望み
久しぶりの投稿です;
リアルが忙し過ぎてネカフェに通う暇が無い;;
「君が七志君だね?」
先生と一緒にログアウトして小一時間ほど経った後、俺が入居している部屋に、先生と連れ立って一人の男性が入って来た。
実直で精悍な顔付き、蓄えた口髭と上背とバリトンの効いた低音の声も相まって、一見しただけだと思わず萎縮してしまいそうな雰囲気を持つ男性が問い掛けてきた。
「は、はい…え…っと…貴方は…?」
男性の雰囲気に呑まれつつも何とか返答することが出来たが、俺を見定めるように男性が見続けて来るため、威圧感が半端ない…
「アナタ、そんなに威圧的に見てたら七志君が可哀想でしょう」
「む?いや、そんなつもりは無かったんだが…」
「アナタにそんなつもりがあろうが無かろうが、タダでさえ見た目が厳ついんだから自重しなさい」
「む、むぅ…」
一緒に部屋に入ってきた先生が、男性を諌めるように言うと、驚いたことに男性は見た目からは想像出来ないほどにシュンとして項垂れる。
(な、なんなんだろうこの人…)
俺が困惑しながら男性を眺めていると、様子を察してくれた先生が助け舟を出してくれた。
「ごめんね七志君。この人は峰岸 厳一郎。私の夫で警察官よ。」
「警察の…えっと…取り調べ…でしょうか?俺、その時の記憶が全然無くて…」
「今日私がここに来たのは別の理由だよ。そうだな…私から言えるのは、『アレ』は悲しい事故だった…ということだけだな。」
厳一郎さんは腕を組み、険しい表情で唸りながら答える。
正直なところ、俺の記憶は酔っ払った同居している男に刃物を突きつけられた辺りの記憶からこの部屋で目覚めるまでの記憶が綺麗さっぱり無くなっている。
先生が言うには、正確には記憶が抜け落ちている、あるいは俺が記憶に蓋をしているのだと言う。
カウンセラーから言わせれば、俺の場合は前者であり、理由としては無意識に自己防衛が働いているというのが当てはまるようだが、そんな状態になるほどのことが俺の身に起きたのかと思うと気が気でない。
ともあれ、厳一郎さんが今日、俺を訪ねて来たのは違う用事のようだ。
俺は萎縮しながらも厳一郎さんに向き直り話を聞く体勢を整えると、厳一郎さんの口から予想外の言葉が飛び込んできた。
「七志君。君さえ良かったらで構わないんだが、私達の息子になるつもりはないかね?」
「………はい?」
息子にならないかってどういう意味だ?
いきなりの展開に頭がついて行けず、俺は間抜けな返事をしてしまった。
「もぅ…あなたは話がいきなり過ぎるのよ…七志君が困ってるじゃないの」
「む…今の伝え方ではまずかったか?」
俺の様子を見て、先生が補足をしてくれた。
「まぁ簡単に言えば養子縁組ってやつよ。もし七志君さえ良かったら、手続きをすれば私達の息子になるって話なんだけど、どうかな?」
いや、どうかなと言われましても…
先生が補足してくれたおかげでどういう意味で息子にならないかと言われたのかの意味は分かった。
でもそういう結論に至った理由が分からない。
先生達には確かお子さんが二人いたはずだ。
この一年の間、先生から子供自慢を延々と聞かされ続けていたのだが、今年でたしか13歳になる兄と11歳になったばかりの妹の兄妹だということ、身内というのも過分にあるとは思うが、先生はいつも可愛い可愛いと連呼していた。
俺はそのくらいの歳の兄が可愛いと言われているのは本人としてはどうなのかとも思ったのだが、先生はブレることなく可愛いと言い続けていた。
俺としてはこの話はとてもありがたいことではあるのだが、いかんせん、人とのコミュニケーションを今までまともに取ったことが無い俺である。
先生達は今こうして受け入れてくれているようだが、先生達の養子になり、その家に暮らすことになった時、俺は彼らに受け入れてもらえるのかどうかが心配の種なんだが…
俺が話を聞いて悩んでいると先生は俺にこう告げた。
「もちろんこの話は強制ではないし、七志君の意思を尊重するよ。いちおう君の年齢自体は色々と調べたら14歳位ってことも分かってる。義務教育が必要な歳頃ではあるけど、七志君は中学卒業程度の資格までは持ってるから時期が来ればすぐに働くことも出来るわ。そう言ったことも踏まえて、君はこれからどうしたい?」
「正直なところ…あまりに急な話で考えがまとまらないといいますか…俺自身、自分がどうしてここにいるのかが分からないうちは外には出ない方がいいと思っていて…」
俺は自分の心の内を正直に伝えた。
俺自身のことがよく分かっていない状態で新たな何かを始めるのは、何か釈然としないものがあるのだ。
差し当たっては記憶の欠如、これらを明確にさせない限りは俺自身、先に進めないような気がするんだ。
俺の話を聞いていた先生は納得したように頷き、こう続ける。
「七志君自身が色々と納得出来ていないのね。分かったわ。それならとことん納得するまで悩みなさい。その経験は必ず貴方の心の支えになる。この話に期限をつける気はないし、それにね…」
先生は一度、源一郎さんの肩に手を置き、示し合わせたように二人で俺を見据えてこう言った。
「手続きはしていないけれど、私達は七志君を迎えると決めた時からずっと貴方をもう一人の息子と思っているわ。だから焦らずにしっかりと自分を見つめ直しなさい。」
二人の視線が俺に集中する。
しかしその視線は俺にとって不快な視線ではなく、慈愛に満ちた視線であった。
そんな視線を向けられたことなど生まれてこのかた一度としてなかった俺は、最初、なぜ俺は二人に微笑まれているのか分からなかった。
だが…
「……ーーっ!?…なんで…?」
なぜか俺は涙をこぼしていた。
拭っても拭っても溢れ出る涙が止まる気配がない。
そんな俺の様子を見た厳一郎さんがおもむろに俺の頭に手を乗せ乱暴に撫でてくる。
その手は大きく乱暴な手つきなことに変わりはないが、決して嫌な感じではなく、安心出来るものだった。
そこに先生が加わり、二人で俺を撫で回すという若干おかしな状況に陥ったが、暖かく心地良い二人の手を振り払うことは俺には出来なかった。
暫くして、涙も止まり落ち着いた俺は二人にこう告げる。
「今はまだ返事をする事は出来ませんが、俺なりの答えが出せたその時にはしっかり返答します。」
「あぁ。時間はたっぷりあるんだ。焦らずじっくりと…いや、これは先ほど和香が口にしていたな…ううむ…」
「無理して良いこと言おうとするといつも変な感じになるんだから…普通に待ってるだけでいいでしょう?」
「いや、和香…しかしだなぁーーー」
口論とも言えないような口論を続ける二人。
この二人はこれが普通で通常運転なのだろう。
二人のやり取りを見ていた俺は、羨ましくも思ったりしたが、遠慮することのない良い夫婦なんだろうと思うことにした。
やがて二人の口論とも言えないじゃれ合いも落ち着いてきたところで、先生が思い出したかのように話題を切り出してきた。
「そうだ七志君。この養子縁組の話は一旦置いておくとして、君の合格祝いの事なんだけれど…何か希望はあるかな?」
そういえばログアウトする前にそんな事を言っていた。
いきなり過ぎた養子縁組の話ですっかり忘れてしまっていたが、ログアウト後に決めるような事を言っていた。
俺は少しだけ考えた後、FLOのゲーム性について聞きかじった内容を思い出し、ダメ元で希望を言ってみることにした。
「俺の希望する事は…」
今回も予告無しでの更新です;
前回の更新から約7ヶ月もの長い間更新出来ずに本当に申し訳無く思っております。
スマホからのUPなため、読み苦しい点が多々あるかとは思いますが、どうかご容赦頂けましたら幸いです。