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R.P.G~Ragnarok.Proxy.Genesis~  作者: 銀狐@にゃ〜さん
第1章3節 冒険者ギルド
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王立中央図書館③

お待たせいたしました…



「やぁやぁ待たせちゃって申し訳ないね。王立中央図書館へようこそ~…って、ヘンリーじゃん。アンタがこんなとこに来るなんて珍しい。どしたの?」


「こんにちわマルタさん。相変わらずちっちゃ――『あぁん!?』なんでもありません…」


 二人のやり取りを見てポカンとするミネルバ。

 マルタと呼ばれた―見た目は―少女は、見知った感じでヘンリーとタメ口で話している。

 一方ヘンリーは、どう見ても歳下に見える少女を相手に敬語で接しており、気のせいかやや怯えた表情を浮かべている。

 サイズが合っていないのか、着ている白衣がかなりダボついている。

 ショートボブほどの髪の長さで、寝癖なのかは分からないが、外跳ねした毛先がいくつも見られ、尖ったエルフ耳がチラッと顔を覗かせている。

 性格はサバサバした感じで、軽いノリで話す口調は見た目とは裏腹にどこか姉御といった印象を受ける。

 見た目の年齢は12~13歳といったところで、身長はミネルバよりも頭一つ分ほど低く、度の強そうな眼鏡をかけている。


 ミネルバが興味深くマルタを見ていると、そんなことは気にしていないといった様子でヘンリーを睨みつける。


「ヘンリー…アンタはいつも私をそうやって小バカにしてるけどねぇ?私から見たらアンタの方がはるかに歳下なんだからね!?」


「ず、ずびばぜん!!」


 怒りが頂点に達したらしいマルタが、丈の合っていない白衣の裾から両腕をニョキニョキと出すと、ヘンリーの襟首を掴み締め上げた。

 なお、襟首を掴む際に、身長の足りない分を補うためにカウンターの上に乗るというマルタの行動をミネルバは見なかったことにした…


 ヘンリーを締め上げ、やがて落ち着いた(?)マルタは『まったく…』と文句を言い足りない様子ではあったがカウンターから身を下ろす。


「ヘンリーさん、大丈夫?」


「ゲホッゲホッ!!はぁ…死ぬかと思った…」


 心配したミネルバが苦笑しながらヘンリーに声をかける。

 息を整え落ち着いたヘンリーがミネルバに耳打ちする。


(気をつけろよ…あぁ見えてマルタさんの年齢は――)


「ヘンリー…?」


 名前を呼ばれたヘンリーがマルタを横目で見ると、『ひっ!?』と声を上げガクガク震えだす。

 うっすらと微笑んでいるようには見えるが、マルタの目はまったく笑っておらず、むしろ殺意が込められているかのようにヘンリーを見据えていた。


「後で…覚えてなさいよ…」


 この後、ミネルバを案内し終えたヘンリーが、マルタによって大変なことになるのだがそれはまた別の話である。


「それでキミはどちら様かな?」


「え?あ、ボ、ボクはミネルバといいます!!」


 急に尋ねられ驚いたミネルバだったが、どもりながらも名前を告げる。


「ミネルバちゃんかぁ…ん~…じゃあミーちゃんでいいね」


「は、はい?」


「だからキミの呼び方だよ。ミネルバちゃんって呼んでもいいけどそれじゃあ可愛げ無いじゃない?」


「可愛げ…」


 ミネルバは激しい既視感に襲われた。

 つい先日のアテナとのやり取りとマルタのノリが非常に似ていたからだ。

 その時はストッパーとしてアルテミスがいたが、今回頼みの綱であるヘンリーは、すでに戦意喪失、もとい、心を砕かれている。

 見ているこちらが気の毒に思えるほどに表情は暗く、顔も青白くなっている…


 きっと抵抗しても無駄なのだろうと悟ったミネルバは『アハハ…』と乾いた笑みを浮かべるしかなかった。


「それで?ヘンリーがここに用事があるなんて事はありえない話だから、用事があるのはミーちゃんの方なんでしょ?」


「えっと、はい。この図書館に魔力の扱い方や魔術について載っている本があるか知りたくて…あれば読みたいなと思ってまして…」


「ふむ…魔力の扱い方の本ねぇ?あるにはあるけど、その本だと制限の掛かってる物もあるよ?」


「制限ですか…」


「魔力の扱い方の本ならさほど厳しい制限は無いんだけど、魔術の本は別。魔術は言い換えるなら一つの武力と同じだからね。こちらとしても制限を掛けた上で閲覧させても大丈夫かどうかの選定をしなきゃいけないのよ」


 マルタは申し訳なさそうな表情を浮かべるが、理由を聞いたミネルバは納得していた。

 例えば、強力な魔法や魔術の載っている本を読ませ、そこで得た知識を犯罪の用いられたとしたら目も当てられない惨状が生まれるだろう。

 そういった予想しうる事態をあらかじめ回避するための処置と言われれば、それは道理でありむしろ当然の処置と言える。


 マルタの話を聞き、残念そうなミネルバだったがマルタは話を続ける。


「まぁ何にせよ、本を読む前に登録してもらう必要があるからまずはそれからね」


 そう言ってマルタはカウンターの引き出しから登録用紙を取り出しカウンター上に置く。


「ここに必要事項を書いてもらって、登録料として500リラを貰うけど、基本的にはその登録が終われば図書館の本は読めるわよ」


 カウンター上に置かれた登録用紙を読んでいくミネルバだったが、懸念していた項目を見つけると途端に難しい表情になる。


「ん?どしたの?」


 不思議に思ったマルタが問いかけるとミネルバは困った様子で答える。


「あの…ボク書ける所が少なくて…住所とか身分を証明するものも無いんです…」


「あぁそういうことね?となると…ミーちゃんの登録は難しいかもしれないなぁ…できない事は無いけど、かなりお金かかっちゃうし…」


「え?お金で解決するんですか?なら大丈夫です」


「へ?いや、でもそれはまとまったお金を手に出来る冒険者用の措置だし…それに誓約書とか諸経費諸々でとんでもない金額になっちゃうんだよ?それでも大丈夫なの!?」


「平気です」


 ミネルバは呆気に取られているマルタをスルーして用紙に記入し始める。

 記入とは言っても、そもそも記入出来る箇所が少ないためすぐに記入を終えるミネルバ。

 他にも記入する物があるようだったので、ミネルバはそれらも全てサラサラと記入していく。

 ちなみに文字は日本語で書いていたが、ミネルバが記入した後からすぐ、こちらの世界の文字に変換された。

 半ば勢いで書いていたミネルバだったが、気になっていたことが解消されたミネルバの筆は軽やかなものだった。


「じゃあこれでお願いします」


「本当にいいんだね?」


「はい」


 マルタの問いに力強く頷いて用紙を渡す。

 登録用紙に目を通すマルタだが、名前と年齢しか記入されていない用紙を見終えるのに時間は掛からなかった。


「う~ん…ホントに無職なんだねぇ…冒険者ライセンスも無いんだよね?」


「そうですね。でもこの後に登録に行く予定ですよ」


「それなら登録が終わったらライセンス持ってまたおいでよ。これから支払ってもらうのはあくまでも保険みたいなものだから、内容更新でほとんどの金額が返還されるからさ」


「分かりました。それで、おいくらになりますか?」


「金額はこれから出すんだけど、その前にいくつかこっちの質問に答えてもらってから最終的に金額が決まるわ。だからちょっと付き合ってね?」


「よろしくお願いします」


 その後マルタからの質問にミネルバが淡々と答えていく作業が続き、質問の答えをマルタがパソコンのようなものに打ち込んでいく。

 30分程したところで質問も終わり、登録に必要な金額が算出されるのだが…


「うわぁ…やっぱり…」


 マルタが何とも言えない苦々しい面持ちになる。

 算出された金額は、マルタが予想していた金額をはるかに超えた金額だったのだ。


「いくらって出たんですか?」


「……万リラ…」


「はい?すみません、聞き取れなかったのでもう一度お願いします」


「に、200万リラ…過去最高の金額だね…や、やっぱり止めておこうか?15歳の女の子が出せる金額じゃな――」


 ドサッ


 マルタがお手上げといった感じで首を振りながら登録を諦めさせる台詞を言おうとするのを遮るように、カウンターに紙の束を置くような音がした。


「!?!?!?!?!?!?」


 マルタが驚くのも無理のないことだった。

 カウンター上に置かれていたのは、帯で包まれた札束が2つ。

 つまりキッチリ200万リラが目の前に置かれていたからだ。


「ピッタリあるとは思いますが、一応確認してみてください」


 なんてことの無いように言い放ったミネルバだが、ミネルバにとっては現実味の無いお金であり、現在の、もとい、FLOから引き継がれている所持金から見るとわずかな出費でしかなかったのだ。


 なぜ一プレイヤーであったミネルバが個人でこのような大金を持っているのかは、過去、FLOで行われたイベントで手に入った貴重な素材を大量に入手し、持ち切れなかった分をオークションに掛けた所、かなりの大金になったからだ。

 FLOからの引き継いだ金額は、セブンスガルドの小国であれば屋台骨が揺るぎかねない金額とだけ言っておこう。


 ともあれ、こういった経緯があっての大金なのだが、ここはFLOではなくセブンスガルド。


 当然ミネルバのような少女――見た目は――がポンと出せる金額ではないために、マルタも目を白黒させている。


「ちょっ!?なっ!?えぇぇぇぇ!?」


「ど、どうかしましたか?」


「どうかも何も…なんで15歳の女の子がこんな大金…はっ!?ま、まさか…どこかの大貴族のお嬢様でありゃせりゃれ…」


「マルタさん落ち着いてください。言えてませんし、それにボクは貴族でも何でもありませんよ」


 気が動転したマルタはパニックになり、口上も噛み噛みで全く話せていなかった。

 ミネルバはそんな様子を苦笑しながらマルタを落ち着かせるため、誤解を解こうと説明する。


「このお金は、ここに来るまでにコツコツ貯めたお金ですよ。それに、今ここで支払ったとしても、更新手続きでほとんど戻ってくるのであればボクは問題無いですからね」


「それはそうだけど…ミーちゃん。今まで何してこんなに稼いだのかな?コツコツとは言っても、それでもこんな大金を貯めるのは上位ランクの冒険者でも大変なのよ?」


「え~っと…非公式の依頼を受けたり、レアな素材を売ったりとかですね…流れの傭兵みたいなことをしてたので…」


 ミネルバはFLOでしていたことをザックリ伝えたのだが、あながち間違ったことを言っているわけではないミネルバは当時のことを思い出しながらかいつまんで説明していく。

 やがてミネルバの説明も終わりを迎えると、ダボつかせた白衣を着たまま腕組みして内容を吟味していたマルタが口を開く。


「なるほど…つまり集めた素材を売ってみたら、それが価値の高い素材でまとまったお金が手に入ったわけだね?」


「そういうことですね」


「ふむ…一応納得は出来たけど、私から一つだけ忠告しておくよ」


「え…?」


「今回のそれは運良く手に入ったお金だと思って、これからは大事に使いなさいってことね。そんな幸運は簡単に起こるものじゃないんだからさ」


「それもそうですね…はい。肝に銘じておきます」


「ん。よろしい!素直な子はお姉さん大好きだよ」


(お、お姉さん…?)


 マルタのお姉さん発言に思うところはあったが、未だに隣で顔を青くして蹲っているヘンリーを見て考えるのをやめる。

 当のマルタはそんなことには全く気付いておらず、一人ウンウン頷いている。


「じゃあこれが受領書と会員証ね。会員証は無くしちゃったりした場合、再発行で手数料が掛かっちゃうから気をつけてね?」


「おぉ…いつの間に…ありがとうございます」


 一体いつの間に事務処理を終えていたのか分からなかったが、マルタがカウンター上に金額が書かれた受領証とミネルバのフルネームが刻印された会員証を出してきた。


「これで登録は完了だよ。形式的なものなんだけど、簡単な説明だけさせてもらうね」


 そう言ってマルタは会員証についての説明と図書館の利用出来る設備やその方法を教える。

 およそ10分程でその案内も終わる。


「…っとまぁこんな所かな?何か質問はある?」


「ん~…いえ、特には無いですね」


「まぁ何か分からないことがあったらいつでも聞いてよ。私は大概ここにいるからさ」


「分かりました。色々とありがとうございました」


「こっちは仕事なんだから気にしないでいいよ。それよりも、そろそろいい時間だし、冒険者ギルドの受付が終わる前に登録してきなさいな」


 マルタの言葉に首を傾げるミネルバだったが、説明されるとそのことに納得する。

 マルタの説明はこういったものだった。

 冒険者ギルドは24時間開いてはいるが、精算所とは違い、登録受付の窓口は夕方5時で頃には閉まってしまい、翌日の朝まで登録は出来なくなる。ましてや更新等とは違い、新規での登録は時間が掛かるとのことだった。


「まぁ、そういうわけだから急いだ方がいいね。ここからギルドまでは結構距離もあるし、急いでも20分は掛かるから」


 マルタが壁に取り付けてある時計を指差しながら説明してくれる。

 確かに時計を見てみると、夕方の4時であることを示している。


「マルタさん、本当に色々とありがとうございました」


「どういたしまして。終わったらまた来るでしょ?」


「はい。目当ての本もまだ読んでませんからね」


「じゃあ、私が見繕って用意してあげよう。魔力の扱い方の本だったね?」


「わぁ…ありがとうございます!!お願いします!!」


 ミネルバが満面の笑顔でお礼を言うと、マルタの頬がほんのり紅く染まる。


「…やばいねこれは…きゅんきゅんしちゃったよ…」


「?」


 マルタが何やら呟くが、小声で呟いていたためにミネルバには聞き取れなかった。

 無自覚に引き起こされるミネルバスマイルにマルタも屈した瞬間だった。


「な、なんでもないわ…そ、それより、コラヘンリー!!いつまで呆けてるんだい!?案内役なんだったら早くミーちゃんをギルドまで連れて行きなさい!!」


 マルタの照れ隠しの矛先が、それまで鬱々としていたヘンリーに向けられる。


「―――…うぇっ!?は、はいぃ!!」


 二人の上下関係とやり取りを見て、ヘンリーを不憫に思うミネルバだったが、言われたヘンリーはマルタからの『お仕置き』の恐怖が勝ったのか、ミネルバの手を取ると、図書館から逃げ出すように出入り口に向かって走り出す


「ちょ、ちょっとヘンリーさん!?」


「うおぉぉぉぉぉぉ!!」


「コラァ!!館内は走るんじゃなぁい!!」


 マルタからの怒声も聞こえない様子のヘンリーは必死であった。

 どれだけ『お仕置き』が怖いのか気になったミネルバだったが、あまりのヘンリーの必死さに聞くのが躊躇われたため、ヘンリーに手を引かれるまま図書館を後にした。

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