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R.P.G~Ragnarok.Proxy.Genesis~  作者: 銀狐@にゃ〜さん
第1章2節 アクロ大平原
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アクロ大平原



 明けて翌朝、ボクは少し早めに起きて、朝食の準備を済ませると、昨日、調べ物に夢中になっていたため――優夏の乱入もあったが――お風呂に入っていなかったことを思い出した。

 いくら異世界で、FLOのシステムが生きているといっても、ここが現実である以上、どうやっても汚れは蓄積されてしまうために入らないわけにはいかない。

 最初は自分の身体の都合上、どうしたものかと迷ったが、結局は入ることにした。

 自分の身体なのだから、女性体になっていたとしても別にやましいことがあるわけでも無しと開き直ったのだ。


 バスルームに入り十数分後、シャワーを浴びて浴室を出る。


「女の子って……柔らかいんだなぁ……」


 実際に女の子に触れる機会などなかったボクはつい口に出してしまった。

 あえて、どこがなどの説明は言わない。言いたくない。

 自分のつぶやいた言葉にハッとして、雑念を振り払うかのように首を振ると、乾き切っていない髪の毛から滴が飛ぶ。


「よし……もう大丈夫……」


 落ち着きを取り戻し、更新したショートカット機能で素早く着替えを済ませる。

 着替えといっても、戦闘するわけではないので普段着のようなラフな格好だ。

 更新したのは昨夜作成したアンダーウェア部分のみ。

 ちゃんと着けてます。変態なんて言わせない!!

 朝食を持ち、インベントリに入れ隣のコテージに向かう。

 優夏達のいるコテージの入り口に立ち、扉をノックするも応答が無い。

 まだ寝ているのかと思い、試しにドアノブを回すと扉が開いた。


「無用心だなぁ…」


 仲間とはいえ、女性達のいる部屋に入るのに何も言わずに入るのはマナー違反である。


「入りますよ~?」


 とりあえず、聞こえるであろうほどの声量で、部屋に入る旨を伝えると、奥の方から、水が床を叩く音が聞こえてきた。

 どうやら浴室にいるらしい。

 何故3人全員で浴室を使っているのかは謎だが、部屋の中を見渡しても誰も見当たらないことから、そう考えるのが妥当だろう。

 朝食の準備だけ整えて、自分のコテージに戻ろうと思い、手際良くテーブルの上に朝食を並べ、部屋を出ようと入り口に向かおうとしていると、勢いよく浴室の扉が開け放たれた。


「なんかいい匂いがするよ!?」


「こらアテナ!ちゃんと身体を拭け!」


「アテナちゃん、風邪引くから着替えもしようね~?」


 飛び出してきたのはアテナだけだったが、アルさんと優夏は、バスタオルを巻いただけの状態でアテナの後、浴室から出てきた。


「あ。ネルたんおっはよ~」


「ミネルバ?」


「え…お姉…ちゃん…?」


 アテナがボクを見つけ抱き着いてくる。

 身体を拭いていないようで、水浸しのままの突撃だった。

 しかも、裸のままで…

 アルさんは特に何でもないような素振りでおり、優夏は二の句が次げないでいる。


「う……あ……」


「どしたのネルたん?」


 ボクを見上げながら、不思議そうにキョトンと首を傾げているアテナを振りほどき…


「ご、ごめんなさぁぁぁぁぁい!!」


 ひとまずの謝罪をしてコテージから飛び出す。

 お呼びが掛かるまで、自分のコテージに退避するのだった。





「出口が見えてきたよ!!」


 アテナが森の出口から漏れ出す陽光を見て駆け出す。


「危ないから走るんじゃない!」


 その姿を見て、アルさんが注意を促すが、アテナは止まらない。

 朝の事故(・・)から数時間後、ボク達はリカントの森の出口まで辿り着いていた。

 朝の出来事については、アルさんの一言で不問となった。


「ミネルバは私達に朝食を用意してくれていただけだろう?それに、私達が聞き取れていなかっただけで、声を掛けていたのなら別に怒る必要などなかろう?」


 朝食を食べ終えていたアルさん達に、せめてもの罪滅ぼしのつもりで後片付けをしていたところ、今朝の出来事についてのアルさんの考えを伝えられると、優夏も渋々了承した。


「まぁ…言われてみると、お姉ちゃんが覗きなんて出来るわけがなかったよ」


 そんな度胸があったら、今頃あんな生活してないし。と言って、地味にボクの心臓を抉るのを忘れない…


「色々とすみませんでした…」


 ボクが謝っていると、別に気にした様子もなくアルさんが怖いことを告げる。


「まぁ、下心があったのなら、然るべき処理はしただろうがな。例えば、君の姿を小動物に変えて、森の魔物に襲わせたりとかな?」


 よくよく話を聞いたところ、アルさんは昔、沐浴を見られた際に、その相手を鹿に変化させ、自分の猟犬に襲わせたことがあったらしい。

 その後どうなったのかは、怖くて聞くことが出来なかった…


「は~や~く~!!」


 待ちきれなくなったのか、ボク達を急かすアテナ。

 追いついたボクの目の前に広がっていたのは、見たことのない広さを持つ大パノラマの平原だった。


「凄い……」


 かなり遠くにうっすらと、巨大な城壁のような物がかすかに見えたが、それ以外は目を(みは)る光景だった。


「ふふ…凄いだろう?ここが各大陸にそれぞれある7大名所の一つ、アクロ大平原だ」


 例えるなら、それは緑の大海原。

 現実世界でも、このような辺り一面の大草原は数えるほどしか存在しないだろう。

 あまりの広さに圧倒されているボクと優夏だったが、アルさんの一言でさらに驚かされることになる。


「ここには大昔、とある神が国を築いていたんだが、圧政が酷くてな…それを見兼ねた他の神々がその国を滅ぼし、更地に変えたのだ」


「そんなことがあったんですか…統治していた神様はどうしたんですか?」


「まぁ、さすがにこの人間界に居続けられはしなかったな。今は神界で細々と暮らしているよ」


 優夏が気になったのか、その後もアルさんに質問攻めしていた。

 ボクも驚きはしたが、それほど気にはしていなかった。

 だが、その後のアルさんの言葉は、驚くと言うより、信じられなかった。

 なにせ、飛び出した言葉というのが


「更地に変えたのはそこにいるアテナなんだがな…」


 呼ばれた当の本人は気にした様子もなく、草の上をゴロゴロ転がって遊んでいた。


「まぁ、この姿を見て信じろと言うのも無理はあると思うが、これでもアテナは私の異母姉妹で、しかもアテナが姉になるんだぞ?」


 さらに衝撃の事実である…

 もう何を信じればいいのか分からなくなってきたよ…

 ボクがポカーンとしていると


「あぁそうか。二人にはまだ話していなかったが、アテナの本来の姿はこんな幼女の姿ではないぞ?本来の姿はもちろん成人している大人の姿だし、それに強く美しい、皆からの信望も厚い位の高い女神だ」


「それが、何であんな姿に?」


「それは…私達他の神を守るために、ほとんどの神力(フォルトゥナ)を使い果たしてしまったんだ…」


 そう語るアルさんの表情を窺うと、暗く、悔やみ切れないような辛い表情になっていた。


「あ…す、すいません…」


「いや、いいんだ。アテナがこの地を更地に変えたのが、今からおよそ四千年前、その約千年後に、別の世界の神々が侵攻してきたのだ。その時の神々の戦はラグナロクと呼ばれている」


 ラグナロク

 神々の黄昏

 世界の終末


 色々と呼ばれ方は存在しているが、この単語は主に、北欧神話の中でよく耳にする単語だ。

 ボクは個人の趣味として、色々な神話を調べたことがあり、こちらの世界での出来事を聞いた瞬間にアタリを付けることが出来た。


「もしかして、相手の主神はオーディンですか?」


「…!?あ、あぁ、その通りだ。なんだ知っているのか?」


「いえ、ボク達の世界でも有名な神様ですからね。たぶんですけど、こちらの主神はゼウスですよね?」


「驚いたな…そうだ。私達の実の父であり、まとめ役のゼウスが主神だ。しかし、ゼウスはこの世界ではラグナロクの時以外は全く干渉していないはずなんだが…」


 おそらく、ボクの考えはおおよそ予想通りだろう。


 ラグナロク、三千年前の大戦は、北欧神話の神々とギリシア神話のオリュンポス十二神の戦いだったのではないか。

 そして、位の高かったアテナほどの女神をもってしても、神力を使い果たしてしまいそうになる強力な攻撃…


「『グングニルの槍』ですか…?」


「君には驚かされてばかりだな…そう。オーディンの我々の隙を突く一撃に、ただ一人気付いたアテナが我々の盾となったのだ…幸い、神力が尽きる寸前で防ぎ切ることには成功したが、その代償があの姿だ…」


 アルさんの話を聞き終え、色々と納得することが出来た。

 話の中心になっていたアテナを見ると、飽きもせずに、まだ草の上をゴロゴロ転がっていた。

 よく見ると、優夏まで一緒になって転がり回っていた。

 その光景を見てアルさんに向き直ると、アルさんも苦笑を浮かべていた。

 ボクと目が合うと、アルさんも呆れていたのか、どちらともなく吹き出して大笑いしてしまった。


 アテナを本来の姿に戻す方法はないものか?などと考えもしたが、当の本人が気にしていないことを、ボクがどうこう考えても仕方がない。


「二人とも、そろそろ出発するから、いつまでも遊んでないで支度してくれ」


「「はぁ~い」」


 気の抜けた二人の返事に脱力しそうになるが、気を引き締めて歩き出す。


「よし、行こう!」


 新緑の風が、ボクの長い紫銀の髪を揺らす。

 爽やかな気分になりながら、ボク達は改めて進み始めるのだった。

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