第六節 ヒロイン②
1,2,3限目の授業。
自分はバカで無力な駄目生徒なのか。
今日の一限目の授業は「魔法史」、魔法の歴史だろう。
入ってきた男性先生はとても細く、棒のような人だ。
広い女性と並ばせてみたいものだな。
この細い男性は左手でメガネを正し、気弱そうに感じる声を出して、授業を始めた。
「えぇっと、昨日から今までの授業の復習を始めたのだが、今日はまず魔法の定義から始めようと思うのだが。」
周りの生徒は寝ているか、お喋りするかって、この先生の授業をまったく聞いていない。転入生の金髪妹も本を読んでいるが、細い男性の話を聞いていないっぽい。
こんな状況を見て、細い男性は「何も異議がないようなので、続くよ。」と言って、授業を続けた。
なんだか可哀想だが、「どうでもいい」と思った。
「魔法は火・水・木・風・土の五つの属性に分類されていて、属性融合する事で魔法を行う事ができる。例えば火を灯す時、火と木の両属性を融合し、何もないところで火を出す事が可能となる。氷を作る時、水と土の両属性を融合する事で、手に氷を出す事が可能となる。」
ふーん...
面白いな。
「しかし、属性融合する事で、必ず望まれた魔法を出せると決まった訳ではありません。そのことについての説明によく挙げられている昔話は『雨乞い競争』である。」
雨乞い競争?なんだろう、それ。
この「雨乞い競争」というものを知る為に、私は手元の「魔法史」の教科書を隈無く探したのだが、どこにも無かった。
困った。
「その『雨乞い競争』の話は、昔雨が降らないある村の二人の魔法使いが、誰が雨を降らせることかという競争。一人は水と風の両属性を融合したが、雨は降らず、もう一人は水と土を融合して、雨を降らせたのだ。」
細い男性の口から「雨乞い競争」を教われて、少し感謝の意を込めて彼を見ていたら、彼は私に微笑んで小さく一回頷いた。
そっか、私に教える為にわざと言ったのか。やはり見た目通りの優しい先生のようだ。
「このことから、魔法はただの便利な力から、各国の主の研究テーマとなった。今でもなかなか信じられないことだが、最も少ない魔力で火を消す魔法の属性融合は必ず火の属性が入っている。一時期これを『火』関係の魔法だからと考えられているが、風を止む静止魔法『凪』に風属性が無いと、今使っていない『地揺れ』という魔法も土属性が無いなどのことがあるので、この仮説も否定されました。」
ふーん、そうなんだ。
ふあぁぁ、眠い。
頑張ってみたけど、やっぱりつまらないなぁ。隣の「メイド」は立って寝ているし...
「各国の魔術師は様々な仮説を立ってていて、今最も有力なのは『融合変化』といい、属性融合の際、各属性魔力の比重変化によって使用された魔法に影響を与えている説である。」
駄目だ、もう無理...
先生の訳のわからない話が催眠力を持ち、私はついにそれに抗えず、机に俯いて、瞼を閉じた。
優しい先生だけど、すみません。私はここまでのようだ...
「お嬢様、起きてください。お嬢様!」
タマの呼び声に私は目を覚ました。朦朧と周りを見回すと、自分の席に残っている生徒が少ない現状に気が付いた。
休み時間になったみたい。
「駄目じゃないですか、お嬢様。授業中にお眠りしたら、不良になっちゃいますよ。」
「そうだな、先生に申し訳ないことをした。」
タマの言葉は最もだが、思い返してみると、こいつは同じ事をしたのを思い出した。
「まったくお嬢様はだらしないね、次に同じことがあったら、失礼ですかタマ、叩き起こしますよ。」
タマは調子に乗って何かを言っている。
「そうだな。出来ればさっきも叩き起こしてほしかったけど、どうしてしなかったの?」
「え、っと、タマはメイドなので、お嬢様を叩くなどとんでもない。」
「別に気にしないよ。タマなら許せる。」
「え、ホント!」
「本当だと思う?」タマを睨んだ。
「いいえ、違う、と思います。」少し汗をかいたタマ。
私は教科書を閉じ、鞄に入れて、次の教科書を取り出した。
確か、ま、「マリ」だったかな。変な名前。
「えっと、私より先に寝たタマ。」
「はい!?」
声のトンが少し高いぞ、タマ。私が気づいてないと思っているの?
「一つだけ、確認したい事がある。」
「はい!何なりと!」
「私が記憶喪失したことはもしかしてみんな知らないのか。」
「あぁ、そのぉ、『別に公にするような重要情報じゃないから』と旦那様が...」
そっか。だから皆は普通に接しているのか。
いや、少し冷たい感じがする。
周りの人はそれぞれと話し込んでいて、私のところに来る人は一人もいない。
転校生金髪妹の周りに人だかりが出来ている。私の友達もそこにいるのだろうか。
「タマ、悪い。もう一つ確認させて。」
「はい、何でしょう。」
「私に友達、いるのか。」
「あ、いや、その...」言葉を濁るタマ。
ありがとう、タマ。その態度だけで十分わかった。
「わ、私は今日初めてお嬢様の付き人になったので、昔のお嬢様をよくご存知ありません!」
誤魔化したタマ!
別に友達の有無に気にしていないのに、タマの小賢しさにちょっとイラッとくる。
「そっか。タマは知らないのか。友達いなさそうだもんなぁ、タマは。」
「え?いいえ、私は他のメイドととても仲がいいよ?」
「嘘でしょう。」
「嘘じゃないんです!『玉藻がいないと寂しいなぁ』とよく言われます。」
「だって、昔の私を知らないでしょう。」
「え、あ、いや...はい。」
「それはつまり、教えてくれる友達がない、ということじゃないか。」
「あ、いや、その...」視線を合わせてくれないタマ。
テンパっているタマを見て、私はため息一つ吐いた。
「タマ。」
「...はい。」
「タマの『隠し事』はバレバレだから、止めたほうがいいよ。」
「はい。」
「次に私に隠し事をしたら、キッツーイお仕置きが、あるかもよ。」
「ひっ、わかりました!」
タマは実に弄り甲斐があるので、おそらくこれからもどんどん弄ってしまうだろう。自分はSだろうか、そう考えると少し不安になる。
二限目の授業、「魔理」。担当先生は「広い女性」。
一限目の優しいけどめちゃくちゃ細い男性教諭の後だから、広い女性がますます「広く」見えた。
笑いを堪えて、私は「魔理」についてよく考えた。
名前から何らかの意味を見出せるものかと思ったが、どう考えても「魔理」の意味が分からない。
マリア?
ふっと意味不明の単語が脳内に出てきたが、すぐそれを捨てた。
教科書にも「魔理」としか書いていない。もう少し解りやすく書いてくれないかしら。
「では、皆さん。教科書の53ページを開いてください。」
言われたとおりに53ページを開いたが、そこには幾つの図と数多の文字が描かれていた。
私にとっては図と文字、それ以外の何物にも見えない。
「この図のように、魔力は一方通行のものであり、発した後戻す事はできません。」
いきなりはじめた!
え?前置きもなし?
「その為、無暗に魔法を使われないように、私たちの体には魔力制御する力がある。魔法を発動する際、私たちは呪文を唱える事によって、魔力を使うことが可能となる。そして今では魔法が進歩して、呪文がかなり短縮化できたので、その理由を研究した末に発明された『魔道具』も、実際に動作する時の原理は私たちが魔法を使う時の原理と同じ、従って固定の単語を唱えれば、『魔道具』はその瞬間からすでに動作し始めたのである。」
呪文?それはお前が今言っていた言葉のことか。
駄目だ。何を言っているのかが全然解らん。
「しかし、『魔道具』自体魔力を生まない為、人為的に魔力を与えないと動きません。そこで真っ先に世に出された『魔道具』は人が触れて魔力を与えてようやく動く『手動タイプ』。その原理は、触っている『魔道具』の場所に固定属性を通す接触面が付けられて、魔力注入と同時に注入された属性の比重が狂わないようにする事で、『魔道具』が正しく作動できる。」
空が青いなぁ。
タマはまた涎を垂らして寝ている。
「『手動タイプ』は使い勝手が悪いし、一時期コピー技術で制作されていたが、製造時に少しでも接触面の属性配分が間違えたら上手く発動できないか、思わぬ事故を起こしかねない。さらに時間が経つにつれて、接触面の摩損が酷くなって、殆どの『手動タイプ』はそこで廃棄される。このような事があって、今では『手動タイプ』が殆ど無く、『固定タイプ』が主流になっていた。」
空の雲、何で動かないだろう。風が無いからかしら。
お、タマが窓に頭ぶつけて起きた。偉いぞ、窓。
「『固定タイプ』は主に『手動タイプ』の属性注入方面の改進に力を入れていたが、もう一つの問題点:触れなければ動作しないについての研究も進み、魔力を保存できる『魔装タイプ』もこの時点で発明された。」
そんなに恨めしそうに窓を見つめないで、タマ。悪いのはお前のほうだから。
「その『魔装タイプ』の原理について...はい、守澄さん。」
「え!」
まさかいきなり点呼されると思わず、私はアホみたいに広い女性に向けて、口を半開けして止まった。
「どうしたの?いつも優等生の守澄さん?」
え、あれ、質問された?
しまった、質問そのものがわからない。
「窓の外はそんなに珍しいのか。それとも、ご自宅のメイドさんがそんなに面白いのか。」
「い、いいえ...」
「では、質問を答えてください。」
あれ?先生はどこまで進んだ?
私が右往左往している内に、隣から小さな声が飛んできた。
「お嬢様、『魔装タイプ』の原理。」
タマぁ、ありがとうぅ。
でもごめんね。
聞いてからわかったが、質問そのものがわかっても、答えはわからないんだ、私。
「どうしたの、守澄さん?」
「えっと、そのすみません。わかりません。」
「でしょうね、今から教える内容だからね。お前なら予習して答えられたかもしれないと思ったが、わからないならちゃんと授業に集中してください。」
「すみません...」
くそぉ...私、学園長の娘だからね。その気になれば、お前なんか「ちょちょいのちょい」だぞ。
うん?どういう意味だろう。
「では皆さん、次のページを開いてください。」
とりあえず真面目に授業を聞こう。
どうやら私は不良ではなく、その反対の「優等生」らしいから、頑張らなくちゃ。
しかし、その後の授業も結局頭に入らずに、私は真面目に聞く「フリ」をしてしまった。
まったくわからなかった。
「お嬢様大丈夫?」
「うん?何か?」
「その、目が死んでいらっしゃいます。」
それ、何語だよ。
「タマ、授業って難しいよね。」
「いいえ、そんな事ありませんよ。」
「え?タマ、授業わかるの?」
「まあ、割と簡単のほうなので。」
何だろ?タマは年上だから、私より物知りのはずだから、別におかしくないのに、何故か「悔しい」という気持ちが湧き上がった。
「はぁー、私、昔バカなのかな。」
「昔のお嬢様なら余裕でしたよ。」
「は?」
「ひっ!」
昔の私知ってんじゃん。やっぱさっきのは嘘だったな。
やめよ、タマに八つ当たりするのはよくない。
「タマ、さっきの話の続きなんだけど...」
「さっきの?」
「あ、いや...」
ちょっと語弊がある。
「私が記憶喪失の事なんだけど...」
「はい。」
「あれ、秘密にしてくれない?」
「え?どして?」
「まあ...なんとなく...?」
私、友達いないみたいだから、「記憶喪失」をばらしたら、なんだか同情を買っているみたいなので...それで友達が出来たら、お情けを頂いたみたいだから...
凄く嫌!
「はぁ...でも、それなりの人の数に知られているが。」
「その人達にもばらさないで欲しいので、ちょっと一っ走りに行ってほしい。」
「え?そこまでするの?」
「うん。」
「はぁ...」
「え?いやなの?」
「い、いいえ!そんな事ありません!」
「じゃあ、何でそんな嫌そうな顔をしているの?」
「『嫌』だなんて...お嬢様の為ならば、例え火の中・水の中、喜んで飛び込みましょう。」
調子のいいヤツ。
「しかし、そうすると次の授業にお嬢様の傍にいませんが...」
「いいよ。」
いてもいなくても同じだから。
「わっかりました!では、このタマめ、少しの間失礼イタシマス。」
そう言って、タマは外を出ようとした。
その時、私は周りのあまりの人の少なさに気づき、不意と次の授業は「練武」、というものを思い出した。
「ちょっと待て、タマ。」
「はい、何でしょう。」
急ブレーキしたタマは変なポーズのままこちらを見ている。
「次の授業は『練武』というものなんだが、あれはもしかして『着替え』がいるの?」
「はい、そうです。」
「悪いか、着替え終わるまで一緒に居て。やり方がわからないかも...」
「はぁ...わかりました?」
三限目の「練武」は「練武場」という場所で授業をするが、その前に各自着替えをしなければならない。
男子は教室で着替えるが、女子は「更衣室」で着替えなければならない。
それくらいの事はわかる。けど、何故か「更衣室」に行くのがとても新鮮な感じだ。
「更衣室」に着いた時、私は少し出遅れたみたい。中には誰もいない、おそらくもう着替え終わっているのだろう。
「さて、お嬢様、着替えましょう。」
タマはそう言って、そのまま何もせず、私を見つめるだけだった。
周りにロッカーもないし、私もタマも何も持ってきていない。
どうやって着替えればいいだろう。
「タマ、『着替え』を手伝ってくれ。」
「え?体操着に着替えるだけなのに?」
「あぁ、そうだ。着替え方を忘れた。」
「忘れた!嘘、胸の校章を押すだけだよ。」
へぇ、そうなんだ。
自分の左胸あたりを見て、すぐに胸に乗せている校章を見つけた。試しに押してみたら、何の反応も無かった。
「お嬢様、『換装』を言わないと着替えないよ。」
私はもう一度押して、「換装」と言った。すると、自分の今着ていた服が段々と形が変わり、最後は服そのものが消えた。
あれ?なんで?
背中から頭と指先まで突然の寒気に襲われ、次の瞬間全身が一気に熱くなった。
頭で上手く思考できないが、私は真っ先に両手で胸を庇い、速やかにしゃがんだ。
自分ではわからないが、おそらく悲鳴を発したのでしょう。
しゃがんだ後、少し余裕が出来たようなので、私はすぐ左右を隈なく見回った、眼が痛くなるほどしっかり周りを確認した。
そして、ようやく他の人が居ないことを確認できた私は、タマを睨みつけた。
「お嬢様!ちゃんと魔力を入れないと駄目じゃない!」タマは私と同じ慌てていた。
しかし、私も余裕がない。タマも同じく慌てているが、私は「魔力?どうやって!」と言って、怒鳴りつけた。
「その、体操着に着替えるのだから、まずは火1・水2・土5の属性を魔力に注ぎ込んで...」
「わかんないよ!わかんないよ!」
「落ち着いてお嬢様!ちゃんと魔力に属性を...」
「だからわかんないよ!早く何とかして!」
「あ、はい。」
タマは私と意味の無い叫び合いをやめて、私の左胸にあるほくろに自分の人差し指を当てた。
え?タマは何をしているの?それに、私はほくろなんで無かったはずなのに、何でいきなり胸にほくろが出来た?
疑問がまだ頭に留まっているうちに、タマは大声で「『換装』!」と叫んだ。すると、私の体の上に、何かに負われて、最後、それが服に変わった。
「これで、いいでしょうか、お嬢様。」
私はようやく自分の体に再び服に包まれた事に実感し、ゆっくり立ち上げた。
「これが、体操着?」
「はい、そうです。」
自分の体操着を見る。
首からお臍まで白銀の鎧、動きやすいが金属のスカート、篭手・脛当・脇立...
これは鎧ではないのか?しかもおへそを露出させているくらい、防御力の低そうな安い鎧。
「これが、体操着?」
うっかり、さっきの質問を聞き返してしまった。
「はい...そうです。」
聞き返されたタマは少し迷いを見せたが、やはり同じ返答をした。
「皆も同じ『体操着』?」
「はい。特殊の事情でもない限り、おそらく他の皆も同じタイプだと思う。」
体操着。
なんだか自分の中のイメージと違うようだが...
そうか、これが『体操着』なのだ。
私は納得した。そして、怒りがぶり返った。
「タマ!何で最初からこうしなかった?凄く恥ずかしかったからね!」
「でも、お嬢様。普通に魔力を入れたら、何らかの服に変わるはずだよ。」
え?そうなのか?
「『魔力を入れたら』、服になれるの?」
「はい。あ、いや、『なれる』ではなく『変わる』よ。」
そうか。
魔力を入れれば...
「どうやって入れるの?」とても単純の問題。
「え?普通に指先に魔力を集中したら...」
指先に魔力...?
タマの答えじゃわからないよ。
試しに自分の指に力を入れて、そのまま右手の人差し指を暫く見つめる。
おお、何だが本当に魔力を集中した感じがする。
私はそのまま自分の指を校章にもう一度当てて、「換装」と言って押した。
そして、服が段々と形が変わり、消えた。
「タマ!!!」
私は先と同じポーズをとって、またしゃがんだ。
タマはすぐさっきと同じ、私の胸のほくろを押して、「換装」と言った。
そして、私はまた体操着を身に着けた。
もう嫌だ!
「もう嫌だ!」
魔法なんで二度と使うものですか!
「タマ。」
「はい!」
「今後私の『着替え』は全てタマに任せるから。」
「え?どして?」
「理由を聞くな!」
少し強めに言ったら、タマが黙り込んだ。黙り込んで、頷いた。
私は二回深呼吸して、タマに「八つ当たりして、ごめん」と言った。それを聞いたタマは少し驚いた顔を見せてから、満面の笑みで「お嬢様!」と言って抱きついてきた。
私はタマを抑えられず、頬ずりされてしまった。危うく唇を奪われるところ、私はタマの頬を噛んで落ち着かせた。
「痛いです、お嬢様。」タマは頬を押さえて言った。
「自業自得。」私はタマを正視せず言葉を吐いた。
「いいか、タマ。さっき言ってた『私が記憶喪失』の事は、その事を知っている人達に『ばらさないでください』と頼んできて。そして必ず、授業が終わった頃に戻ってきて。私の着替えを頼む。以上!わかった?」
「わかりました!」
「よし!じゃあ、行ってこい!」
「はい!」そう言って、タマは走り出した。
タマは犬っぽいところもあるなぁ...
一、二限目の授業もタマは別に何もしなかったが、三限目が自分一人だと思うと、突然心細くなった。
タマ、早く帰ってきて...
急いで「練武場」という場所に駆けつけたら、授業はすでに始めていた。
ゴリラみたいな男性先生が何か言っている。
結構距離あるので、でっきり何も聞こえないと思ったが、最後の言葉だけが耳に入った。
「先日決まったペアでヤってください。」
その言葉の後、集まった「同級生」と呼ばれている人達は二人一ペアとなって、武器を用いて手合わせし始めた。
授業名を聞いた時、薄々気付いたけれど、やはり「戦い方」の授業だ。
出遅れた私は暫し他の生徒の動きを見ていた。
みんないい動きをしている、何せ私、殆ど何も見えなかった。
驚いたことに、ここの教師を含めて、全ての「人間」は誰も変なものをついていなかった。タマや早苗さんのような獣耳もないし、「爺」――名前聞くのを忘れた――のような鱗肌でもない。ぱっと見て、何も違和感はなかった。
そう思った次の瞬間、誰かが上まで飛んだ。その対戦相手は飛べていないが、飛んだ人を届くくらい高く跳び上げていた。
他の生徒も次々から他の一部を変化して手合わせていた。誰一人も普通の手合わせをしていないと思った。
そうか、これが「練武」か。
私は深く考えないようにして、まず先生を探した。
私には相棒がないもので...
先生は「練武場」端にある椅子に座ってた。両手で頭を後ろから抱えて、皆を見ていた。
この先生サボっていない?と思ってしまったが、きっとそういう教育方法でしょう。
「先生!」
私は走って先生のところへ来た。私の呼び声を聞こえた先生は一回こっちに目を向けて、すぐ椅子から立ち上げて、私を待った。
「も、守澄?退院したのですか。し、心配していたぞ。」
何故か少し声が震えている。
私は先生の前に立って、その巨体の前に先生を仰げて見つめた。
私にとって、彼はあまりにも大きい、手を伸ばしても顔に届かないかもしれない。
「あの...」私は一人ぼっちの自分がどうすればいいのかを聞こうとしたが、言葉は最後まで言えず、先生の声に遮られた。
「体の調子はもう大丈夫か。熱はないか。足は?腕は?手に擦り傷はないか...」
「ゴリラ」は喋りながら、私の体の所々を触った。少し嫌な感じだった。
「大丈夫ですから。もう大丈夫ですから。」
私は避けるようにゴリラ先生から2、3歩下がった。そしたらゴリラは私を触るのもやめたので一安心。
「先生、私はどうすればいいんですか。」
明言していないけど、「ハブられてます。何とかしてください」ということをゴリラに伝えた。
心の中で「ゴリラ」と呼んでいることも明言しないことにする。
「あ、そか。守澄は一人か。どうしよう?」
ゴリラは坊主に近いその頭を掻きながら考えた。そして、「そっか。もう一人居た」と独り言を発した。
「千条院、こっち来い。」
ゴリラの視線先を目を向く。そこに一人だけ金色の鎧を着て鍛錬している金髪妹がいた。
金髪妹はゴリラに呼ばれて、何も返事せず、黙々と歩いてきた。そして私の前に通った一瞬、鋭い視線を向けられたような感じがした。
「お前、ちょっと守澄のペアになって。」
ゴリラのその言葉に金髪妹が眉間にしわができたが、ゴリラはそれに気付かず、そのまま話を続けた。
「お互いにペアがないから一ペアにしたが、守澄はよく入院するほど体が弱いので、あまり無理をさせるな。全国チャンピョンならできるよな。」
「...」
金髪妹はどんどん不機嫌になっていくが、反論していない。
「じゃよろしく。」
ゴリラは無責任に他の生徒のところに行って、私と金髪妹だけがここに残された。
気まずい...
とりあえず私から挨拶をしてみた。
「えっと、こんにちは。」
金髪妹は何も喋らず、私を無視して元の場所に戻った。
クールな人だと思っていたけど、今の態度ちょっときつかった。
諦めずにもう一度アタック!
「あの、守澄、ナナエ、と言います、よろしければ...」
「チッ」舌打ちをした声が聞こえた。自分の耳がちょっと信じられなかった。
彼女は確かにクールだが、無愛想ではないはずだ。前の授業で観察したから、そのはずだ。
それとも、私が嫌いなのか?
どうして?
「千条院さん!」
もし、彼女は私が嫌いなら、その理由が知りたい。何せ私たちはまだ一度も話していないから、嫌いになる理由がないはず。
だから、自分が理由もなく嫌われたかもしれないと思うと...
イラッとくる。
「私は貴女のペアです。お相手を勤まらないかもしれないが、一所懸命頑張るので、よろしくお願いします。」
私は大声で彼女に話しかけて、彼女をまっすぐに見つめた。
誠意は十分込めたはずだ。
しかし、彼女は突然視線をこっちに振り向けてきて、その綺麗な青い瞳から怒りを見せたと同時に、右手に握っているレイピアの先端を私の喉に当てた。
「去ね、卑怯者。」
私は息をするのを忘れ、敵意を向けてきた彼女を恐怖した。彼女が再びレイピアを収めるまで、私は何も言えず、少しも動けずにいた。
そして、ようやく彼女がレイピアをどかした後、私の両足の力が抜かれた感じで、膝を前に向けて床に座り込んだ。
ようやく駆けつけてきたゴリラ先生は私の両肩を掴んで、そのまま「大丈夫か」と連呼しながら、私の全身を触った。
暫くゴリラにされるがままに全身をもまれたが、胸に触れそうになった瞬間、私はようやく自我を取り戻した。
私は自分の胸を守り、ゴリラから逃げ出した。ある程度距離をとったら、私は思い切りゴリラを睨み、「嫌!」と叫んだ。
ゴリラは周りを見て、「俺はただお前が心配しているだけだよ」といい人ぶって、私に手を伸ばした。
私はもちろんその手を掴まず、自力で立ち上げた。そして、「気分悪いので、保健室に行きます」と言って、「練武場」を出た。
まだ三限目なのに、今日は最悪だ。