少年③
短めです
「ここは……」
どこだろう?
なぜ自分はこんな小奇麗な場所のベッドに横たわっているのだろう?
しばらく思い出そうとするも、何故か脳内に思い浮かべた映像がフィルターがかかったかのように不鮮明になる。
「思い…出せない…」
思い出せないというよりは、ある一部の記憶だけが飛んでいる。
自分は日常的に虐待を受けていた。
ある日、自分の父親が夜中、寝ていた俺を殴りつけて起こし、いつものように何の理由もなくただただ殴りつける。
しかしその日はどうも様子がおかしかった。
ひとしきり俺を殴りつけて満足したのか、ふと父親の殴打が治まる。
離れていく足音と気配に内心ほっとしていたのだが、少しして、その足音はこちらに向かってまた近づいてきた。
暗がりの中でもわずかな光源が照らし出したのは、ギラリと光る刃物を手に持った父親の姿であった。
父親は酔っているのか、ひどい酒臭さをしており、何やら喚いているようだが、呂律が回っておらず、何と言っているのか聞き取ることが出来なかった。
そんな父親の様子を見ていると
「なぁに見てやがんだぁ!このクソガキがぁ!」
「っ!?」
俺はとっさに身を床に投げ出し回避行動を取った。
理由は単純。
父親が俺をめがけて刃物を突き刺そうとしたからだ。
これだけ騒いでいるにも関わらず、同居している俺の母親は別室で眠っているようで、出てくる様子は微塵もない。
まぁ…出てくるわけが無いのだが…
母親も同じように、俺を虐待しているのだから…
いくら日々の度重なる虐待により、身体が頑丈になっているとはいっても、さすがに刃物を突き刺されでもしたら無事で済むはずもない。
なんとか痛む身体を誤魔化しながら、必死で躱し続けていたが、ついに躱し切ることが出来なくなり、父親は刃物の柄で俺の頭を強く強打してくる。
「ぐぅっ…」
「ちょこまかと逃げ回りやがって…おとなしくしやがれ!」
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやば――――――――――――――――――――
その後のことがいくら考えても思い出せないのだ。
俺はあの後どうなって… そして、どういった経緯があって今この場所にいるのか…
だが、俺が次に思ったことは…
「か、帰らないと…」
昔、まだ小さかった頃に、虐待に耐えられなくなって家から逃げ出した時があった。
その後、母親に見つかり連れ帰られた後の折檻はいつも以上の苛烈さを極め、数日間の間、まともに動けなくなってしまったのだ。
その時のことを思い出すと、今回は骨の一本や二本は覚悟が必要だろうと思った。
せめて罰が少しでも軽くなるように行動しなくてはならない。
怠い身体を起こしてベッドから降りようとすると同時に、一つしかない出入り口が開け放たれ、見知らぬ女性が入ってきた。
「あらおはよう。気分はどう?よく眠れたかしら?」
この女性との出会いが、俺のこれからの人生を大きく変えていくことになろうとは、この時の俺はまったく予見することが出来なかった…
今年の締めくくりとして、1周年オーバー記念にネット小説大賞に応募してみました。
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