表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/19

魔術師と主

 



 新しい王が即位し王城はにわかに活気を取り戻しつつあった。王城の結界を補修・強化するために王城に入城していた双子は、セドとカシスが争っている姿を目撃した。

 新王の誕生のせいで、魔術師の半分が招集されているのだ。いつもより、王城には、魔術師達が集まっていた。

 いつもならば、気にせずさっさと愛しいリジナのもとに帰るために急ぐ。

 だが、今日ばかりはそうはいかなかった。

 カシスとセドが「一番、美しい主は誰か」という問答をしていたからだ。


 ーーリジナ以上に、撫でる手が優しく、美しくて素敵な主はいない。


 世間、知らずどもめと、双子は教えてやるつもりで、二人に近付いた。


「マリオ様が一番。あの方以外、ごみ。至上の方」


 カシスはチョハを着ていた。黒字に金の刺繍が縫われている。ファン家の家紋である百合の花が、肩に縫われていた。小柄な学者といった風情である。


「ものを知らぬ鳥だ。いいか、ファウスト様の傲岸不遜、高潔なお姿は絵画におさめたいほどだ」


 セドは、法衣に毛皮を合わせたちぐはぐな格好だ。敬虔さを喪った聖職者という感じだ。セドの美貌と長身がなければ決して似合わなかっただろう。

 王城に参上する魔術師のほとんどが、正装を求められる。

 美貌を持つ彼らが参上すると、王城にいる人々は色めき立つ。だが、魔術師達は、気にも留めない。

 帰ったら、主にかっこいい、かわいい、綺麗、似合っている、と褒めてもらうためにめかしこむのだ。


 双子もリジナに褒めてもらうために、海賊王が着るような、野蛮さと色気に満ちた上衣と脚衣を着ている。髪を撫で付けたその姿は、冷酷な表情を浮かべる双子にとてもよく似合っていた。


「だったら、何? ファウストなど、マリオ様より、小柄。お前と並ぶと豆粒に見える」

「お前よりは大きい。ちび鳥」

「なに?」


 ぎろりと、小柄なカシスが、大柄のセドを睨みあげた。


「だいたい、マリオなど、どこがいい? ファウスト様のように、酷薄な笑顔が似合うのか?」

「似合う。マリオ様はどんな顔をしていても、素晴らしい」

「馬鹿な。ファウスト様の貴族然とした高貴な顔に敵うはずがない」

「無知な馬鹿犬が、吠える」

「なに?」


 今度はセドが、カシスを憎らしげに見下ろした。


「馬鹿鳥め、争うか?」

「しても、いい。魔術で勝てると思うなら」

「もちろん、お前に負けるはずがない」


 敵意剥き出しの二人の間に割り込む。

 虚を衝かれた二人に、双子は顎を見せて、偉ぶった。


 ーーこいつら、なにも分かっていない。


「一番、美しいのは、リジナに決まっているだろう」

「お前達の主が懸想する女だからな」


 どうだと言わんばかりに、双子がふふんと鼻を鳴らす。

 セドとカシスの体がぷるぷると震えた。

 それに気がつかず、双子は陶然とした顔をする。


「リジナの美しさは、夜の星を霞ませる。月も、屈服するに違いない」

「そのうち、マリオもファウストもさくっと殺して、僕達が夫になる予定だから」

「ねー?」

「ねー!」


 勝ち誇る双子に、二人の怒りが爆発した。


「ファウスト様は、別にあの女のことを好きではない!」

「マリオ様は、あの女に誑かされただけ! 気の迷い!」

「だいたい、ファウスト様のことは、命にかえてお守りする」

「そうだ、誰がマリオ様に、危害加えさせるか!」


 食ってかかりそうな二人に、双子が言い返しているうちに、周りにいた魔術師達が集まってきた。

 誰もが自分の主が一番だと騒ぎ始め、収拾がつかない事態となってしまった。




 数刻後、新たな王に呼び出されたリジナは、驚愕した。

 煌びやかな衣装を身に纏う魔術師達が、声を荒げながら喧嘩をしている。

 しかも、「自分の主が一番だ! それ以外、認めない!」という声が聞こえてくるのだ。


 同じく、王に呼び出されたファウストが、それを聞くなり踵を返した。

 リジナの隣にいたマリオが、それに続くように来た道を戻り始めた。

 リジナは慌てて二人を止めた。しかし、二人とも疲れた顔をして首を振る。


「リジナ、あれは混ざると危険です」

「危険って……」

「危うきに近寄らず、だ。新王には悪いけれど、あのままにしておいた方が被害が少なくて済む」

「その通り」


 奇妙な連帯感を発揮している二人に手をひかれ、その場を後にしようとした時だ。


「リジナ!」

「迎えに来てくれた?」

「マ、マリオ様! ここ、いる!」

「もう、ファウスト様ったら、お一人では出歩かぬようにして欲しいのに」


 陶酔した声が、背中にかけられる。

 魔術師達が気が付いたのだ。

 マリオとファウストの顔色がさーっと青褪めた。嬉々として、魔術師達が駆け寄ってきた。

 魔術師と主の鬼ごっこが始まった。リジナは二人に促され、王城のなかを子供のように駆け出した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ