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5.(ヨッシャこれで勝てるで)

「この国ヤバいッスよ神様。貴族じゃなかったら人権とか無いみたいッス」


 ゴローの顔は、青かった。こんな世界に来てしまったことを心底後悔しているようだった。


 今二人は宿屋にいた。二人部屋一日銀貨一枚の安宿だ。

 ベッドの床は硬く、壁は汚く天井が破れている。そもそもベッドで半分を占めるほど部屋自体狭かった。

 ネズミやゴキブリくらい普通に出そうだ。


 ちなみにこの王国は一金貨=百銀貨=万銅貨で、庶民の月収など銀貨五十枚もない。

 物品もサービスも無駄に高価。需要、供給ともに絶対量が限られているから仕方ないが。

 アンドリシアンは魔法補正を除くとリアル中世だった。きっと命の価値も軽い。


「いきなり神様を牢屋にぶち込む(ダンクする)とか、あの城逃げ出せてマジよかったッスよ」


 ゴローは神に恨み言など言わなかった。どうも本気で神を心配していたようだ。

 

(下等生物の割にはできた奴)


 念話には出さず、ゴローを見直す。

 実際ゴローは地味顔に似合わず馬鹿ではなかった。


 パーティの最中、不穏な空気を感じて逃げ出す算段を付けたのだ。

 騎士と力比べをやらされそうになったり、伝説の剣を抜くように誘導されたり、試されている気配があったらしい。


 そこでゴローは理解している範囲の加護を利用した。

 騎士五人の内、四人に勝って最後に負け、剣は六割まで抜くという微妙な結果に留めた。

 姫を初めとした城のメンバーが「並のガキよりは遥かに使えるけど、総合的にはそれほどでもない」という白けた目付きになってから、パーティ会場を脱け出したとのこと。


 今も無断で城から逃げているが、追っ手は来ない。無能の始末にも、戦力回収にも。

 ゴローが侮られず恐れられずの結果に調整したおかげだった。監視くらいは、ついているかも知れないが。

 城では二人を放置決定したのだろう。

 勇者が使えたなら自分らの手柄。使えなかったら知らないと言い張ればいい。

 そのくらいの位置に落ち着いたらしい。


「マジヤバいッスよ。特にあのヒルクリミナ第四王女様とかいうお姫様。一見優しそうに見えて、俺が使えないなら、殺すって目付きだったッスよ」


 ヒルクリミナは確か、金髪ロール姫の名前だった。ゴローの怯え方からして尋常の女ではないようだ。


(そういえば焦ってたみたいだったな)


 跡目の可能性の薄い第四王女では、姫も自分の足場固めに大変のはずだ。

 国家に貢献できなければ降嫁すらもままならない。自分が呼んだゴローが弱いと沽券にかかわるのだろう。

 神は同情はしなかったが姫の立場を理解はした。

 アンドリシアンでは魔物こそが、人間にとって最大の脅威だったはずだ。

 ならば対策となる勇者の召喚を、有力者が権力確保の一環として定例行事化していてもおかしくはない。


「でも何か手違いがあったって分かったみたいで、姫様、中座が多かったッスよ。追っかけて盗み聞きしたら、次の召還とか何とか、配下と密談してたッスよ。ひょっとしてもう一回、別の奴でも召還するつもりッスかね?」

(まあ、実はお前、儀式に紛れ込んだだけだしな。この国の召還の儀式がどんなのかまでは知らんけど。もし触媒やら魔力やらを消費して呼ぶタイプの奴なら、ブツの方は消耗せずに済んでる可能性が高いし、現実味はあるな)


 なるほど。神にも納得いく話だ。二人が簡単に逃げられたのも道理であった。

 パーティ中、ゴローが既に、本命勇者が来るまでの繋ぎ扱いに転落していたのなら、辻褄は合う。 


「そのあとパーティの座興で、結婚相手が分かる占いをさせられたッスよ。結婚相手が俺じゃないと分かって、姫様、露骨にホッとしてたッスよ」


 この世界では未来の結婚相手が分かるのか。神も初耳だった。


「多分、勇者の中で使えない奴の結婚相手とかに王族が選ばれたら困るから、それ対策じゃないスか?」


 思うに十分にあり得そうだった。ゴローに相手の名前を促す。


「……この世界アンドリシアンの名前が出たッス」


 神は爆笑した。

 まさに勇者。世界に恋をした男。

 間抜けだった。ゴローは丸坊主の地味顔なので間抜けさも二乗だ。

 心の中で田吾作勇者と名付ける。


「それより俺らの生活、どうするッスか? ガメたカネやブツなんてたかが知れてるッスよ」


 ゴローは分かりやすい少年だった。即、話題を逸らしてくる。

 牢屋脱出後、二人は城の倉庫に迷い込んだ振りをして物品を接収した。

 強制召還されたという名目の、慰謝料代わりに。

 兵士用の低級品とは言え、武器や防具が手に入ったのはありがたい。

 しかし、貴金属や銀貨銅貨は心もとない量だった。


「カネ稼がないと一週間後あたりから宿代もヤバイッスけど」

(戦って稼げよ。冒険者ギルドとか探せばきっとあるだろ)


 苛ついたが、アイデアは出してあげることにした。念話で。ゴローには多少親切にしてやることに決めたのだ。


「戦うってスライムとかとッスか? 俺、戦えるんスかね? 野球ならともかく、自信ないッスよ」

(任せろ)


 神は言った。その程度で死なせてやるほど、甘い定めではないと。


(いくぞ、ゴッドパワーを喰らえ!)

「うごッ。な、何ッスか? この満ち満ちる力はッス。あ、ありがとうございますッスよ、神様!」


 光を右手から放ち、ゴローに直撃させる。

 ゴローに力を与える権利は神界から認められていたのだ。

 ベッドの上で胸をかきむしりながら、内臓の激痛にうめきながら、少年は超越の力を得る。


 神は少年に力を与えた。

 そう。異世界転生、異世界転移モノの華、【主人公性能】を。


 内容は異世界御三家とでも呼ぶべきか、定番のセットである。

 無限に物体を重量なく収納できるアイテム袋。

 レベルや能力やスキルや時間やマップやクエストが表示されるシステムウィンドウ。

 そしてユニークスキル【鉄壁】。

 ただの野球少年に最新機能が搭載され、通信販売で言うところのハイエンド品になった。


 電化製品に例えると今までのゴローは東南アジア製のコモディティ。

 だが今は高所得世帯をターゲットとした多機能ゴロー。いわば草野球向けのメジャーリーガーだ。

 神は自画自賛した。


(どんなものだ。私もやればできるじゃないか)


 内心おハルに感謝する。

 おハルは最近、自分の英雄を持った。そして英雄の活躍をしつこく自慢してきていた。

 聞き流している神でも具体的な内容を覚えられるくらい。

 要するに神は、おハルの自慢話から使えそうな情報だけ抜いた。加護をパクったのだ。


(うざったかったが真面目に聞いておいてよかった)


 少年に能力の概要を説明してやり、自分にも同じ加護を付属させる。

 ゴローに与えたものと同等の加護なら、神も使ってよいと許可を受けている。

 神が自己確認するとさすがの能力値だった。


 神はウィンドウを操作し、『スキル欄』に入ってみる。ずらりと並ぶ、能力や技能のリスト。

 欄の横に映る『ポイント』を使用してスキルから『剣技:壱』を取得してみる。

 そしてお試しにナイフを振るってみると、宙に浮かんでいた虫が真っ二つになった。


 使える。この加護は取りたい能力を選べる、スキルポイント制とか呼ぶものらしい。

 多分ゴローでも戦闘向きに自分を作り変えられることだろう。


「神様? 俺、なんか、攻撃系スキル取れないみたいなんスけど……」


 早速、問題が発生した。

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