官服ではなく軽装で不機嫌そうに腕を組んでいた。
「ダグアンさん?」
「貴女一人だけだと、何をしでかすか分かりませんからね。私も着いていきます。そしてちゃんと学んでください、世界は生優しいものじゃないと」
「良く分かんないけど、分かった」
「だから……はぁ……さぁ、行きますよ」
「ダグアンさん、後ろ乗って!!」
「え?」
「ほら、手にちゃんと力入れてね!!さぁ!!愛の逃避行にレッツゴー!!」
「あ、あい!?」
ぶおおおおおおおおん!!!!
この後繰り広げられる破茶滅茶な物語はまた今度。
原チャリの二人乗りは駄目