成長
UP遅くなっていて申し訳ありません
牧歌的な風景の中、ボク達はセントマルクスに向け大草原をひたすらに歩いていた。
その道中、何度か魔物との戦闘があったのだが、その中でボクはあることに気づいた。
こちらを視認して、すぐさま襲い掛かってくるアクティブな魔物と、こちらから手を出さない限りは敵対しないノンアクティブな魔物。
広大な面積を誇るこのアクロ大平原では、面積同様、多種多様な魔物が存在しているようで、その強さもピンキリではあるが差異があるようだった。
その中でも、ボク自身のことについて。
敵を倒した際に表示されるリザルト画面で、ボクは経験値を得ていた。
こんな伝え方をしたら「何を当たり前なことを」と言われてしまうだろうが、FLOでのボクのLvは、すでに上限に達しているため、本来であれば得られる経験値は0なのだ。
それが少ないながらも魔物を倒すたびに増え続けている。
(この世界ではLvの概念があるみたいだな…だとすると上限は?)
「どうしたのお姉ちゃん?難しい顔しちゃって」
いつの間にか隣に並んでいた優夏にそんなことを言われる。
どうやら考えに集中するあまり、表情が硬くなっていたようだ。
いや、それよりも…
「だからさ…お姉ちゃんって呼ぶのやめてよ…」
「却下だって昨日から言ってるじゃん。今後会う人皆に説明するのも面倒だし。それで、何考え込んでたの?」
どう頼み込んでも却下されてしまうであろうことにため息をつく。
「はぁ…リカントの森の時からなんだけど、敵を倒したら経験値が入ってるなぁって思ってさ」
「へぇ?そうなんだ?」
「そうなんだ?って…Lv上限になってるはずなのに経験値がはいるなんておかしいじゃん」
「そんなの上限になったことないから分かんないもん。ん~…それならもっと強くなれるって思えばいいんじゃないの?」
あっけらかんと言い放つ。
悩んでるボクがバカみたいじゃないか…
だが、たしかに優夏の言ってることには一理ある。
それどころか、非常に正しい正論だ。
今いるこのセブンズガルドが現実である以上、強くなれるに越したことはないし、強くなくては生き抜いていけないだろう。
現状でも、しばらくは生きていくうえでは苦労しなくて済みそうだとは思うけれど、今より強くなれるのは良いことだ。
優夏に言われて納得してしまった。
しかし、このままではなんとなく面白くない。
なんというか、兄としての尊厳みたいなものがボクにもあるらしく――お姉ちゃんと言われている時点で尊厳など無いようなものだが――このままにはしておきたくない。
だってなんか負けた気分になるじゃないか!!
そこでボクはちょっといたずらを仕掛けてみた。
「じゃあ、優夏も戦って強くならないとだなぁ?」
本当は戦闘させる気などサラサラ無いくせに言ってみる。
すると、優夏から返ってきた言葉は頼もしすぎる返答だった。
「ん~…それもそうだね。いつまでもお姉ちゃんにばかり戦わせてるのも悪いし、丁度この辺の魔物なら、私でも何とかなりそうなLv帯みたいだしね」
あらやだ頼もしい
じゃなくて、いやいやいや……
おかしいな?
ボクはこんな台詞を聞きたかったわけじゃないんだけど…
優夏の返事に動揺し、焦ったボクは、この中でも唯一の常識神のアルさんに視線を向けると、ボクの視線に気づき大きく首を縦に振る。
よかった…アルさんもきっと止めてくれるだろう…
「うむ。良いと思うぞ?このアクロ大平原に存在する魔物は種類も豊富で強さもまばらだ。そのため、新人冒険者達にとっては良い実戦経験を積める場所ということで、別名『冒険者修練場』とも呼ばれているからな」
「おぉ!!これは俄然頑張らないとだね!!って、あれ?どうしたのお姉ちゃん?」
やる気を出していた優夏だが、ボクの様子を見て首を傾げる。
まさかのアルさんの裏切りにより、ボクは四つん這いになって落ち込んでいた。
「ん?なんだ?ミネルバもこの辺りの魔物の強さを見て進言したのだと思ったのだが、違ったのか?」
「違いますよぉ…ボクはそんなこと考えてもいませんでしたよぉ…」
自分で仕掛けたいたずらがまさかこんな結果になるなんて…
ボクの落ち込み具合を見て、アルさんも言葉が出ないようだ。
「あのねぇお姉ちゃん…」
呆れたように優夏が目の前にしゃがみこみ、ボクの両肩を抑えると
「私だって、いつまでもお姉ちゃんに任せっきりにしたくないし、少しでも役に立ちたいんだよ?そりゃ、お姉ちゃんは強いし何でも一人で出来ちゃうだろうけど、今はお姉ちゃん一人じゃないんだから、もっと皆を頼らないとだよ?だから私も強くなってお姉ちゃんの負担を少しでも減らせるようになりたい。そのためにも、私に色々とアドバイスして欲しいんだからね?」
「優夏…」
顔を上げ、優夏の瞳を見ると、やる気に満ち溢れた力強い眼差しをしていた。
小さい頃の優夏の記憶が強いボクは、改めて優夏の成長を目の当たりにすることになった。
どうやらボクは過保護になっていたようだ。
こんな眼を見せられたら、いくら心配でも何も反論出来ない。
「分かった…でも、これだけは約束してくれ」
「うん?何?」
「危険だと思ったらすぐに逃げること。あと、絶対に無茶はしないでくれ」
これはボクが優夏に出来る最大限の譲歩だ。
すると優夏も納得したのか
「了解でありますお姉ちゃん様!!」
変な呼び方になっているが、指摘したところでどうせ却下と言われるのが目に見えていたのでスルーすることにした。
ため息をついて立ち上がると、先ほどまで一緒にいたはずのアテナがいないことに気づく。
「そういえば、アテナは?」
「何…?」
こちらの様子に気を取られていたせいか、アルさんもアテナがいなくなっていたことに気がつかなかったらしい。
周囲を見回してみても、特に変わった様子も――
いや――
ボク達が歩いてきた方角から、土煙を上げながらこちらに突進してくる影が見えた。
もう、嫌な予感しかしないんですけど…
こちらに向かってくる影を視認出来る距離に捉えると、アルさんがそれが何なのか教えてくれる。
「あれは…ジャイアントボアだな」
「でっかい猪?」
「概ねそんなところだな」
アルさんと優夏のやり取りである。
だが、正体よりも大変なことにボクは気づいてしまった。
「その背中に乗ってますね」
「え?何が?」
「……アテナが」
ボクの一言に二人は声を揃えて「「そんなことがあるわけ――」」と言って、再び目を凝らして確認すると
「「本当に乗ってる~!?」」
と、お手本のようなリアクションで驚きを見せる。
気付いたボクはどちらかというと、驚きよりも「アテナだしなぁ」なんて思っていた。
何故かって?
今までも色々やらかしてくれてますからね。あの幼女女神様。
さてさて…
これはどうやって解決したらいいんだろう…
慌てる二人をよそに、一人で解決策を考え出そうとするボクがいた。