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R.P.G~Ragnarok.Proxy.Genesis~  作者: 銀狐@にゃ〜さん
第1章1節 セブンスガルド
3/39

異世界=現実



「くっ…はぁはぁ…何よコレ…なんかヤバイよ…」


 私は今見知らぬ森の中をひたすら逃げ回っている。

 少し離れた場所から狼の遠吠えが聞こえ身が竦む。


(マップもNO DATAになってるし、痛いし、血も出てる…ほんとにどうなってるのよこれ…)


 数十分ほど前に攻撃を受けた右腕を庇いながら、再び道の分からないこの森を走り出す。

 逃げ回りながら、どうしてこんな状況になったのか、数時間前からの記憶を辿る。


 私は峰岸(みねぎし) 優夏(ゆうか)中学1年生。性格は元気で明るく、人見知りをしないため、様々なタイプの友人が多い。活発な印象を与える、やや内巻き気味のショートカットと、笑ったときの八重歯がチャームポイントだ。友達が言うには、私は猫っぽいらしい。唯一のコンプレックスとして、スラリとしすぎたこの体型だろうか。気にし過ぎと言われるが、どうも『まな板』とか『ぺったんこ』といった平坦を表す単語を耳にするたびに反応してしまう。一度だけ、私に対してつるぺた女と言ってきた同い年の男子には、自慢の空手を使い、鉄拳制裁してやった。


 と、こんなことはどうでもいい。


 兄とリビングから別れた後、今日もFLOにログインして遊んでいる最中だった。

 ログインする少し前、兄から「程ほどにな」なんて言われたが、今日の私はひたすらレベリングをするつもりでいた。

 私の自慢の兄であり、FLOの中では「最強のソロプレイヤー」と名高い兄に、少しでも追いつくために。とは言っても、まだ始めてから2ヶ月程しか経っていない私では、兄のいる領域に届くまで何年もかかりそうだ…

 私と兄の差が離れすぎているため、一度もゲーム内で会ったことはないけれど、兄が有名過ぎたため、兄の操るアバターを見つけるのは容易だった。だって見た目がリアルとそっくりだったから。何で女性アバターなのかは分からなかったけれど…

 私がこうして兄を追いかける目的は単純だ。


 兄と一緒に遊びたい。


 ただそれだけだ。


 兄が家に引きこもって以来、私は兄と遊んだ記憶がない。

 現実の世界で話すことはあっても、FLOに入り浸りな兄と現実で会うのは、同じ家に住んでいても極稀だ。ログイン前に偶然顔を合わせたのも、実に春休み以来で、まともに話せていたかも微妙なところだ。

 兄とのコミュニケーションは、リビングにある伝言板を用いて取れる。お互いがFLOをプレイしているのを知っているのは、以前、兄宛に私も始めたことを伝言板で伝えたからだ。今日はリビングに本人がいてビックリした。


 そんな兄とのやり取りを終え、予定通りFLOにログインした私は、今の適正レベルと呼ばれているエリアでは若干効率が悪くなってきたと感じ、同レベル帯の友達と少し上のレベル帯のエリアを目指して街道を進んでいた。

 今日一緒にパーティを組んでいるのは、同じギルドに所属しているリアル同級生の2人だ。

 前衛で壁役のギル君 (ギルバート)と回復役のマリちゃん(マリエル)、そして前衛でアタッカーの私 (ユウカ)といった構成でエリアを進んでいるとギル君が話しかけてきた。


「このメンバーで本当に大丈夫なのかなぁ?」


「何?自信無いの?」


「自信なんて最初から無いっての…ユウカと違って、俺はまだそこまでレベルも装備も充実してないし、MOBからのプレッシャーだって凄いんだぞ?」


「そこはホラ。壁役の宿命ってやつだよ」


 愚痴をこぼすギル君の背中を軽く叩き、笑いながら歩き続ける。すると、すぐ後ろを歩くマリちゃんから私よりもひどい言葉がギル君に投げられる。


「ギルはいつもビビリ過ぎ…キング・オブ・ヘタレだから…」


「マリエルさん…それはあまりにも言い過ぎなんじゃないでしょうかね…?」


 苦言を呈するようにギル君が言い返すも


「いつもたった2割しか減ってないHPで「回復!回復を!」とか言ってるし…そんなのポーションで充分だし…」


「いや…でも…」


「ぶっちゃけMPの無駄になるからウザイ…」


「…………」


 その後もギル君に対するマリちゃんのギル君ディスは続き、ギル君は返す言葉も無いのか、すでに涙目だ。しかしマリちゃんはそんなギル君にキッチリとどめを刺すのを忘れない。


「まったく…少しはユウカのお兄さんを見習って欲しいものですね…そうですね…いっそギルは転職して村人Aになればいいと思う…」


 もうやめたげてよぉ!ギル君のHPはもうゼロだよ!

 言われたギル君はというと、ついに瞳のダムが決壊し「あんまりだぁ!」と叫びながら来た道を逆走。パーティメンバーからも抜けてログアウトしたっぽい…


「さてと…どうしましょうか?」


「マリちゃん、あれは流石に言い過ぎだよぉ…」


「まさか文字通り、泣いて逃げ出すとは思わなかったので…明日学校で会ったらお仕置きですね…ふふふ…」


 マリちゃんの様子を察するに、冗談半分、本気半分といった感じで言ったつもりだったようだが、言われていたギル君は内心溜まったものじゃなかっただろう…


「私は今後のギル君が心配になってきたよ…ん?あれ?」


 何か今、視界にノイズが混ざったような…?


「ユウカ?どうかしましたか?」


「う~ん…通信障害かな?なんか視界がちらついてて…」


「珍しいですね…一度街に戻りましょうか」


 そう。現代の技術を持ってすれば通信障害なんてほとんど起こることは無いのだ。にも拘らず、今の私の状態は視界がちらついている。流石にこのまま戦闘するのは難しく感じ、マリちゃんの提案に賛成する。


「そうだね…そうしよ………!?」


 言葉を言い切る直前に一瞬、視界全体が砂嵐に巻き込まれたようになり、堪らず目をぎゅっと閉じる。目を閉じたため、視界は真っ暗になるが、替わりにひどい雑音が耳を突いてきた。


 しばらくすると雑音も落ち着いてきた。

 状態も落ち着いたようだったので、閉じていた目を開くと、そこはさっきまでいた街道とは違う場所で、辺りは木々に囲まれた森の中のようだった。


「え?ここ…どこ?マリちゃん?」


 一緒にいたマリちゃんを探してみるけど、周りには誰も居らず、私だけがこの変な森に居るようだった。

 私はフレンド通信を繋げるためにフレンドリストを開くが、登録している友達は全てログアウトしている状態を示す灰色の文字で記されていた。念のためにマップを開いてみても、そこに書かれた文字は「NO DATA」


「変だよ…おかしすぎる…どうなってるの?」


 あまりの異変に怖くなってきた…でも、ここでこうしているくらいなら、移動しての人気(ひとけ)のある所を探したほうが良いと思い、森の中を歩き回る。


 不安になりながら歩き回ること十数分。

 遠くに人影のようなものを見つけた私は、その影を追いかけながら呼びかけた。


「お~い!ちょっと待ってぇ!」


 すると、呼びかけが聞こえたのか、立ち止まる人影。

 近づくにつれて、私は自分の認識が間違っていたことに気づいた。

 私が人影だと思って話しかけていたのは、二足歩行で歩く獣だった。振り向いた獣は、私を獲物として認識したのか、涎を垂らして近づいてくる。


「う……あ……」


 目の前の狼男のような獣に睨まれ、恐怖で足が竦んでしまう。


『グルゥアゥ!!』


「ひっ!?きゃあっ!!」


 狼男が奇声をあげながら襲い掛かってきた。振り下ろされる左手の爪が私の右腕を掠ると、FLOでは感じられなかった「痛み」が走り、その部分を見ると掠り傷ではあったが、じわりと出血していた。

 あまりの事態のおかしさに、逆に冷静さを取り戻した私は、全速力で逃走を謀る。こいつは今の私がどうこう出来る相手じゃないと瞬時に判断した私はガムシャラに逃げていく。


 そして話は冒頭に戻る。

 先ほどの遠吠えで仲間を呼び寄せたのか、私を追う影が明らかに増えていた。


「ヤバイ…ヤバイ…ヤバイ!!」


 焦り過ぎたせいか何かに躓き激しく転んでしまった。


「痛っ!…うぅ…」


 何とか身体を起こそうと試みるも、すぐ後ろから木の枝を踏みつけたような乾いた音が鳴り響く。振り返るとそこには、私を追いかけていた狼男が唸り声をあげながら立っていた。

 必死に距離を取ろうと後退るが、樹の幹に進路を阻まれこれ以上は逃げられない。狼男のニヤリと歪んだ口角が目に映ったとき、ついに恐怖が限界を超え、視界は涙で歪み、さらには失禁してしまった。


「う…ひっく…やだぁ…死にたく…ないよぉ…」


 FLOの中なのであれば、たとえHPが0になった所で、次に目覚めるのは指定した復活ポイントだが、私が居るこの場所はあまりにもおかしすぎる。

 現実で怪我をしたときの痛みと、今現在負った怪我の痛みはまったく同じで本当に痛い。

 流れ出ている血液も温かくぬるっとしている。

 だからこそ私はこれは現実なんだと直感した。

 ここでの死は、実際の死と同じなんだと…


「グルルル…グルァ!!」


「きゃああああああ!!」


 狼男が襲い掛かり私が悲鳴を上げたそのときだった。

 突然、私の横を白い影が突風とともに駆け抜け、その勢いのまま、目の前に居た狼男を吹き飛ばした。土煙を巻き上げていたために、白い影の正体が確認出来ずにいると、さらに後方から声をかけられた。


「おい君、無事か!?」


「うはぁ…ネルたんすごぉい」


 目の前に現れたのは、大人な雰囲気を醸し出す女性と、感嘆としている可愛らしい美幼女だった。そして、土煙が消えて晴れてくると、こちらに向かってきたのは…

 私が目標にしている存在。

 FLOの中では会ったことは無かったけど、見間違えることは無いと言い切れる人。

 最強のソロプレイヤー。

 私の実の兄が操るプレイヤーアバター…



「良かった…間に合ったみたいだね…大丈夫?」



 そんなことを軽く言いながら…

 ミネルバがこちらに向けて手を差し出していた。



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