討伐クエスト、その対価
ちょっと頑張ってみました。
今回の話は気分を悪くしちゃうかもしれないので注意です…
パーティでの連携練習も切り上げ、俺達4人はニュービーシティJPから東へある森のある一角へと移動して来た。
それというのも、今回のジェイクが受けて来た『ゴブリンジェネラル討伐』のクエストのスタート地点が今いる場所であり、この場所で開始を宣言しなければクエスト自体が発生しないという事であった。
「さてと…みんな準備はいいか?」
ジェイクが俺達を見回し、クエストを始めるにあたっての最終確認をする。
俺達3人はそれぞれ持ち物や装備の点検を終えると、それぞれ準備が終わったことをジェイクに告げる。
「よし!そんじゃあ早速、『ゴブリンジェネラル討伐クエスト開始』」
ジェイクがそう宣言すると、一瞬ではあるが周囲の景色がシャボン玉が揺れるかのようにぐにゃんとしてまた元に戻った。
「今のは…?」
この現象が気になった俺は思わず呟くと、それが聞こえたらしい冥が簡単に説明してくれた。
「クエストには色々と種類があって、ナナシも受けた事があるとは思うんだけど、モブの討伐とか素材の採集クエとか…まぁお手軽にこなせるクエストがあるのは知ってるよね?」
「あぁ…ポーションの材料集めとかスライムを○体倒すとか?」
「そうそう。そういったクエストは通常クエストって扱いで、ソロでもこなせるクエストであり、自分の実力に合った範囲で受けられるクエストなんだけど、今回の『○○討伐〜』っていうクエストは一人ではなかなかクリアするのが大変なクエストになるのね?」
ふむふむ…
「で、私達が今受けてる討伐系クエストには、必ず対象になるボスモンスターがいるんだけど、普段からそんなボスモンスターが徘徊してたらLVの高い人達ならともかく、低LVの人が遭遇しちゃったらすぐにやられちゃうでしょ?」
それはそうだろうなぁ…
「そういったボスモンスターはこうやって指定された場所でクエスト開始の宣言をする事によって出現するんだけど、同じフィールドに他のプレイヤーが入り込んで来ても問題無いように、開始宣言をすると、宣言したパーティしか対象モンスターに手を出せなくなるフィールド効果が発動するの。それがさっきの『フィールド形成』ね」
「なるほど…要は関係の無い人を巻き込まないための措置って思えばいいのかな?」
「おおむねそんな感じで大丈夫だと思うよ」
確かにボスクラスの敵がいきなり横に現れて攻撃して来たら、他の目的で同じ場所にいたプレイヤーにとっては迷惑極まりないだろうな…
俺が納得して頷いていると、「補足として…」と、ミコトが追加でレクチャーしてくれた。
「フィールド形成されれば他の無関係なプレイヤーは対象モンスターに手が出せなくなるんだけど、ただ手が出せないってだけで、他のプレイヤーからも出現したモンスターは確認というか視えてはいるの。通常のモンスターとクエスト関連モンスターの見分け方は、そのモンスターの頭上にあるモンスター名の『色』で見分けられるよ」
そういって近くに出現したゴブリンを指差すミコト。
その指先に視線を向けると、通常のモンスター名は自分とのLV差で表記される色が違うのだが、今までと違いそのゴブリンの表記色はいつもと異なる色で表示されていた。
本来、通常のモンスターの表記色は自分と同等の強さであれば『白』で表示されるが、敵が自分よりも強い場合、強ければ強いほど濃い『赤色』で表示される。
逆に自分よりも敵が弱かった場合は、格下であればあるほど濃い『青色』で表示される。
しかし、今見えているゴブリンの表記色は『薄紫』で表示されていた。
おそらくこの色が通常モンスターと討伐関連モンスターを見分ける色になるんだろう。
たしかにこれなら見分けは簡単だ。
「さて、そろそろ始めるが…ナナシ、他に質問はあるか?」
本格的に攻略を始める前に、ジェイクが俺に確認してきたが、俺自身始めての討伐クエストになるため、何が分からないのか分からない状態である。
現状気になったことと言えば先程のフィールド形成現象やそれに伴うモブの出現、普段のモブとの表示の違いくらいだったので、後はなんとかなるだろう。
そう思った俺は問題無い旨を頷く形でジェイクに伝える。
「よし。じゃあ行くか!ナナシ、視界の中に赤い矢印が出てるのは分かるか?」
「赤い矢印…さっきクエスト開始してからなんか出てきたけど、これの事?」
「それだ。討伐クエストにはボスまでの道順というかクリアしなきゃならない目標があるんだが、その矢印は目標がその方角にあるって事を示してるんだ。視界の右側にもクエスト内容が出てるだろ?その内容に沿って行動して行くと最終的にボスに辿り着けるわけだな」
「そっか。ってことはこの方角に向かって進んでけばいいんだな?」
「そういうこった。じゃあ早速向かうか」
「了解。みんなよろしく!」
俺はみんなに開始の挨拶をすると、矢印の示す方向に向かい歩を踏み出す。
初めてのボス戦で緊張するけど、俺がやる事は変わらない。
自分の出来る範囲で無理無くやる事が大事だってのは一番最初にジェイクに教えてもらった事だ。
そう自分に言い聞かせながら、俺は目標地点に向かうのだった。
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クエストを開始してから小一時間ほど経った頃、目標地点でのターゲットを討伐しながら進んで行くと、俺達は森の中にしては結構な広さのある広場前に辿り着いた。
広場の入り口には紫に光るラインが引かれており、ここまでの目標地点の入り口にも引かれていたラインと同じようだった。
このラインを超えてエリアに侵入するとイベントが始まり、それが終わると戦闘フィールドに場面が変わり戦いが始まる。
今までの中継地点でも全てそうだったので、おそらくここも同じだろう。
そう思って、広場入り口の前に立ち止まると、ジェイクがみんなに声を掛ける。
「とりあえずは何事も無くここまで来れたな。冥とミコトはもう知ってることだが、ナナシ、この先が察しの通りボスの間だ」
「だろうね…でも、ようやくだな」
「ようやくか…まぁ確かに時間は少し掛かっちまったが最初なんてそんなもんだ。気にする事じゃねぇさ」
「そうだよ〜。初めての場所で道に迷うことなんて当たり前だって」
「私達も久しぶりのエリアだったのでど忘れしちゃってましたから…なので気に病む事はないですね〜」
俺が呟いた言葉にジェイク、冥、ミコトの順でそれぞれフォローしてくれたが、ここに辿り着くまでに、道に慣れていない俺は何度か一人で迷ってしまったのだ。
「周り一面が樹で覆われてるんだもの。見間違えても仕方ないよ〜」
「冥、みんなもごめん、ありがとう」
「まぁ反省もその辺にして、準備が出来たなら行くか」
ジェイクの言葉に準備の済んだ俺、冥、ミコトが頷く。
「じゃあナナシ。初ボスクエストって事で一番乗りしてみな」
ジェイクはニカっと笑うと俺を広場へ押して行く。
その勢いに促されるままフィールドに突入するとイベント画面に移り変わり、ボスであるゴブリンジェネラルが喋り終えたところで普段の画面に戻った。
ゴブリンジェネラルはなんだか興奮した様子でグギャグギャ言っていたが、括弧書きされていた訳が無ければ何を言って興奮してるのかさっぱり分からなかった。
要約すると、『よくも部下を葬ってくれたな!?』『こうなったら俺自らが相手をしてやる!!』という事らしく、戦闘シーンに切り替わったのだ。
「来るぞ!」
俺がゴブリンジェネラルのグギャグギャにポカーンとしていると、敵が動き出したのを確認したジェイクが合図をする。
気を引き締め直した俺は盾を持ち直して先陣を切ってヘイトを稼ぐ。
ボスクエストでの戦闘は特定の場所での戦闘になると『戦闘フェイズ』というものがある。
今回のこのクエストで言うならば、各目標地点での中ボス戦もこの戦闘フェイズが存在するらしいのだが、これは主に敵の残りHPによって行動パターンが変化する事を言うらしい。
中ボス戦では敵の残りHPが50%ほどになるとこの戦闘フェイズが切り替わり中ボスの行動パターンが変化していた。
今戦っているゴブリンジェネラルもダメージを与えて行くと、一定のポイントで雑魚モブである他のゴブリンを呼び寄せていた。
新たに出現した敵のヘイトを俺に引き寄せ、かつゴブリンジェネラルからの攻撃もこちらに向けさせ続けるのは中々に気の休まらない状態ではあったが、そこはヒーラーであるミコトがタイミングよく回復してくれているので、俺は集中してヘイトを稼ぎ続ける。
ジェイクと冥は俺が敵全てを引きつけている間に雑魚モブの処理をして行く。
(なるほど…これがパーティでの役割分担か)
そうこうしている間に、ゴブリンジェネラルの残りHPが10%ほどになった時、急にゴブリンジェネラルが反転して奥にある台座に立つと雄叫びをあげた。
「な、なんだ!?」
ゴブリンジェネラルの行動が読めない俺は、つい立ち尽くしてしまう。
「気を抜くな!最終フェイズ突入だ!」
ジェイクが立ち尽くしている俺に向けて喝を入れる。
「この雄叫びはさっき倒してきた中ボスと同等の部下を呼び寄せてるの!」
「なんだって!?」
冥の言葉に俺は思わず息を呑む。
するとその様子に気付いたミコトが補足を促してきた。
「と言っても、さっきの中ボスほどの耐久力があるわけじゃないからそこまで苦戦はしないよ」
な、なんだ…
それならまぁなんとかなる…のかな?
「モブが沸くまでは少し時間がある!今のうちに態勢を整えろ!」
「りょ、了解!」
俺は自分自身にステータス強化のスキルをかけていき準備を整える。
後はミコトから回復が飛んでくれば迎え撃つ準備は万端…なのだが、その回復が飛んで来ない。
「まぁその前に…だ」
ジェイクの声がかなりの後方から聞こえて来る。
かなりの後方からだ…
ジェイクと冥のジョブの特性上、銃士や魔術師がやや後方に位置取りをするのは分かるのだが、今ジェイク達が立っている場所は明らかに攻撃が届かない範囲に立っているのだ。
「なんでそんな場所に移動してるんだ?そこじゃ攻撃も届かないだろ?なんかあるのか?」
俺はジェイク達が離れた位置にいるのを疑問に思って聞いてみる。
「いやなに…そろそろ…」
「そろそろ…?」
「今までの対価を貰おうと思ってな…」
「対価って…今はそれどころじゃないだろ!?ふざけてんなよ!」
ジェイクの場違いな発言に俺は激昂するが、続く冥の言葉に俺は戦慄する。
「ふざけてなんかいないわよ?私達は最初からこれが目的だもの…」
「私…達って…まさかミコトも!?」
冥の言い放った言葉の意味を噛み砕いて咀嚼し、ミコトに向き直ると、ミコトの口元は歪に弧を描いて嗤っていた。
「くふっ…その歪んだ顔、たまんないわぁ…」
俺の顔は今、どんな表情を浮かべているのだろうか…
「俺達はな…初心者を支援する対価に貰ってるものがある。それは…」
「「「死に直面した時の表情だ!!」」」
「私達はクラン『スティールフェイス』私は盟主のミコト、この二人はウチの副盟主で普段は獲物を探してるんだけど、今回の獲物がナナシさん、君ってわけね」
「う、嘘…だろ…」
「あぁ…ナナシィ〜。俺は最初に教えたよなぁ?あの手この手で騙して来るプレイヤーもいるってよぉ」
「………」
「私達は間違ったことは教えてないわよ?でも結果的にこうなっちゃったわけだけどぉ…ねぇねぇ?今どんな気持ち?親切に教えてくれてた人達が騙す側だったって分かってどんな気持ち?アハハハハハハッ!!」
「………」
「私達はMPKを生業にしたPKクランなの。ここまで言えばもう分かるわよねぇ?」
とどのつまり…
俺はずっと騙されていたって事なんだな…
こいつらは初心者を食い物にして弄ぶ最低なプレイヤー達だったと…
そして俺はそんなこいつらにまんまと騙されてたってわけだ…
「そろそろ頃合いだな…」
ジェイクが俺の後ろから敵が近づいて来るのを察知する。
俺も身体はジェイク達に向けたまま後方を確認すると、比較的攻撃の重かったゴブリンナイト2体がこちらに向けて歩いてきていた。
「ってわけでだ…」
「改めて…」
「「「死んで」」」
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