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2.(お前もう死んだんか)

 結論から言うと、免許とトラックは永久に取り戻せなくなった。

 ついでに殺した少年に対して責任を取り賠償するよう、当局と知り合い全員から責められた。

 神界SNSのアカウントは炎上し、実家に神界電話をかけても繋がらない。


 当初は神に責任をとる気など無かったが、やがて諦めた。

 親友と思っていた熱血漢のサブちゃんから罵倒されたのだ。

 高く評価してくれていた美人の後輩からも冷たい目で見られるに到った。


 悪いことは重なるものと決まっている。

 落ち込んでいる神のセンサーが異世界の異変を察知したのだ。


(シュンヤの、魂魄の反応が、消えた……)


『この心の石くれに 砕けの別れは必然か 砂のようにこぼれる言葉』


 オサレなポエムを()んでいる場合ではない。

 慌てて取り上げられずに済んだチャリに乗る。

 最速で、準男爵屋敷近くを目指して移動。森に停車し、急いで領地へ駆け込んだ。


 神界や地球との時間の流れに差があったためか、アンドリシアンでは一年近くが経過していた。

 領地では馬鹿騒ぎのお祭りの最中。お世継ぎ様生誕のお祝いだった。


 神は狼狽し、姿を消して屋敷に侵入する。夫婦の部屋へ即移動。

 揺り籠の上には可愛い赤ちゃんがいた。ただし、可愛い女の子(・・・)が。無論シュンヤではない。


 転生法はサブちゃん直伝。失敗などあり得ないはずだ。なのにこの現状。

 どういうことかとサブちゃんに神界電話で問い合わせる。

 不承不承でも電話には出てくれたサブちゃんだったが、事情を説明するとぶち切れた。


「バカヤロー! なんでおまえ精子に魂を移してんだよ!」 


 通常、当たり前だが転生措置は卵子に対して行われる。

 転生者を精子に移して、受精したのが別の精子だと目も当てられないからだ。

 神は思い出した。自分が準男爵の妻ではなく、準男爵そのものの体内にシュンヤを入れてしまったことを。


 つまりは凡ミス。卵子ではなく精子に転生者を入れてしまったのが原因だった。

 シュンヤは母親の胎内での数億匹参加の競泳大会に敗れた。


 別の精子が受精することで誕生することなくこの世を去ったようだ。

 まさに生死を賭けた戦い。その戦いにシュンヤは敗れたのだ。

 主に神のせいで。


(どうしよう)


 サブちゃんの説教によれば、二連続の脇見事故による殺人もヤバいが誕生の手違いはもっとヤバく、当局にバレたら軽くても道祖神へ左遷。

 下手したら神としてのキャリアも最低ランクからやり直しらしい。


 神は焦った。辺境世界の片田舎で交通安全を守り続ける生活に入るなど、ゴメンであった。


(揉み消すしかない)


 このとき、神はシュンヤの代わりに生まれてきた子を葬り去ることに決めた。


 1.まず娘をひそかに始末する。

 2.その後で彼女がシュンヤだったということにし、上に嘘の報告をする。


「乳幼児死亡率の高い文明が未発達な世界で、シュンヤはすぐ死んでしまった」


 これだ。完璧な策だと神は自画自賛した。


 自分が手を下すと確実に目立つので、下手人には今回轢き殺してしまった少年を採用することにした。

 彼も轢き殺してしまった被害者なので恩恵を与えねばならず、最初から異世界送りは予定の内だ。

 送り先をアンドリシアンにして神の殺手さっしゅを務めて貰えばいい。

 これで不自然さも消せるはずだった。まさに神の完全犯罪。神がかったトラブルニコイチ処理だと神は信じた。


 魂の保管場所、神の世界で「白い”来い人間こいひと”」と呼ばれるポイントに向かう。

 暗殺者に仕立てる少年と交渉するためだ。


 何もない白い部屋。そこで神は少年、新たに轢き殺した被害者と再会した。

 だが問題があった。彼は日本人のくせに生意気にもオタクではなかったのだ。

 神直々に、自分が殺したことだけは隠し、死の経緯から説明してやったが、次の人生は野球選手がいいと言い張った。

 そのため少年を言いくるめ、異世界に連れて行くには難渋した。


 チート能力をやる。ハーレムを作れるかもしれない。

 勇者になれる。王になれる。

 水晶の宮殿や空に浮かぶ城などを見に行ったり、幻想的な経験ができるだろう。

 神の力は定期的にプレゼント。ドラゴンにも会える。

 チケット制だが、大活躍すれば何回か現代日本にも戻れるかも。


 散々説得を重ねた。その結果ようやく、新たに轢き殺した少年、ゴローは承諾してくれた。

 ドラゴンと会える、何回かなら家に帰れる、というのが効いたらしい。

 神は忘れないうちに、自分の頼みを一つ聞いてもらうようお願いした。


 今は言えないがその時が来たら話す。これを聞いてもらえないと世界がヤバい。そう付け加えて。


「分かったッスよ。神様も大変なんスね。家に帰りたいし、俺頑張るッスよ」


 ゴローは疑う気配も見せなかった。坊主頭をジョリジョリやりながら笑顔で返してくれたのだ。


(下等生物の分際で、殊勝な)


 受け入れてしまえば意外と素直なゴローの態度に、神は少し、胸が痛んだ。


 それでも少年には転生の為の門、その名もまんまの『転生門』へ向かうように指示する。

 証拠は早く隠滅しないとまずいのだ。


 ひとまずゴローを加護でちょっと強化する。本命の加護については、使い方を解説してからの予定だ。

 まさに解説を始めようとした時、神界携帯が鳴った。神界メールの着信音。


 タイトルには一言、「査問会開催のお知らせ」と書かれていた。

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