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R.P.G~Ragnarok.Proxy.Genesis~  作者: 銀狐@にゃ〜さん
第1章2節 アクロ大平原
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冒険者



 ほぼ時を同じくして、ミネルバ達から少し離れた所に一組の男女が歩いていた。


「やれやれ…せっかく面倒なクエストが終わってのんびり出来ると思ったらまた依頼とはついてないぜ」


「仕方ありませんわよ。内容が内容なだけに、半端な強さを持った冒険者では返り討ちになるのが目に見えていますもの」


「んで?どんな依頼だったんだフィリス?」


「グラン…まだ確認していなかったんですの?」


「フィリスが承認したって時点でこなせる仕事だと思ってるからなぁ」


「まったく…信用してもらえているのは嬉しいですが、もう少し自分でも確認していただければ私も少しは楽なんですけどね」


 緊張感などまるで感じさせない会話をする二人。


 男の方の名をグラン・アルフリード

 女の方の名がフィリス・アイオーンという。


 グランの出で立ちはパッと見で分かるほどの前衛職の格好をしており、筋骨隆々、そしてそれに見合う大きな体格であり、彼を知らぬ者が見れば軽く萎縮してしまうほどの迫力を持っている。

 一方フィリスはというと、黒いローブをドレスのように改造した衣服に身を包んでおり、大きな黒い三角帽子に、機械のような形をした長杖を持つ、いかにも魔術師然とした後衛職の姿をしていた。


「まぁ、そんなに気を悪くするなって。せっかくの綺麗な顔が台無しだぜ?」


「…っ!?も、もう!!あなたはいつもそうやってはぐらかすんですもの…その手には乗りませんわよ!?」


「お?照れてる照れてる。はっはっは」


「て、照れてません!!」


 フィリスが不機嫌そうに腕を組むと、豊満な胸をこれでもかと押し上げる。

 そっぽを向くように顔を背けると、腰まで伸びる長い藍色の髪がサラサラと風に流れる。

 この仕草だけを取っても、世の男連中が鼻の下を伸ばすほどの妖艶さを持つフィリスではあるが、グランは気にする様子もなく笑っている。


「それで話を戻すが、今回の依頼は何なんだ?」


「はぁ…今回の依頼は指名依頼ですわ。最近この近辺を荒らしまわっているというリカントロードの討伐、および調査依頼ですわね」


「リカントロードねぇ?それなら別に俺達じゃなくても良さそうなもんだがなぁ」


「話を聞く限りですと、そのリカントロードは人語を話す『知能持ち』のようですわね」


「なるほどね。確かにそりゃその辺の冒険者にゃあ手の余る話だな」


 納得した様子で顎を撫でつけているグラン。


「すでにいくつかのの村や集落も被害を受けているとのことなのでギルドも早急に処理したいのでしょう。こういったことを対処するのも私達の大事な仕事ですわ」


「あぁ、分かってるよ……ん?」


 フィリスの言葉をあしらいながらも、周囲を警戒していたグランが妙な気配を察知する。


(なんだ?この気配…)


 グランがフィリスに視線を送ると、それを察したフィリスが何も言わずとも行動を起こす。

 フィリスは手を前に突き出し、魔力を(てのひら)に集中させると、それを前方に向け上空も含めた探知魔法を扇状に展開する。


「魔物…ではないですわね。でもこの速度は…」


「何か引っ掛かったか?」


「異常な速度でこちらに向かってくる反応が二つ。一つは上空、もう一つは地上…もうすぐ見えてくるはずですが…」


 そう伝えると、フィリスは上空、グランは地上を見据える。

 そしてそのすぐ後に前方から飛来してくる何かを肉眼で確認することが出来た。


「なぁフィリス。人ってあんな感じで空を飛べるのか?」


「冗談を言ってる場合じゃありませんわ!!グラン、あなたは地上の方を、私はあの人を受け止めます!!」


「了解した!!」


 彼らが焦るのも無理は無い。

 飛んで来る人物は凄まじい速度で飛んではいるが、確実に高度を下げてきており、着地予想地点は自分達のいる場所よりもはるか後方。

 戻るにしてもこの速度では追いつけない。


「――『(ウインド)牢獄(ジェイル)』」


 杖を振りかざし詠唱すると、風の層が幾重にも重なり飛来する人物を包み込む。

 風に包まれた人物は風の層により勢いを殺され、フィリスの元へゆっくり接近し抱き止められる。

 そして抱き止めた人物を見てさらに驚くことになる。


「お、女の子……?」


「あはは~、助けてくれてありがとう~」


 フィリスが救出したのは見た目は可愛らしい美幼女だった。


 一方、地上を走る人物への対応を任されたグラン。

 飛んでいた幼女を追って来ていたのか、フィリスに保護されたのを確認すると、徐々にではあるが勢いが緩やかになってきていた。

 だが、ここに来るまでの勢いがつき過ぎていたせいか、勢いを殺しきれていなかった。

 グランはフィリスがやっていた方法を見て思い付く。


「『エアーズインパクト』」


 背中に担いでいた身の丈ほどもある大剣を片手で軽々と抜くと、それを目にも止まらぬ速度で振り抜いた。

 グランのプランはこうだ。

 

 ダメージを与えない程度に大剣で作り出した大気の風を打ち出す。

 前を走ってくる人物にそれが当たる。

 勢いがキッチリ殺されて止まることが出来る。

 

 そんなことを単純に考えていたグランだが、現実はそこまで簡単にはいかなかった。

 『エアーズインパクト』という技は本来、広範囲の敵を蹴散らす技だ。

 基本的に加減など考えることも無い技であるために、細かな調整の効くような繊細な技ではない。

 そのため、加減をしたつもりのグランではあったが、そういった繊細な動作を出来るわけも無く…


「あ……やっべ……」


「ちょっとグラン!!あなたの力でそんな技をぶつけたらひとたまりも――」


 後に後述することになるが、この二人は実力のある冒険者である。

 特にグランは前衛での剣士であるために、攻撃力がズバ抜けて高い。

 いくらグランが加減したとはいっても、並の冒険者たちが束になってかかったところで問題無く吹き飛ばせるだけの一撃を放ってしまったのだ。

 救助するつもりが対象者を傷つけてしまっては本末転倒である。


 グランは焦っていた。


「よ、避けろぉぉぉ!!」


 とは叫ぶも、自分が繰り出した技は視認出来ない大気の壁をぶつける技だ。

 仮にそれが来ると分かっていたとしても簡単にかわせるようなものでもない。


「風の精霊よ――」


『おおぉぉぉぉぉぉ!!』


 いち早くフォローに入るために詠唱を始めようとするフィリスだったが、迫り来る人物が吼えながら、いつの間にか持っていた剣を振り下ろしたため、それに驚き詠唱が中断される。

 数瞬の後、地震のような衝撃音が轟き、グランと走り来る人物の中間辺りから殴りつけるかのような暴風が吹き荒れる。

 あの人物はグランと同じことをやってのけたのだ


「うおぉっ!?」


「くぅっ!!」


「わひゃああぁぁぁ!?」


 グランが地面に大剣を突きたて、飛ばされないように耐え、フィリスは身の回りに魔法障壁を展開し幼女をしっかり抱き止める。

 最後の悲鳴は救助された幼女の悲鳴だ。

 やがて風も収まってくると、二人の冒険者は揃って前を見据え同時に驚愕する。

 大気の壁がぶつかり合った地点を中心に、渦を巻いたような状態で足元に生えている草は横倒しになっており、どれほどの規模で暴風が吹き荒れたのか、ただ見渡すだけでは把握出来ない程だった。


 そんな中


「おいおい…冗談だろ…」


「あ、あんな暴風の中…ありえません……ありえませんわ!!」


 自分達でさえも吹き飛ばされそうだった暴風の中、前方の人物は何事も無かったかのように平然とこちらに向けて歩いて来ていた。

 遠目で見ていたグラン達からはシルエットくらいしか視認出来なかったのだが、徐々に近づいて来るにつれてその姿がはっきりとする。


「夢…じゃないよな…」


 グランが狼狽するのも無理は無い。

 隣にいるフィリスですら驚愕のあまりに唖然としている始末。

 

 鈍色(にびいろ)に輝く大剣を携え背中まで伸びる紫銀の髪をなびかせながらこちらに向かってくる人物。

 一言で言うならその人物は可憐な少女。

 そんな少女が、実力も名声も最高ランクであるグランの攻撃――加減はしていたが――をいなして尚、無傷で歩いていたのだから…

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