急展開は裏切りとともに
予告無しでの投稿失礼致します
「「「死んで」」」
「くっ!?お前らぁぁぁぁ!!」
ゴブリンジェネラルに呼び出されたゴブリンナイト2体が俺のいる地点まで到達し攻撃し始めた。
2体を相手取っているために俺はジェイク達の相手をする暇が無い。
とは言うものの、このままではなす術もなくMPKされて終わりだ。
(何か…この状況を打開する何かはないのか…?)
「あぁ忘れてた…このままじゃ俺達は見てるだけになっちまうからな。それじゃあつまらんから…こうしてっと…」
ジェイクが何かウィンドウを操作した後、俺の目の前に通知ウィンドウが表示された。
『あなたはパーティから追放されました。インスタンスクエストを進行中のため、サバイバルモードに移行します』
サバイバルモード
この時の俺は知らなかった事だが、このサバイバルモードというのは、特殊なクエストを進行中の際にパーティから外れる、または外された場合に自動的に切り替わるモードだ。
では、このサバイバルモードに移行した場合、どういった事になるのか?
外れたプレイヤーは現状進行させているクエストが成功、または失敗するまでは一部の例外を除いてそのフィールドから抜け出す事が出来なくなる。
つまりは生き残るか死ぬしかない。
確かにそれはサバイバルと呼ぶにふさわしいだろう。
そして極め付けとも言えるのが…
「ほぉら逃げろ逃げろ〜!気ぃ抜いてると銃弾が当たっちまうぞ〜!」
「くぅっ…!…ぐぁ!?」
俺に向かってわざと当たらないように銃を撃つジェイク。
そう。このサバイバルモードは先に述べた縛りに加えて、今までパーティを組んでいた仲間すらも敵扱い、つまり強制的にPvP(プレイヤーvsプレイヤー)の状態にもなるのだ。
(くそっ…このままじゃいいようにやられて終わりだ…何か手は…)
念のために買ってきていたポーションを敵(ジェイク達を含む)の隙を見て使用するが、そこで回復したとしてもその場凌ぎの付け焼き刃でしかない。
こちらがMOBに攻撃を加えようとするとそれを邪魔するかのようにジェイク達の妨害が飛んでくる。
ジェイクは銃士、冥は魔術師、ミコトはヒーラーとして参加しているが、ヒーラーと言うだけで何のジョブなのかは分からない。しかし俺に向けてステータスが下がるデバフを何度か掛けてきていることからただのヒーラーじゃないはずだ。
つまりは3人ともが遠距離攻撃が可能と言うことで、近距離戦しか出来ない戦士の俺との相性は最悪だ。
どう足掻いても生き筋が見つからない…
「ほぉらよっと!!『徹甲弾』」
「『ウォーターバレット』」
「『暗闇の霧』」
「ぐぁぁぁぁっ!?」
『徹甲弾』による貫通ダメージとノックバック効果によりMOBの群の中に押し戻され、冥の『ウォーターバレット』でさらに動きを封じられ、ミコトの『暗闇の霧』により視界を塞がれ、俺は完全に八方塞がりとなってしまう。
当然防御はしているものの視界が見えないために後方からの攻撃をモロに食らってしまい、俺の残りHPは瀕死に近いレッドゾーンへと突入する。
(なんとかっ…なんとかしないと本当に…!)
「やれやれ粘るなぁナナシ…たかがゲームだろう?もう楽になっちまえよ」
「馬鹿だなぁジェイク、あの必死な表情が唆るんじゃないか。もっと惨めに足掻いてよぉ」
(あいつら好き勝手言いやがって!)
俺の戦況と表情を見て下卑た笑みを浮かべるジェイクと冥。
いつでも俺を殺せるはずなのに決して直ぐ殺さないよう加減して遊んでいる。
やろうと思えばポーションを使用させる事すらさせない事も出来るにも関わらず回復行動中は手を出して来ないのだ。
完全に嬲っている。
そんな状況を脱せない俺自身にも怒りがこみ上げてくると同時に情けなくもある。
(俺にもっと…強さがあればこんな奴らなんか…!)
「でもそろそろ頃合いかしらね…モードが切り替わってから10分は経過してるし、誰かに見られたら後が面倒だし…」
「じゃあそろそろ…」
「「「やっちまうか」」」
「っ!?」
3人が何やら話していたようだが、揃ってこちらを見据えると不気味な嗤いを浮かべている。
様子から察するに、とどめを刺すことにしたのだろう。
だがこの期に及んでも俺の状態異常は治っておらず変わらずやられたい放題だ。
「くっそぉぉぉぉぉぉ!!」
その時だった
(ーーー代われ…)
(え………?)
何だ今の声は…
どこから…
視界が回復してない中、何処からともなく聞こえた声に辺りをきょろきょろするが、周りにいるのはMOBばかりだ。
そうこうしているうちに俺のHPは残り僅かになってきていた。
(このままじゃやられちまうぞ。いいからさっさとオレに身体を明け渡せ!!)
(なっ!?)
今起きたことをどう言い表せばいいのだろうか?
謎の声の主が声を張り上げたかと思うと、俺は何故か自分の後姿を少し上空から俯瞰するような形で見つめていた。
ジェイク達やMOBは今の俺には気付いていない様子だ。
しかし、異変はそれだけでは無かった。
「ギリギリじゃねぇか…ったく手間かけさせやがって」
見下ろしていた俺が喋った!?
いや、俺じゃない俺が…いやいや…???
いかん…本当に訳が分からない。
そんな状態の俺を気にする素振りも全く無く目の前の『俺』は何かを呟いた。
「『威圧』、『ウォークライ』」
まさかのスキル使用に戸惑う俺。
MOBの様子を見ると『威圧』と『ウォークライ』の効果が重複したのか麻痺しているようだった。
(こんな効果があったなんて…)
するとすかさず『俺』は目を閉じたままバックステップでMOBとジェイク達とは逆方向に跳び距離を取る。
「やれやれ…まぁこれで時間は稼げんだろ」
(お、おい!何する気なんだ!?早く逃げろよ!)
「うるせぇよ『俺』ちょっと黙ってろ」
本当に一体何する気なんだ!?
俺が一人右往左往していると、『俺』はまた何かを始めるようだった。
「『オプションコール』音声入力に切り替え」
『入力方式を音声入力に切り替えました』
「キャラクター変更、IDは同じ、PASS、●●●●●●●、現在地をこの場に設定で再ログイン」
『PASSを照会…承認しました』
『俺』が何やらブツブツ呟くと、システムがなんやかんやを承認して俺のアバターが違うアバターに切り替わっていく。
新たに出現したアバターの名前には『natumi』と記されている…
その容姿は俺と同じ顔、髪型をしてはいるが、肌は褐色で髪の毛は白髪をベースに前髪の一部だけが黒髪、瞳の色は黒く見えるが実際には暗い紫色とでも言えばいいだろうか?
さらにはジェイク達よりも強そうな装備を身に付けており如何にも強者然とした佇まいでその場に降り立った。
(な、何が…)
慌てふためく俺を置き去りにするような感じで、『俺』は一言だけ言い放った。
「さてと…お仕置きの時間だ」
次回、蹂躙