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R.P.G~Ragnarok.Proxy.Genesis~  作者: 銀狐@にゃ〜さん
第1章4節 北欧の女神
25/39

邂逅

お待たせしました

4節スタートです



 どうしてこうなった…


 冒険者ギルドで門前払いのような扱いを受けた後、ボクはセントマルクスの中央広場を途方に暮れてトボトボ歩いていた。


(まさか偽物扱いされた上に捨てられるとは思わなかった…)

 

 先程の冒険者ギルド受付嬢レイアとのやり取りを思い出し、やるせない感情が沸々と込み上げてくる。

 そりゃボクはこっちの世界に来てから間もないわけだから知らないことが多いのは当たり前だ。

 世間知らずと言われても仕方ないとも思う。


(でも、調べもせずに捨てたりするのもどうかと思うんだけど…こっちの世界じゃあぁいった対応が当たり前なんだろうか?)


 常識で考えるなら、レイアの対応は当然不当な扱いである。

 でも、こちらの世界の常識やルールを知らないボクは何も言い返せなかった。

 というより、あまりにもあんまりな対応だったから面食らってしまったというのが正直なところだった。


(にしても…これからどうしようかな…)


 完全に目標を失ってしまったボクは、フラフラとおぼつかない足取りで広場をさまようのだった。


 どれくらいそんな状態でうろついていただろうか。

 ふと気がつくと空は暗くなってきており、辺りでは王都に戻ってきた冒険者や、それを呼び込む酒場からの客引きの声等で賑わっていた。

 そんな中、ボクは開いていたベンチに腰掛けて呆けていた。


『―――ちゃん?お~……』


 ボクは全く周囲に気を掛けられずにいた。

 というか、そんな余裕が無かった。


『―――ちゃん………ってば…!!」


 あぁそうだ…今日泊まる場所を探さないと…どこか空いてる所あるといいなぁ…


『無視すんなぁ!!』


「え…?な、何…って…うわぁっ!?」


 突然の怒声に驚くボク。

 すると、間髪入れずにボクの首に横合いから凄まじい衝撃が襲ってくる。


「―――っ痛ぁ……いったい何が…へ?」


 いきなりのことになす術も無くベンチから吹き飛ばされたボクは、何が起きたのかを確認するために辺りを見る。

 するとボクの身体に影が差した。


「この私を無視するとは…いい度胸してるじゃないの…ねぇ、ミーちゃん?」


 上半身を起こし見上げてみると、そこに立っていたのは、丈の合っていない白衣をダボつかせて着ているのが特徴的な女の子(?)、マルタさんが仁王立ちでボクを見下ろしていた。


「それで?何であんなところで今にも死にそうな顔してたの?」


「死にそうなって…そんなにひどかったですか…?」


「うん」


 即答で頷くマルタさん。

 夕飯の買出しで外に出ていたマルタさんが買い物を終えて図書館に戻る道中、ベンチに座っていたボクを見つけ声を掛けるが、考え事に集中しすぎていたボクはマルタさんに全く気付く事が出来なかった。

 あまりにもボクが反応しなかったため、仕方なく首筋にフライングクロスチョップをかましたというのがマルタさんの説明だった。

 仕方なくであんな衝撃を被る方としてはたまったものではないんだけど…

 ともあれ、ボクとマルタさんは佇まいを直しその場で会話を続ける。


「そういえば、冒険者登録はちゃんと終わったの?」


「うっ…それは…」


 早速痛いところを突かれたボクは言葉を濁らせていると、マルタさんはボクの顔を覗き込んでくる。


「んぅ?もしかして間に合わなかったとか?ほらほら。お姉さんに話してごらん?」


 お姉さん発言はこの際スルーするとして、ボクの様子がおかしいことを察してマルタさんが話を促してくる。


「じ、実は…」


 グイグイ迫ってくるマルタさんに気圧され根負けしたボクはとうとう冒険者ギルドであったことの一部始終を話す。

 ボクの話を聞き終えたマルタさんは、余り過ぎた白衣の裾をヒラヒラさせながら腕組みをして黙考している。


「ふ~む……よし……」


 マルタさんの考えがまとまったのか、閉じていた瞳を開き何かを決意する。


「ギルドに殴り込みに行くよ!」


「………はい?」


「ホラ何してんの?早く行くわよ!」


「ちょ、ちょっと!ちょっと待って!?」


 とんでもないことを言い出したマルタさんの腕を取り慌てて止めるボク。

 なんて?

 今何て言ったのこの人?

 殴り込みって言ったのか!?

 見た目と違って行動がアグレッシブすぎるんじゃないの!?

 STRに極振りしているボクの膂力ですらマルタさんの進行を引き止めるのがやっとの状態だ。


「もぉ~!!悔しくないの!?」


 ボクが必死に引き止める様子を見てマルタさんは振り返り聞いてくる。


「いいかいミーちゃん?ギルドの受付っていうのは、すべての利用者に対して平等に当たるのが鉄則なの。それがミーちゃんの話だと、明らかに規則を逸脱してるじゃない!!」


 殴りこみはやりすぎだとしても、抗議するくらいは当然というのがマルタさんの意見だ。

 正直なことを言えばボクだって悔しい。

 見た目で判断されたというのは紛れも無い事実だし、同時にそれはボクのコンプレックスでもある。


「それでも…それでもボクは事を荒立てたくはないんです…それに…」


「それに?」


「この見た目が問題なら…その問題をねじ伏せるくらいに強くなってやります!」


「……」


 ボクの言葉に何を思ったのかは分からないが、マルタさんは口をポカンと開けて唖然とする。


「強くなるための糸口は分かっています。マルタさんが用意してくれると言っていた魔力の扱い方の本です」


「っ…それは…」


 図書館を去る時に、マルタさんが言っていたことを思い出したボクはそのことを引き合いに出してまくし立てる。


「魔力を上手く使えるのと使えないのじゃ全然違うとボクは思っています。そして残念なことにボクは理屈も何も分からないまま魔法を使ってます…でも魔力の扱い方、操作技術を習得出来ればボクはもっと強くなれる…いや…強くならなくちゃいけないんです!!」


 今以上に強くなる。

 それが今のボクに出来る数少ないやれることだ。

 そして、このセブンスガルドに来てからの決めていたことでもある。

 今以上に強くなれることが分かったのは、妹の優夏をリカントロード達から救出する際、取り巻きのリカントを倒した時に表示されたリザルトが理由だ。

 FLOでのレベルキャップで頭打ちになっていたボクの経験値が、この時に限界を超えた。

 次のレベルまでにどれ程の経験値が必要になるのかは分からないが、今以上に強くなれるのはボクにとっては嬉しい誤算だった。

 そして強くなれる方法はレベリングだけではない。

 その方法の一つがこの魔力操作技術の習得だ。

 言い換えるなら、ゲームで言うところのプレイヤースキルといったところだろうか。

 グランとフィリスさんとの出会い、やり取りでボクは魔力を操作出来るという事を知った。

 でも、今の今まで、ボクはFLOのシステムアシストに頼りっぱなしであったためにその方法が分からない…

 ならば、郷に入ってはなんとやら。

 つまり魔力操作のやり方を勉強すればいい。

 そういったことが書かれている本だってきっと出回っているだろうと思ったからこそ、ボクはヘンリーさんに図書館の場所を聞いたのだ。


「ふっ…ぷっくくっ…」


「…え?」


「あっはっはっはっはっ!」


「???」


 ボクの真面目な思いとは裏腹に、話を黙って聞いていたマルタさんは何故か笑い出す。

 ボクなんか変なこと言ったっけ?

 突然爆笑しだしたマルタさんを見て困惑するしか出来ないボク。

 一頻り笑って落ち着いてきたマルタさんの言葉を待つ。


「はぁ…ひぃ…いやはやまったく…冒険者になってもいない、ましてや女の子がそんなことを口にするなんてねぇ」


「い、いまいちよく分からないんですが…」


「あぁ、ゴメンゴメン。ミーちゃんの方がよっぽど冒険者らしく思えてついね」


「???」


「えっと…冒険者って言うのは完全実力主義でね?力の無い者、実力の無い者は何も出来ないといっても過言じゃない厳しい世界なのよ。だからこそ、力を求めるミーちゃんのその姿勢が冒険者そのものだったものだから面白くてね…ふふっ」


「は、はぁ…」


 愉快そうに語るマルタさんに気の抜けた生返事を返すボク。

 やがて一息ついてから、マルタさんは真剣な様子でボクに向き直ると質問を投げかけてきた。


「さて、それでミーちゃんは力を得たとして、その力をどうするつもりなのかな?」


 マルタさんのこの質問の意図は分からなかった。

 だがマルタさんは魔力操作とではなく『力』と表現した。

 つまり個ではなく全としての質問。

 漠然としたものではあったが、ボクはマルタさんの質問にこう答えた。


「守るために使います」


「ふむ…それは何を?何からなのかな?」


「そう聞かれると困っちゃいますけど…ボクの手の届く範囲であれば、物や人、対象は問わず守りたいです…」


「へぇ?中々に傲慢で欲張りな返答だね」


「そうですね…だからこその手の届く範囲でって話なんですけど…遠く離れた場所のことにはどうやっても対処出来ないですから…上手く説明出来なくてごめんなさい…」


 ボクの言っていることは正直キレイ事でしかない。

 でも今後、ボクの身の回りやボク自身にもいろいろな障害や壁が立ちはだかるだろう。

 それに対してボクが出来る事はわずかしかないかもしれないけど、そんなことはどの世界でも生きている限り、大なり小なり誰にでも起こりうる困難だ。

 どんなことでも、ボクはそれらから逃げずに立ち向かうと決め、そのリハビリのためにFLOを始めたのだ。

 例え異世界に来たとしても、今更その理念を覆すつもりはない。

 そう決めているんだ。

 ボクを見定めるようにしていたマルタさんが、何か納得したように頷き微笑む。


「うん…気に入った。傲慢な答えではあったけど、自分の出来る事は理解してるみたいだね」


「さすがに全部守り切るなんて無理ですよ」


「ふふっ、そりゃそうよ」


 うんうんと頷くマルタさん。

 するとマルタさんはボクの手を取って振り返り歩き出す。


「んじゃ行こっか」


「行くって…どこにですか?」


「イ・イ・ト・コ・ロ~♪」


 妙に機嫌良く歩くマルタさんにボクは何も言えず困惑する。

 冒険者ギルドとは違う方向に向かっているようだが、地理に詳しくないボクはマルタさんに手を引かれるままついていくしか出来ないのだった。


 歩き始めて十数分後。

 手を引かれ辿り着いたのは、ボクが訪れたことのある数少ない場所。

 王立中央図書館だった。

 しかしマルタさんは図書館に入っても歩みを止めることなく進み、階段を昇り切りそこにあった扉を開く。

 着いた場所は屋上だった。


「ここは…図書館の屋上ですか?」


「そうだよ。普段は立入禁止にしてる場所だけどね」


「立入禁止って…いいんですか?」


「いいのいいの。私が許す」


 なんでもないかのように言ってのけるマルタさん。

 ボクがハラハラしているうちに、その様子に気付いたマルタさんが笑いながら驚くことを口にした。


「平気だよ。館長の私が許可してるんだから気にすることなんて何もないよ」


 ………………


 今この人、サラッとすごいことを言わなかったか?


「あれ?言ってなかったっけ?」


「聞いてませんよ!?」


「あははは。ミーちゃん面白い顔になってるよ」


 思わずツッコんだボクを見て笑うマルタさんだったが、屋上の中央辺りまで進むと立ち止まり、その前方に手を向けながら顔をこちらへ向ける。


「まぁ、長年生きてるとこういうことにもなるのよ。じゃあ改めて自己紹介。私の表向きの名前はマルタ・コーネリア。今言った通り、この王立中央図書館の館長兼司書をしているよ。ついでに言ってしまうと、裏のお仕事は冒険者。そっちの名前はグルヴェイグと名乗ってるね。まぁ、今はあんまりそっちの活動はしてないけどね」


 これまたサラッと自己紹介してくれたマルタさんだったが、ナチュラルに冒険者としての部分も明かしてくる。

 裏の仕事って…それ、バラしちゃってもいいんですか?

 ん?あれ?

 グルヴェイグって名前、なんか聞いたことがあるような気が…

 思考が追いつかなくなってきたボクが悶々としているうちに、マルタさんは作業を終えたようでボクを呼ぶ。


「考え込んでるところ悪いんだけど、ミーちゃんここに入ってもらえる?」


「え…?」


 呼ばれてマルタさんの方に向き直ると、マルタさんの前にはそれまでは何も存在していなかったはずの屋上だったというのに、忽然と一つの扉が出現していた。

 マルタさんは扉を開くと、呆気に取られるボクの背に回り込み、その背を押すように扉の中へボクを押しやる。


「ちょ、待っ…っ!?」


 中に入ると突如、ボクの瞳を眩しさが襲う。

 あまりの光量に目を瞑る。

 するとマルタさんとは別人の声がボクに向かって投げ掛けられた。


「いらっしゃいませ。フォールグヴァングの館へようこそ」


「っ!?」


 瞳を閉じていたために、突然声を掛けられて驚いた。

 少しずつ目が慣れてきたボクがゆっくりと目を開けると、そこにいたのは、オーソドックススタイルのメイド服に身を包んだ女性が、スカートの裾を摘んで一礼していた。


「えっと…どちら様―――」


「ただいまヒルデ。変わりは無かったかしら?」


 ボクの声を遮るように後ろから声が上がる。

 しかしその声は、ボクの後ろにいたはずのマルタさんの声でも口調でもなかった。

 思わず振り向いたボクはまたさらに驚くことになる。

 ボクの後ろにいたのは、黄金色に輝くゆるいウェーブのかかった長い髪を携え、瞳は濁ることを知らない透き通った碧眼、その声は聞いただけで背筋が痺れるような、しかし甘美で妖艶な聞く者全てを魅了するかのような美しい声。

 表現するのも憚られそうな美貌を持ったとんでもない美女が清楚な薄手のワンピースを身に纏い立っていた。


「ど、どちら―――」


「お帰りなさいませ――――様。次元の異なるこの館に変わったことなど起こり得ませんよ」


「まぁ、それもそうよね」


 またしてもボクの声は遮られる。

 お願いだから最後まで言わせてほしい…

 それはさておき、ヒルデと呼ばれたメイドさんは、ボクの後ろに立つ美女に向けて返答すると、その答えを聞いて、美女は微笑を浮かべて納得している。

 しかしボクは美女の名前を聞いて言葉を失っていた。


 いやいや待て待て…

 またか…またなのか…


 その名前、その容姿…

 先程の自己紹介の時に何故気付けなかったのか…

 グルヴェイグとは、ある神話の中で、一柱の女神と同一視されている有名な魔女の名前でもある。

 そしてヒルデさんが言ったこの館の名前、その持ち主…

 その女神の名前は…

 しかし、ボクの思考は次の美女の言葉と行動により真っ白になり、一度途切れることになる。


「驚かせてしまってごめんなさいね」


 彼女はボクを後ろから優しく包み込むように抱擁し、ボクの耳元で囁いた。


「マルタ・コーネリアはこの世界で生活するための仮の姿なの。私の本当の姿はこっち。愛と美と豊穣を司り、多くの魔法を操る女神、フレイヤよ。改めてよろしくね?ミネルバ・リッジコースト」

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