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LOST MEMORY  作者: 三山春菜
序章~始まりの出会い
1/2

プロローグ~始まり

多分年内最後に新作です(^-^;)

 森の中に激しい剣戟の音が響く。

「……っ!」

 金髪の少女が剣を片手に、一人で数人の盗賊を相手取っていた。オッドアイを持つ、整った顔立ちの美しい少女だ。

 対する盗賊は、趣味の悪いターバンを頭に巻いた男、まだ若く顔に幼さの残る少年、じゃらじゃらと派手な音を立てるアクセサリをたくさんつけた男、粗野な顔つきに無精髭を生やした男など、総勢十人の男たちだ。みながみな、唇を不敵に歪めていた。ある者などは、欲望に塗れた笑みを浮かべている。

 形勢は明らかに盗賊の方に有利だ。少女は、野卑た笑みを浮かべる男たちを相手に苦戦を強いられていた。

 振り下ろされる剣をあっさり防ぎ、無精髭男は弾き返す。続いて弾き返された剣の勢いを殺さずに突き上げられた切っ先を、粗野な顔つきの男は無造作に跳ね退けた。

「あっ……」

 小さな声を上げて膝をつく少女。あまりに致命的な一瞬。

「ここで会ったのが運の尽きさあ、お嬢ちゃ~ん」

「っ!」

 勝機を逃すまいと、ターバン男は少女の死角から剣を振り上げた。すでに防御は間に合わない。

 鋭く息を呑んだ少女の前で、鈍い音と共にターバン男の胸の真ん中あたりから剣の切っ先が出てきた。

「あ?」

 不思議そうに自分の胸から出た剣先を見つめるターバン男。その一言が彼の最後の言葉となった。ズッと音を立てて剣が引き抜かれ、ターバン男は無言で地面に崩れ落ちる。誰の目にも死亡しているのが明らかだった。

 ターバン男が崩れ落ちた事であらわになった人物。長めの黒髪に暗い色のニット帽をかぶり、黒いシャツに黒いズボン、コートまで黒という全身黒ずくめの鋭い目つきの男だった。

 男は二振りの剣を手に立っていた。右手の剣が血に濡れている。

「何でい、テメーはッ!!」

「生憎と、貴様らに名乗る名は持ち合わせていない」

 どすのきいた声を上げるアクセサリ男を無視して、アルトの、やや高めの声で男は言った。それでも有り余る気迫に押されてか、盗賊の少年がじりっと後ずさる。だがその時、盗賊の一人が声をあげた。

「あっ!? こいつ、もしかして……」

「ンだよ、うるせーなァ」

「ち、違いますよ! こいつ、こいつの顔!」

 前歯が欠けている男が指差した箇所には、三本の傷が。黒ずくめの男の眉間に、シワが寄り始めた。それには気付かず、騒ぎ始める男たち。

「三本の傷に……二本の剣……?」

「ま、まさか」


「「“三傷のベス”!?」」


「その名は好きじゃねえ!」

 揃った声に怒鳴り返す二刀の男。その眉間には深いシワが刻まれていた。

「“三傷の……ベス”?」

 ただ、少女は一人、きょとんと首を傾げていた。

 沈黙の風が吹き抜ける。

「か、構うなっ! 三傷と言えど相手は一人だ! やっちまえ!」

 リーダー格と思しき男の言葉で、少年以外の男たちが喚きながら一斉に斬りかかった。

「ざっけんじゃねーぞ、コラァ!」

「オラァァァァっ!」

「死ねえええええっ!」

 罵声を上げて襲い掛かる盗賊の男たち。黒ずくめの男は棒立ちになったまま動かない。少女は必死に叫んだ。

「ダメ、逃げて!!」

 だが、男は剣を振って血糊を落とすと、

「ふっ」

 軽い叱声とともに踏み込んで剣を振り上げた。

「ぎゃあ!」

 悲鳴と共に、血飛沫と腕が宙を舞う。

 アクセサリ男の、曲刀を握る腕の肘から先がなくなっていた。

 誰もがその結果に呆然とした。

 その場にいた者たちが見たものは、曲刀を振り下ろした恰好のアクセサリ男と、その後ろで剣を振り切った恰好の黒ずくめの男だった。

 しんと静まり返る中、アクセサリ男の右腕がぼとっと音を立てて落ちてくる。それまで何が起こったのか、正確に理解していた者はいなかった。あまりに速すぎたせいで、誰もその剣筋を捉える事が出来なかったのだ。

「ぎゃあああ!! うっ、腕がああああっ!!」

 噴き出る血に、アクセサリ男は悲鳴を上げて転げ回った。あっという間に地面がどす黒く変化していく。黒い男は止まらなかった。

「がっ…………」

 アクセサリ男の首に剣を突き刺して黙らせると、無言のまま剣を振りかざして盗賊たちに躍りかかる。途端に辺りは阿鼻叫喚の巷となった。

 悲鳴が上がるたびに倒れ伏す男たち。首を飛ばされた者、腹を裂かれた者、手足を斬られた者。あっという間に立っている者が減っていく。

 唯一、男に斬りかからなかった盗賊の少年は、あまりの恐怖に尻餅をついた。

「ぎゃ」

 男は最後の盗賊を斬り殺すと、ゆっくりとした動作で少年に向き直った。少年は「ひっ……」と小さく悲鳴を漏らしたきり動かなかった。腰が抜けてしまったのだろう。

 気の遠くなるような一瞬の後、男は剣に付いた血を払い、チンと小さな音を立てて鞘に収めた。わけがわからず混乱する少年に男は言った。

「……俺は無抵抗な人間は殺さん。死にたくなきゃ、さっさと行け」

「ひっ……は、はいぃっ!」

 睨み付けられ震え上がった少年は、慌てて駆け出した。その姿が完全に見えなくなると、今度は金髪の少女に向き直った。少女は放心したようにぽかんとしたまま、その場に座り込んでいた。せっかくの綺麗な顔が汗や泥に塗れ、見られたものではなくなっている。

「大丈夫か?」

 先ほどとは違う穏やかな口調で、何気なく手を差し出す。少女はためらいながらもその手を握った。男に引っ張って立たせてもらいながら、少女は聞いた。

「……あなたが、“三傷のベス”?」

 少女の質問に一瞬沈黙すると、苦々しい表情で口を開いた。

「……だからその名は好きじゃねえって。俺はただの通りすがりの旅人だ、旅人」

「凄い、初めて会った……」

「は?」

 感慨深く呟いた少女の、その瞳が怪しく光った事に、男は気付けなかった。

「なんだって?」

 聞き返す男に応えず、少女は胸の前で手を組むと、

「わたし、有名な人に会うの初めて」

「お前何言ってんの?」

 表情は一切変わらないが、どこか感動した様子の少女に困惑するしかない男。

「こんな有名な人に助けてもらえるなんて……驚いたわ」

「俺も驚きだよ。こんな事言われたのは初めてだ」

 男は頭を抱えたくなっていた。

 そうなるのも無理はない。“三傷のベス”という二つ名は、最凶最悪のものとして大陸中に知れ渡っている悪名なのだ。

 いわく、“三傷のベス”は視界におさまった人間を、片っ端から叩き斬るとか――いわく、戦場では一機当千の働きを見せ、それを脅威と感じた王族に暗殺されかけ、逆に暗殺したとか――いわく、常識はずれの戦い方で敵を翻弄し、欲しいものは力ずくでも奪うとか――数え上げればきりがない。

「お前、意味分かって言ってんのか?」

「もちろん。……ね、サイン、サイン下さい」

「書く訳ないだろ!? 何考えてんだよ、あんたは!!」

 森の中に、男の叫びが木霊した。



「ところで、ベス……さん」

 盗賊の死体の処理を粗方終わったタイミングで、少女が話しかけてきた。ベスレムはそれまでの殺気立った気配は消え失せ、代わりに飄々とした雰囲気をまとっている。

「ベスレムだ……まぁ、ベスでいいぞ?」

「ありがとう。ベス、あなたはずっと一人で旅をしているの?」

「あん? まあ、そうだな。それがどうした?」

 少女は悩むように数秒沈黙すると、おもむろに口を開く。

「あなたが迷惑でないのなら、わたしの旅に同行してほしいの」

「…………あーっと。そりゃ護衛の依頼、って事でいいのか?」

 頭を掻き、困惑の表情を浮かべたベスレムが確認の問いを発する。

「いいえ。護衛ではなく、旅の仲間として」

 今度こそ、長い沈黙がおりた。

「……すまん、なんの冗談だ?」

「冗談でこんな事は言わないわ」

 だらだらと冷や汗を流すベスレム。どうやら今頃になって少女が纏う雰囲気の異常さに気付いたようだ。

「もちろん、先程も言ったけど、あなたになんの予定もなくて迷惑でないなら――だけど」

 ここではっきり迷惑と言ってしまえば、この後数百年に渡る因縁を抱える事にはならなかったはずだった。だがそんな事がわかるはずがなく、生来の真面目で優しい性格が災いし、気付けば口を開いていた。二つ名の事は、すっかり頭の隅に追いやられていた。

「いや、まあ………確かに今日みたいな事がこれからもないとは限らねえし。どこまで行くのかは知らねえが、俺に目的地はねえから一緒に旅ってのも……まあ悪くは、ねえか」

 少女は説得に時間がかかると思っていたのか、驚いたようにベスレムの顔を見つめた。ベスレム自身も自分の言葉に驚いているらしく、気まずそうに目をそらした。

「つーか、人には名乗らせといて、自分は名乗らないのかよ」

 ベスレムの照れ隠しの突っ込みに、今気付いたというように少女は口元に手をやった。ちなみにここまで少女の表情は、いっさい変化していない。表情を隠すのが上手いのか、それとももともと表に出にくいのか。

 それに、ベスレムにはもう一つ不思議に思っている事があった。

 少女の身なりはどこにでもある旅装束だ。そのくたびれた感じから、旅生活が長い事を窺わせる。一人という点ではいささか心許なく思えるが、それは今は置いておこう。

 しかし、出会って数分という短さでも気付く、仕草の高貴さ。背筋を伸ばし、足を揃えて凛と立つ姿は、粗野で野蛮な旅に似合わない。身なりを整え、そこら辺の夜会に連れていき、どこそこの令嬢です、と言ってもなんの違和感もなさそうなほどだ。


 ――どういう身の上なんだ、このガキは?


「ごめんなさい。失礼だったわね」

 疑問に渦巻くベスレムをよそに、優雅に一礼して、少女は名乗った。

「助けてくれてありがとう。私はシャルナ・ドール。これからよろしく」

 顔を上げると手を差し出した。その言葉に旅の同行が決まった事を知るベスレム。その手を握ればもう後戻りは出来ない。だが、

「ああ。足手まといにはならないでくれよな」

 ベスレムはニヤニヤしながら意地の悪い事を言い、彼女の手を握った。その言葉にシャルナは、最後まで表情を変える事はなかった。

お読み頂き、ありがとうございます


前作終わってから、とあれほど思っていたのに

行き詰まって手を出してしまいました(-_-;)

お楽しみ頂けたら幸いです(^-^)

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