一話 全ての始まり
更新は遅めだと思いますが、気長にお付き合いください。感想などを下さると嬉しいです!
男は、公園のベンチにゆったりと座っていた。時刻は、5時半。彼は仕事を終え、疲れてはいたものの、達成感に満ち溢れた顔をしていた。
この国には、身分制度というものがあったが、彼の住む黒羽台地区は、最上級階級である貴族のみが住む地区であるために周りを歩く人々の顔は、幸福そうであった。皆、未来の事を心配する必要の無い者ばかりである。この男も若くして社長となったエリートだった。
彼は、今日誕生日を迎えた可愛い愛娘のためのプレゼントを片手に持っていた。今日で10歳になった娘は顔も性格も頭も良く、皆に好かれる自慢の娘だった。しばらくタバコを吸いながら考え事に浸っていると、
「もうそろそろお時間です」
という冷たく硬い声に遮られた。それでも男は苛立った様子など全く見せずに影のように傍らに佇む秘書の男に笑顔で答えた。
「では、行こうか。春夏の喜ぶ顔が楽しみだ。」
眩いばかりの夕焼けに染まる街の中二人は歩いていった。家は、もうすぐ先である。
「うっ・・・」
突然、男が呻き、道路に膝をついた。そして、彼の指から吸いかけのタバコがぽとりと落ちる。秘書は驚いて立ち止まった。
「社長!?社長!しっかりしてください!どうなさいましたか?」
秘書の呼びかけにも彼は答えない。道路に彼の口から溢れる血が赤い染みを作っていく。
「あっ・・・・・」
彼は、目の前に立ち尽くす秘書の男に視線で助けを求める。すると突然彼の胴体が変形し、背中から黒い影のような腕が生えた。そしてそのまま道路に手をつくと、それを支えに影の体が現れていく。
秘書は驚きの余り口も聞けなかった。影の体が完全に姿を現した時、男は既に事切れていた。
影が口を開き、そこから赤い舌と白く鋭い牙が見えた。影は秘書の男を一瞥すると、その後は彼に目も向けず死んだ男の肉を貪り始めた。