追走、そして…
時間の都合上、今回は短いです
ボクがアテナを追いかけ始めてから結構経つのだが、一向にアテナの勢いが治まる気配が無い。
体が小さいためか、はたまた勢いがつき過ぎていたためかは分からないが、とにかくアテナが止まらない。
追いかけながら前方を見やると、2つの人影が見えた。
それと同時に数百メートル前方を飛んでいたアテナが高度を下げ始めたと思ったら、急に失速し始めた。
何事かと思い前方に意識を向けると、詳しくは分からないが、一人が何かをしたようだった。
走る速度を緩めながら注意深く様子を見ると、ゆっくりとアテナが高度を下げていき、やがて何かをした人物に抱き止められるのが見受けられた。
(良かった…でもあの二人は…―――っ!?)
アテナの無事を確認出来たのも束の間、もう一人の人物が大剣を抜き、いきなりそれを振り抜いた。
その瞬間、大気を歪ませながら不可視の何かがボクに向けて放たれた。
(っ!?あれ喰らったらヤバイ!!)
『――――!!』
前方の人物、声から男性と分かったが、焦りながら何か言ったようだが、まだ距離があるために聞き取れなかった。
それにボクとしてはそれどころではない。
目の前に迫り来る不可視なものの正体が、観察により大気の壁だと看破すると、ボクはすぐに体勢を整え武器を呼び出す。
「EQUIP、『ヘビーレイジ』!!」
ボクが取り出したのは見るからに重いであろう鈍色の無骨な大剣だ。
この大剣は『重硬鋼石』と呼ばれる鉱石で作られた大剣なのだが、素材である『重硬鋼石』が非常に重いため大剣自体が恐ろしく重い。
拳大程の大きさしかない『重硬鋼石』ひとつの重さがおよそ100キロ。
この大剣を作るのに使われた数は15個。
精製の際に幾分か軽くなるとはいえ、実質の重さは単純計算でも1トンを楽に越える。
そんな超重量武器を上限にまで引き上げたステータスで無理矢理振り抜く。
「おおぉぉぉぉぉぉ!!」
振り抜いた大剣が持ち前の重量も合わさって轟音をあげる。
つまりボクが行ったのは前方にいる男性と同じこと。
ボクの作り出した大気の壁が、同じように大気を歪めながら進んでいく。
互いの大気の壁がボクと彼等の中間辺りでぶつかり合うと、凝縮された風が轟音と共に爆ぜる。
その結果、ぶつかり合った地点を中心に局所的な竜巻が引き起こされ、荒れ狂った暴風がボク達を襲った。
彼等は彼等で飛ばされないよう各々の方法で対策したようだが、ボクは大剣を背中に帯剣しただけで特に何もしなかった。
いや、強いて言えば大剣を帯剣したと言えばいいか。
というのも、この帯剣するという行動自体に意味がある。
先にも述べたが、この『ヘビーレイジ』は非常に重い武器である。
一撃の威力とその重い攻撃力は、確かに強力ではあるがその反面、使用者に対しマイナス補正のかかる特殊効果がある。
『Lv5重力倍加』
その効果は、帯剣している間、使用者に対して5倍の重力を与えるというものだ。
要するに、現在のボクには、大剣自体の重さ+自身の体重を合わせた重さの5倍の重力負荷がかかっていることになる。
その重さは実に5トン以上。
竜巻とはいっても、5トン以上の重さを浮かせられるだけの規模のものではないようで、ボクの体はビクともしない。
というか、ボク自身重すぎて身動きが取れないんだけど…
(やっぱりこの大剣は実践には向いてないなぁ…)
などと暢気なことを考えていると風も収まってきた。
このままでは歩くことも出来ないため、抜剣すると『Lv5重力倍加』の効果が解除され、マイナス補正が『鈍重』に引き下がる。
ようやく歩けるようになったボクは、大剣を持ったまま前方の2人に向けて近づいていった。